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最終話「新たな世界」

 甲冑と法子さんが即席コンビネーションを発揮しリザードマンを追い込んで、攻撃の捌き方を見誤ったリザードマンの胴に甲冑の槍が深々と刺さり、それが致命傷となってそのまま仰向けに倒れた。

 甲冑は刺さったままの槍を引き抜くと、リザードマンの事など既に無かったかのように無造作に法子さんへ槍の穂先を向けて構える。


「少しは休ませなさいよって言いたいけど……まあ、そうなるわよね」


 肩で息をしながらも甲冑に向き直り剣を構え直す法子さん。 離れていても分かるほどリザードマンとの戦闘で体力を消耗しているのは明白だった。


「無茶だよ法子さんっ! 一旦逃げようよっ!」

「……逃げる? 冗談じゃないわ、私はこいつを倒してあんたに降参させて最後の一人になってやるんだから」


 法子さんが言い終わると同時に甲冑が地面を蹴りつけ一気に間合いを詰め、槍を突き出し法子さんを貫きに来る。 が、法子さんは体力を温存するために必要最低限の動きで槍を捌いていく。

 だがそれは致命傷を避けているだけで、確実に服が裂け、綺麗な肌に切り傷が刻まれていく。


「嫁入り前の身体にこれ以上傷つけんじゃないわよっ!」


 法子さんは躱すだけの動きから一転、攻める立ち回りに切り替え甲冑の懐に入り込み頑丈そうな甲冑の鎧の可動部分である関節に狙いを絞り斬撃を放っていく。 しかし甲冑もかなりの場数を踏んできた強者だけあり法子さんの攻撃を器用に体の動きや槍で躱し、逸らしを駆使し致命傷を避けていく。


 そんな熾烈な戦いを他所に僕はふと疑問に思った事を呟いた。


「あれ、そういや甲冑の中身ってどうなってんだろ」


 僕は知的好奇心から透視を発動させ甲冑の中を覗く。 すると目に入ってきたのは法子さんと負けず劣らずの美女だった。


「うそ、あんな美人なお姉さんだったんだ……」


 僕が意外な甲冑の正体を知り驚いていると、二人の戦闘に変化があった。 甲冑の動きが少しずつだが動きに精彩が見えなくなってきたのだ。 それもそうだろう彼女だってかなりの戦闘をこの場所で繰り広げてきているはずなのだ、疲れないはずがない。

 その様子を見て、法子さんが一気に攻める速度を上げた。


「……え?」


 間の抜けた声を上げたのは僕だったか法子さんだったかそれとも二人ともか、わからないがそんな声が思わず漏れてしまった。 動きが緩慢になった甲冑の立ち回りをに対し精神的有利を得た法子さんの少々大振りな斬撃を容易く潜り抜け甲冑が先ほどのリザードマンとの戦闘のように法子さんのお腹に槍を突き刺したのだ。

 槍を引き抜き血を払うため大振りに槍を払う甲冑に対し突然の致命傷を負い放心状態のまま崩れ落ちる法子さん。


「法子さんっ!」


 思わず叫ぶがそんな事をしても法子さんの傷が塞がるわけでもない。 ただそうするしかない僕に標的を変えた甲冑がゆっくりと近づいてくる。 僕が戦闘向きの力を持っていないと確信しているのか歩いてくる動作に焦りや緊張といったものは一切感じられず散歩でもしているかのようだった。


「ひっ!?」


 思わず後ずさる僕。 迫る甲冑。 

 だがそこで信じられない光景が甲冑の後ろに見えた。


「……うそ……だろ? ほう……こさん?」


 腹から大量の血を垂れ流し、ふらつきながらも再び立ち上がり剣を構えて甲冑の背中を睨みつける法子さんの姿があった。


僕の視線に気づき甲冑が後ろを振り返ろうとしたが、法子さんはそれよりも早く間合いを詰め剣を喉元に突き刺した。


「どうよ……私の剣は」


 甲冑は事切れて力なく構えを取ろうとしていた槍を落として項垂れるように法子さんへ倒れ込む。 瀕死の法子さんが支え切れるわけもなくそのまま仰向けに倒れこんだ法子さんへ僕は駆け寄った。


「法子さん! 大丈夫……なわけないよね。 待ってて! 今救急車――」

「いいわよそんなの……もう助からないから」


 覆いかぶさるように法子さんに倒れ込んだ甲冑をなんとかどかして法子さんに話しかけるがあまりの出血で動転した僕は救急車を呼ぼうとスマホを取り出そうとするのだが法子さんに袖を掴まれて止められた。


「でも……でもっ!」

「あーあ、こんな怪我しなきゃあんたに降参させて私が生き残ってさ……叶えたいことあったのにな」

「大丈夫だよ、こんな傷すぐ治るよ! そしたら僕は降参するからさ!」

「はは、嘘が下手だなぁお漏らし君……は……」


 法子さんは何処か遠くを見るようにして息を引き取った。

 そして僕は法子さんの目を閉じてやると立ち上がって瓦礫を椅子代わりにして座っていたゼロに近づきながら手元のオブジェクトを改めて確認すると表示は1になっていた。


「おめでとう、君が最後の勝利者だ」

「僕の願い事を叶えてくれるんだろ?」

「せっかちさんだね。 そうだよ。 さぁ……君の願い事はなに?」


 小首を傾げながら僕に問いかけてくるゼロ。 その表情はこの惨状には場違いなほど明るく綺麗で異常だった。


「僕の願い事は、君とスケベな事をすること」

「スケベ……? ああ、要するにこの星で言う生殖行為だね? 別にいいけどそんなことでいいの?」

「僕はそれだけのためにここまで来た。 それ以上は正直なにも考えてなかった」

「君のパートナーだった彼女が死んだ、仲間が死んだ。 それでもその自分の欲求を叶えることを優先する君の思考も随分とこの星の価値観からは逸脱しているね。 興味深い」


 ゼロは瓦礫から立ち上がり僕の目の前に飛び降りて言葉を続ける。


「君の願いである『スケベをする』を叶えてあげる。 そして私は君が気に入ったわ。 だからスケベしたあとは私と一緒に旅をしない? あらゆる次元、あらゆる世界を……私と共に」

「あらゆる次元? ってことはやっぱり君はただの人間じゃない?」

「そうよ、今の私の姿はこの時代の人間の基準に当てはめて構築された肉体なの。 本来の私に決まった形は存在しないの……すごい残念そうな顔をするのね」


 膝から崩れ落ちる僕に優しく手を差し伸べてくるゼロはニッコリと笑いながら話を続ける。


「心配しないで、君が私と一緒にいるのに飽きるまでこの姿で居るわ。 もちろんスケベがしたくなったらいくらでも相手もするわよ? さ、選んで頂戴。 私と行くか行かないか」

「い……イクよ! どこまでだってイクよっ!」

「ふふっ……それじゃひとまずここじゃ人が来ちゃうし用は済んだから次の世界へ行きましょうか」


 僕の返事に満足そうな笑顔を浮かべたゼロは宙に向かって手を翳すと虹色に光る光の渦を作り出してそれに向かって歩き出した。 途中で振り向いて手招きする。


「それじゃいきましょう? 新たな世界へ」


 僕は誘われるがままその渦に飛び込んだ。 そして大人の階段を上り、沢山の経験を積みゼロと共に無限に広がる沢山の世界を見て回る旅が始まったのだ。





お待たせしました。 僕とゼロのオブジェクト完結でございます。 

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