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臆病者の可能性   作者: 御島 修
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第二話 病院での一幕

先に言います。今回、短いし内容薄いです。


夜空の月と星のみが照らす館の薄暗い廊下を一人の女がコツコツと底の高い靴の音を立てながら歩く。

夜空の光と女のスラリとした体躯は、妙に不気味な雰囲気を醸し出している。


女は、廊下の一番奥にある両開きの扉の前で立ち止まる。


コンコン


「入れ。」


女がノックをすると、中から低めの厚い声が返ってくる。


「失礼します。」


女は、部屋に入る。虎の毛皮や鹿の角など様々な狩猟品のかざられた、豪奢な部屋だ。

テーブルにある飲みかけのワインの深いブドウの香りが鼻をつつく。


女は慣れた足取りで部屋の最奥のベランダでキセルを吸う男に近づく。


「マスター、報告です。」


フゥー


マスターと呼ばれた男は大きく煙を吐き出した。


「日本の都心に放ったワイバーンの件ですが、現地の龍狩り(ドラグハント)白崖 十六夜(しろがけいざよい)によって処理されました。」


「白崖十六夜……確か、国家六位の大剣使いだったかな?」


「左様です。死者なし、負傷者が一人ということです。」


「ほぉ、今回は少し知能を持たせたんだが死者はなしとは大したものだな。」


男は感心の言葉をつぶやき、ベランダから離れ部屋のソファーに肩を預ける。


「それで、アレのほうはどうなっている?」


テーブルのワインに手を伸ばしながら男は問う。


「はい。非常に順調でございます。」


男は、女のその言葉に口角をつり上げた。その口元は夜空に浮かぶ三日月と同じ形をしていた。





「はーい、じゃあ息を吸い込んで下さーい。」


「は、はい。」


スゥー


月冴は、看護師の指示に従い息を大きく吸い込む。月冴は今、ワイバーンに切り裂かれた左腕の治療を行っている。


「少し痛みますよー。我慢してくださいねー。」


看護師は、月冴に声をかけ左腕の大きく開いた傷口に手を当てる。傷口をなぞるように摩っていく。


「グッ、痛ッ。」


月冴は、声を出しながらも出来るだけ腕を動かさないように堪える。


「はーい。終了ですよー。」


看護師は、月冴の左腕に固まりつつある血をやさしく拭きながら言った。


「あ、ありがとうございます。」


チャリン


月冴が服を着ようとすると、何かが落ちた。


「何かおちたよー。」


看護師が拾い上げる。


「ん?ペンダント?」


看護師の手には小さなペンダントが握られていた。中に何か入るタイプのものだが。月冴はまだ中身を見たことがない。


「ありがとうございます。あ、中が何かは僕も分かりませんよ。けど、お守りみたいなものなんです。」


看護師のいかにも気になると言った視線に月冴が答える。

このペンダントは、月冴が昔母から貰ったものだ。月冴は母との最後の繋がりとしてこのペンダントをとても大事にしている。


「それより、今のって何の治療なんですか?」


月冴は、疑問に思った。これまで父に迷惑を掛けないように怪我をしても病院に行くことはあまりなかったためこの治療を受けるのは初めてだ。


「あれ?君はこの治療初めて?」


「はい。」


「そうなんだー。この治療はねー、治癒師(ヒーラー)の免許を持った人しか出来ないんだよー。傷口を擦ることで細胞に働きかけて傷を治りやすくしているんだよー。」


「へぇー、この傷はどれくらいで治りますか?」


「ふっふーん!私の腕は良いほうだからこの傷だったら二週間くらいで治るんだよー。もっとも、国家ランカーくらいになると、これぐらい一瞬で治しちゃうんだけどねー。」


「この傷を、一瞬で……」


月冴は、国家ランカーのデタラメさを思い知った。ちなみに国家ランカーとは国家序列十位以内に名を連ねる者達のことだ。

その下にも国家序列は続いているが一般的にトップテンがランカーと呼ばれる。

ただでさえ無限石(ノヴァルクス)に適応できる人間は一握りだと言うのにその中でも更に優秀な者だけがたどり着ける国の頂点である。


「はーい。これくらいにしておきましょうね。もう戻っていいよー。」


看護師は、話をきりあげ治療の終了を告げる。


「あ、はい。ありがとうございました。」


月冴は、お礼を言って外に出た。

流石都市部の総合病院というべきか受付ホールは非常に広い。

月冴は、ホールのソファーに座って待っていたサングラスの男性に話しかけた。


「すみません。助けてもらったのに、病院まで紹介してもらって。」


「いえ、いいんですよ。」


話しかけられた男はサングラスを取って笑顔で答えた。爽やかな金髪に整った顔立ち、白崖十六夜その人である。


「しかしなぜ、君だけが対生物結界(アンチクリーチャー)の外に?」


「え、えーっと。それは……入りそびれたといいますか入れてもらえなかったといいますか……」


「入りそびれた?」


「え、ーと、まぁそんなところです。」


本当のことは、言えなかった。置き去りにされたなんて言ってしまったらいじめがバレて父に迷惑をかけてしまう。もしかしたらもっと酷くなってしまうかもしれない。それがどうしようもなく怖かった。


――クソ、なんで僕はこんな嘘を並べているんだ!


本当のことが言い出せない自分に月冴は嫌悪感を抱く。


「そうですか。」


そんな思考が表情に出ていたのか、十六夜はどこか察した様な表情をしていた。

そして、昔の自分を見るような目で十六夜は言った。


「君は、僕に似ていますね。」


「え……?」


月冴は何のことか分からずに疑問を浮かべる。


「いえ、そう言えば君は高校一年生でしたよね。」


十六夜は、あまり探られたくないのか話題を変える。


「あ、はい。」


「一ヶ月の無限石の試験頑張って下さいね。では、私はこの当たりで失礼します。」


「は、はい。今日はありがとうございました!」


十六夜は、最後に月冴を激励しサングラスをかけ直して病院を後にする。一応サングラスは変装のつもりらしい。


「僕も帰るか、それにしても今日はすごく疲れたなぁ。」


月冴も、病院の外へ出た。

もう既に空は暗く、輝く星と月がよく映えていた。





「ただいまー。」


月冴は、病院からバスを使い家まで帰っていていた。月冴の家は都心から少し離れた住宅街にある一軒家だ。


「おかえり、月冴今日大丈夫だったか?」


玄関を開け中に入るとすぐに父が駆けつけ、心配した口調で言った。


「あ、うん。怪我も治癒師(ヒーラー)の人に治療して貰ったし。」


「そうかぁ、良かった。病院まで行けなくてすまなかった。」


「いや、大丈夫だよ。父さんはいつも仕事遅くまであるんだし。」


「すまないな。飯はどうする?」


「今日はいいや。もう寝るよ。」


月冴は、二階の自分の部屋に戻り、ベッドに横たわりすぐに眠りに落ちた。



読んでいただきありがとうございます。

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