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臆病者の可能性   作者: 御島 修
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第一話 絶望の龍


ザワザワ ザワザワ


避難場所である体育館内では、生徒がクラスごとにならんでおり、人数確認を行っている。

生徒達は焦り、怯えからかざわつきがおさまらない。


――え?横田くん達がいない?


――はい。横田くんのグループ五人と希望くんが居ません。


――オイオイ、嘘だろこれは笑えないぞ。


基本的に放任主義で生徒と最低限の関わりしか持たずクラス内のいじめをいつもは見て見ぬふりの担任だが流石に月冴達を心配している。


担任は急いで職員の集まっている場所へ走る。


――一年四組総員四十名現在員三十四名六名の姿がありません!!


――なッ!!し、しかし今は……



ドーーーン!!!



突如、地が割れる様な地響きが鳴り響いた。体育館内は大きく揺れ、壁が軋む。


――キャーーー!!!


生徒達は悲鳴をあげ、ざわつきはいっそう大きくなる。



ギャオォォォォ!!!



咆哮、ワイバーンの甲高い鳴き声が生徒の恐怖を煽る。威嚇の様なその咆哮はただでさえ震えていた生徒を失神させるには十分だった。


――こ、これはやむを得ん。体育館の対生物結界(アンチクリーチャー)を展開する。


初老の小太りの校長がそう判断を下す。


――し、しかし対生物結界は……


――外にはまだ生徒がいるんですよ!!正気ですか、校長。


対生物結界(アンチクリーチャー)は、全ての生物から人間を守るために開発された結界である。

避難場所に指定されている場所には基本的に搭載されており、この結界は外から全ての生物を阻む。

人間も例外ではない。


――六人の命と三九四名の命残念ながら考えるまでもない。


――なッ!!た、確かにそうですが見捨てるなど!!


――応援は呼んである。今我々が外に出ても出来ることなどないよ。出来るのは願うことだけだ。


校長は、目を伏せながら壁にある緊急ボタンを押した。



『 外に熱源反応がありますが本当に対生物結界を展開しますか?《YES》《No》』



校長は、口元で小さく「すまない……」とつぶやき《YES》のボタンを押した。


『了解しました。対生物結界展開します。 』


機械的な音声が体育館に音響し、建物を囲う様にして半球のシールドが展開されてゆく。

緑色のシールドは、外と中を切り離す様にして展開されていった。





校舎の中から生徒の悲鳴が聞こえる中、月冴と横田グループは外に出ていた。

都会の学校とは思えない程に広いグラウンドを歩きながら周りの音に耳を傾けていた。

周辺の住民は既に避難を終えており校舎から離れるごとに小さくなってゆく悲鳴以外なにも聞こえない。


「いやに静かだな。オラ、ワイバーン来てみろよ。いい餌もあるぜ。」


ガハハハハ!!


五人が大きく笑う。

月冴は、逃げようと試みたがヤンキーの一人に肩を掴まれ一発腹に入れられ強制的に連れて来られている。


「お、あれじゃね?」


ひょろりとした身長の高い取り巻きが空を指さす。

そこには、大きな翼を広げ円を描くように飛んでいるワイバーンの姿があった。


「マジじゃん。でも降りてこないんじゃ話にならんだろ。」


「お、おい、そろそろ逃げとこうぜ。ほら、いつ襲ってくるかわかんねーしさ。」


横田のグループで二番目の権力を持つ片山が言う。

片山はいつも一番態度がデカいクセに大事になるとすぐに怯える。所謂チキンってやつだ。


「なんだよ~、カタッチビビっちゃってんの~?」


「び、ビビってねーし。」


ここでリーダーの横田が足を止めた。そして横田は空を見上げ声を上げる。


「ギャオォォォォ!」


ガハハハハハ


ワイバーンがしそうな鳴き声を大声で叫んだ。取り巻き達は横田の予想外の行動に声を上げて笑った。



ドーーーン!!!



刹那、耳が耐えきれない程の轟音と共に建物が崩れそうな程に揺れる大地。

月冴達は地面にくずれおちた。


ハァハァ


数秒後、全てを壊すような爆音がおさまったかと思うと、聞こえてきた荒々しい息づかい。


恐る恐る月冴達六人は顔を上げる。絶望という名の表情を浮かべながら。


「こ、いつが、ワイ、バーン。」


取り巻きの一人が辛うじて声を出す。いや、あまりの恐ろしさに声が漏れたと言ったほうが正しいだろうか。


――荒々しい鱗に包まれ、人間など何人も貫通しそうなほど鋭い鉤爪。前足から連なる大きな翼。蛇のように鋭く赤黒い双眸。その存在そのものが『絶望 』――


「に、に、逃げろぉぉぉぉぉ!!!」


片山は、失禁し顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら一目散に逃げ出した。



ギャオォォォォ!!!!



