第二十二話「最後に残るのは絶望か希望か、それとも」
遅れましたすいません。
法子さんと二人で無言のまま歩き続けると、視界が開け結構大きめな競技場のグラウンドに出た。そのグラウンドに隣接するリレーなどで使われる外周に一度しか会ってなかったレイシアさんが傷だらけで片膝をつき息を乱していた。
「レイシアさん!」
法子さんが僕より先にレイシアさんに駆け寄っていく。少し遅れて僕もレイシアさんの元へ駆け出す。かなり消耗しているようで法子さんの声には気づいているようだったけど顔を少し動かす程度で顔合わせした時の大人の色気を漂わせる妖艶さはなかった。
「ああ、法子ちゃん・・・・・・と坊やか」
「傷だらけじゃない! 誰にやられたの!?」
法子さんはレイシアさんの傷の具合を見ながら問いかえる、するとレイシアさんはゆっくりと仰向けに倒れる。
「もうだめみたい。 なんかね? 守くんみたいな感じの鎧の奴に襲われてさ」
なんでもない事のようにヘラヘラと笑いながら話すレイシアさんだったが、どんどん声が弱弱しくなっていく、改めて見れば腹部に何かを突きさされたような傷がありそこからの出血が酷く限りなく薄いレイシアさんの服を真っ赤に染め上げていた。
「鎧・・・・・・」
「間違いなく、この間のあいつだね」
「気をつけてね。二人とも、幸運を・・・・・・いの・・・・・・てる・・・・・・わ」
仰向けのまま虚空を見つめながら言葉を残しレイシアさんの瞳から光が消えた。 法子さんはレイシアさんの目を閉じてやると立ち上がり静かな声で僕に話しかける。
「行きましょう。 必ずこの手でアイツを殺してやるわ」
「・・・・・・うん」
法子さんとレイシアさんは僕の知らない所で仲が良かったのだろうか、それを今このタイミングで聞くのも憚られるのであえて口にせず僕は法子さんの前に出て能力を使い走り出そうとした。
その時だった。 法子さんが僕の腕を力任せに引っ張り後ろに下がらせると少し離れた別の通路へと続く扉が何かによって吹き飛ばされ瓦礫が散乱し煙を上げる。
その煙を押しのけるようにして例の甲冑とデカいトカゲ、二足歩行しているのでリザードマンというやつだろうか・・・・・・が息もつかせぬ攻防を繰り広げて飛び出してきた。
「アイツだっ!!」
法子さんは剣を構えて一直線に甲冑へと切りかかっていく。 対する甲冑はリザードマンに集中しているのか法子さんに背を向けたまま巨大な爪や牙を受け止めたり逆に反撃したりと余裕はなさそうだ。
「アンタは私が殺すっ!」
法子さんが数メートルの距離まで接近したところで甲冑はリザードマンの攻撃を躱し、足や手を引っかけて迫りくる法子さんの方へリザードマンを誘導してよろけた体勢のそいつの腹に強烈な蹴りを叩き込み法子さんへ砲弾のように吹っ飛ばした。
「邪魔・・・・・・するなぁ!」
法子さんが唸り飛んでくるリザードマンを切り払おうとするが飛ばされている最中に即座に向きを変え甲冑が自分を法子さんの攻撃から守るための盾に使うという意図を察したのか法子さんの攻撃を無理やり受け止めそのまま体を捻り尻尾を叩きつけた。
「っっぐ!?」
勢いよくグラウンドへ吹き飛んだ法子さんへ駆け寄ろうとするが法子さんが手を広げてこちらに向けながら叫ぶ。
「来ないで! だい・・・・・・じょうぶだからっ!」
口の中を切ったのか血が垂れるのを乱暴に手で拭いながら立ち上がる法子さん。 目には闘志と殺意がみなぎり視線だけで射殺しそうな気さえするほどの威圧感を放っていた。