第三話 「そんなわけで出会いたくないのに出会った」
大きな爆発音と立ち上る黒煙を見上げ一体何があったのか考えながら少しでも近くまで行ってから自転車を降りて近づこうと思っていたんだけど僕と同じ野次馬根性に溢れた人たちがうじゃうじゃと群がって全く進めそうになくなっていたのでよく行くゲームセンターの駐輪場に自転車を置いて鍵をしっかりかけたのを確認してから炎に照らされて浮かび上がる黒煙を頼りに、なるべく人が少ない道を探しつつもっと近くにいくために僕は小走りに走っていた。
「だいぶ、近づいてきたな・・・・・」
移動中にぽつぽつと雨粒が頬を叩いていたが少しずつ勢いを増してきていた。
しばらく走っていると消防車や救急車、それに警察のパトカーが数台止まっており消火活動やら人命救助に必死になって職務を全うしている消防士と救急救命士、野次馬が危険地帯に進まないようにドラマでよく見る黄色いテープをマラソンのゴールテープのように道路を塞ぐように張ったりしている警察官の人たちが目に入った。
野次馬に目をやると僕と同じように何が起こったのかが気になって様子を伺う人、スマホ片手に事件?現場を映像に残そうとする人。テレビ局の人たちが来たら自分たちが映るんじゃないかと単純に目立ちたいだけの人たち。色んな人たちがテープギリギリまで近づいていた。
もちろん、テープの傍には警察官が立っていて
「危ないですから下がって下さい!」と注意を促していた。
だが、僕の住む街は自慢じゃないが殺人事件はもちろん交通事故、窃盗などという事件が全くといいほど起きたことの無い平和としか云いようのない程平和ボケした街だったりするのだ。
そんな街でこんな爆発が起きたらそりゃみんな驚いて集まるに決まってる。
「どこかにもっと近くまで行ける場所ないかな・・・・・・?」
僕は辺りを見渡しているとテープの張られた場所から少しだけ離れた場所の近くに小さい町工場と民家との間に通れそうな隙間に気づいた。
「あれくらいなら僕でも通れる・・・・・・かな?」
と、考えてるうちにまた大きな爆発音が轟き、皆そちらに気を取られて警官も注意がそちらに向いているようだったので僕はその隙をついて先ほど見つけた隙間に体をねじ込み黒煙の元へと服をブロック塀にこすらせながら向かった。
そして、通り抜ける前に顔だけ突き出して左右確認、案の定警官やら消防士やらがいそいそと走り回っていた。視線だけを動かすと結構裕福な家であったのだろう大きなガレージ付きの豪邸らしきだったものの残骸がそこら中にはじけ飛んでいた。そして家そのものからは黒煙が上がっていた。
「うわ・・・・・・酷いな」
原型を留めないほどに滅茶苦茶になった高級車、二階建てだったのだろがその二階部分が根本から吹き飛んでいたり酷い有り様だった。
と、その時未だ勢いを増す炎と黒煙の中から何かが動いた。
「ん?」
それはゆっくりと姿を現した、炎に照らされて浮かぶシルエットは黒く鋭角的なイメージを与える甲冑。肩や頭部がやたら尖っており視界を確保する隙間らしきものもなく視覚はどこで得ているのか全く見当がつかなかった。
そいつの姿を捉えた警官が数人、呼びかけたりするが無反応。周囲を見渡し何かを探しているようだった。
無反応の甲冑に近づいていく数人の警官、ひとまず事情聴取でもしようというつもりなのだろう。
だが、それは叶わなかった。甲冑は右手を無造作に振ると警官の腕を切り落として次に左側にいた警官にも同じように左手を振り腕を切り飛ばした。
途端上がる絶叫。僕自身も余りにも日常では見ることのない惨状に足が竦んで塀の間で固まったままだった。
悲鳴を上げる警官が鬱陶しくなったのか半狂乱になってのたうち回る警官の顔を足でスイカか何かのように簡単に踏み潰し路上に大量の血をぶちまける。返り血を気にも留めず警官の死体をまさぐり拳銃を引き抜くとほかにも数人いた警官に発砲。弾切れになると投げ捨て別の死体からまた引き抜いて足などに当たって動けないでいる警官に対して顔を掴んで握り潰すなどして近くにいた警官たちは皆殺されてしまった。
そして僕自身は一人目の警官が踏み潰されるのを見て吐き気を堪え切れず足元に盛大に吐いていた。
「あ、ああ・・・・・・なんなんだ・・・・・・いったい・・・・・・」