ワイバーンの咆哮。誰一人として動くことができない。片山はその場に跪く。


「もう、ダメだ。」


誰かがつぶやく。その言葉には全員が同意だろう。


「く、来るな!!」


少しずつ近寄ってくるワイバーンという『死 』が。


「おい!逃げるぞ!!」


横田は、誰よりもはやく正気を取り戻し仲間たちを導く。どうやら横田は唯のヤンキーではなく、意外と勇敢なヤンキーらしい。

横田に呼ばれほかの取り巻きも正気になる。そして立ち上がった。


月冴も立ち上がろうとするが


「希望、てめーは囮だ。」


横田にそう告げられる。


「え……、なっなんで!!」


月冴は、全力で抵抗する。


「どのみち!!全員は助からねぇ。囮は必要だ。いつも、俺らから逃げているお前が最も時間を稼げるはずだ。」


それは、横田の冷静であり最も効率的に多数が助かる正論だった。月冴は、何も言い返すことが出来なかった。


「お、おい!体育館に対生物結界が貼られ始めてる急げ!」


「希望、今まで色々すまなかった。後は頼む。」


「え……ま、まってよ……」


月冴の静止も聞かず横田達は走って行ってしまった。ワイバーンは、月冴のことを睨みつけ翼を広げた。


「くそッ、僕だって時間くらい稼いでやる。」


月冴はそう意気込み走り出した。いつも横田から逃げてきた月冴は逃げ足には自信がある。

月冴が走り出したと同時にワイバーンも空へ上がり月冴を追いかけ始めた。体育館とは反対方向へ走ったがすぐに追いつかれる。


ギャウゥゥ


ワイバーンは、鋭い鉤爪で月冴を狙う。月冴は、グラウンドの端の木の後に隠れ、ワイバーンの鉤爪の攻撃を放った瞬間に別の方向へと走り出す。

後ろでは木が倒れる音が聞こえ、ワイバーンの鉤爪の鋭さが物語られている。






「ハァハァ」


何度かワイバーンの攻撃を避けたところで、月冴の体力はもう限界だった。肩で息をし足はパンパンだ。


――もう少し、もう少し時間を……


ギャウゥゥ


――これを……避ければ!


放たれたワイバーンの鉤爪を月冴は、全力で懐の方向へ走り避けきった。


「なッ!!」


「がはっ!」


月冴の左腕に強烈な痛みが走る。脈を打つように血が流れ出す。

ワイバーンは、右の鉤爪でフェイントをかけ、本命の左爪で月冴の肉を裂いたのだ。

月冴は真っ赤に染まった左手を右手で抑える。

あまりの痛みに月冴はうずくまった。


ワイバーンは、最後となるであろう鉤爪を振り下ろす。

その瞬間、月冴は世界がスローになった気がした。


――こんなところで、僕は終わるのか?

父さんに恩返し出来ないまま、

家族がバラバラのまま、

いじめてきた奴らに使われたままッ!!

ダメだ!絶対に!

何も出来ずに臆病な自分を変えることができ

ずに終わりたくない!

可能性を信じろ!僕が生きる可能性を!――


月冴は信じた。自分が生き延びるための全ての可能性を。


ガキィン!


ワイバーンの攻撃が何者かに防がれた。


「危なかったですね。間に合って良かったです。」


どこか聞き覚えのある声。月冴は顔を上げた。

そこには、この国で知らない人はいないであろう有名人がいた。月冴は思わず声を漏らす。


龍狩り(ドラグハント)国家序列第六位『白虎 』白崖 十六夜(しろがけいざよい)……」


白銀の大剣でワイバーンの爪を防ぎながら十六夜は返答する。


「自分のことをご存知ですか。うれしいことです。」


白いマントを纏った金髪の青年は、口元で何かを呟いた。

すると、持っていた大剣が勇ましい大虎になった。


「す、すごい……」


十六夜は、大虎にまたがりワイバーンの翼を登り飛び上がった。

空中でまた何かを呟き大虎が大剣に戻る。十六夜が天空から大剣を振り下し、ワイバーンを真っ二つに切り裂いた。


「これが……龍狩り(ドラグハント)……」


月冴は自らの怪我も忘れてその剣戟に見とれていた。



読んでいただきありがとうございます。

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