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車椅子を押してくれるのは君なのかと思ったけれど、そういうことではないらしく、そういうつもりもないらしい。
どうせ二人きりではいられないのならわざわざ君に苦労を掛けたいとは思わないし、元々君だってそれほど筋力のある人ではないのだから、腕を痛めさせるわけにはいかない。
「君が隣を歩いてくれるのは、なんだか不思議な感覚です。とても幸せです」
後ろに君を感じる幸せもあるけれど、顔が見えるのはまた違う。
横を向いたら君の顔が見えるのは、幸せなのだ嬉しいのだ。
薄い言葉に聞こえるかもしれないけれど、ストレートな言葉の他に、僕の喜びを表現することはできない。
だから僕は心からの言葉を飾らずに伝える。
椅子ごと車に乗せられて、車は走り出す。
「思ったよりも揺れるのですね」
「気持ち悪いですか?」
「いえ、酔う方ではありませんし、揺れに関しては大丈夫ですよ。車椅子で砂利道を進むような、直でガタガタされるでもなければ」
「そんなことを言わないでください。それに関しては反省しているのです」
以前、散歩の道に君はなぜだか砂利道を選んだことがある。
いくら君の選択でも、さすがにそれはないと思ったものだ。
帰ってから、何度も謝ってくれたものだ。もちろん、君のことを怒るようなことがあったはずはないのだけれどね。
車の中では、あえて目的地の話はしないようにしていた。
だれも僕に話してこないということは、僕に対しては何も言いたいと思っていないということだ。誘導尋問には簡単に引っ掛かってくれるだろうけれど、だから話題にはしてはいけない。
話題にしてしまったら、その話の中でうっかり言ってしまうことだろう。
君はそういう人だ。僕たちはそういう人たちだ。
サプライズをそれで台無しにししまいたいわけがない。
「遠くへと行くつもりなのですね」
それだって気になってしまいはして、そうと言ってしまった。
気になるからと言って、引き出そうとするつもりはない。
むしろ引き出したくないと思っているくらいなのだ。
だが今になって話を変えられるわけもあるまい。
「ええ、そうですよ」
幸い君が答えたのはそれだけだった。君も君でわかっていたのだろう。