そして死体だらけになった周囲を睥睨した甲冑が僕を見つけるとゆっくりと近づいてきた。
「ひっ・・・・・・」
逃げようとするが服が擦れるほどの狭さの塀を早く抜けるなど出来るはずもないしそもそも足が震えて一歩も歩けずに立ちすくんでしまっている僕には何も出来ずに甲冑が近づいてくるのをただ震えながら見ていることしか出来なかった。
「た・・・・・・助け・・・・・・」
僕は震える声で命乞いをした。
「死にたくない・・・・・・っ!」
甲冑が僕の顔を掴んで持ち上げる、地面から足が離れて一層恐怖が押し寄せる。
僕の顔を掴む手に、力が入るのを感じる、震える体と溢れだす涙。
死を覚悟した。
その時だった。何かが当たる音が響くと顔の圧迫感が消えそのまま地面に落ちる。
「っつう・・・・・な、なんだ・・・・・・?」
涙でぼやける視界に映ったのは切り落とされた甲冑の右手だった。
「っ・・・!?」
甲冑は既に僕よりも自分の手を切り落とした相手を探して僕から距離を取り周囲を警戒していた。
「今度はなんなんだ・・・・・・?」
「そこのあなた、早く逃げなさい」
声のした方を向くとそこには華奢でどこかの高校の制服を着た女の子が不釣り合いな身の丈以上の剣を構えて立っていた。
「なんでこんなとこに女の子が・・・・・・? ていうか君のもってるそれはなんなの?」
「聞こえなかったの? 私は逃げろって言ったの」
苛立ちを隠そうともせず女の子は僕に催促して来た。
「ご、ごめん・・・・・・そうしたいんだけど・・・・・・足が竦んで立てないんだ・・・・・・」
「ちっ・・・・・・仕方ないわね。 だったら速攻で終わらせるしかないか」
女の子はそういうと体を低くし一気に甲冑に向かって肉薄する。
甲冑はその動作に狼狽えず冷静に剣の軌道を読み紙一重で躱してつつ時折無事な左手の指を槍のように構えて突き出し女の子を刺殺しようと反撃している。女の子はスカートが翻るのも気にせずヒラヒラと縦横無尽に甲冑のその反撃を受け流しつつ余裕の表情で相手取っていた。
何度か交錯を繰り返していると再び数人の足音が聞こえてきた。
それを聞いた甲冑は大きく後方に跳躍するとそのまま夜の闇に消えていった。
「私もここらで引き上げた方が良さそうね」
女の子は甲冑が退いたのを確認すると警戒を解いて剣を下ろす。そして剣が光の粒子になって消えた。
小さく息を吐くと女の子は座り込んだままの僕の目の前まで歩いてきてから口を開いた。
「今日あったことは忘れた方がいいわ。 なにを聞かれても分かりませんって言っておいたほうがいいわね、そして」
一度言葉を止め女の子は視線を僕の顔から下へ移して続けた。
「漏らしてるみたいだから、早く着替えた方がいいわよ」
視線を股間にやると、言われた通り見事に漏らしていた。
「それじゃ」
短く言うと女の子も建物の屋根に飛び移り移動していった。
「青か・・・・・・」
死にそうな目にあってもパンツチェックだけは怠らない僕の図太さに自分自身呆れつつ僕はいくらか落ちついた動悸を感じつつゆっくりと立ち上がり警官たちが来る前に再び元来た道を戻って帰路についたのだった。
そいつは春にしてはまだ肌寒く朝から小雨が降り続けてより一層冷たく見えるアスファルトにうつ伏せで倒れ込んでいた。
倒れているので正確には分からないが170cmある俺より少し小さいか同じくらいの身長、髪は腰まで届く黒髪が濡れていてなんだか色っぽくちょっとときめいたのは内緒。うつ伏せでも体の曲線から結構なスタイルの女であることはなんとなく把握した。だが理解できないことが一つある。
「なんでこう現代日本は人が道端で倒れてれる事件ばっかあんだよ・・・・・・」
とりあえず、不審に思いながらも抱き起こすために体を密着させると、それはそれは今まで嗅いだ事のないフローラルな香りが鼻腔を擽り、少しばかり動揺するがまずは意識の確認が先だ。
「あのー大丈夫ですか? 起きられますかねー?」
顔を見るとさらに驚いた、透き通るような白い肌に桜色の艶やかな唇、伏せられていてわからないがきっと瞳も魅力的な女なんだろうと直感で感じた。
これが俺、川島拓斗とこの女の出会いだった。
えらい久しぶりに更新、もはや待ってる人なんていないだろうけど書きたくなったので・・・・投稿します。