第十八話「弱肉強食ってやつ」
守さんの意識はもう欠片も残ってないようで目は虚ろで心ここにあらずといっているのだが動きだけは洗練されて確実に法子さんを仕留めようと手に持った槍を巧みに使いこなし襲い掛かる。
「自分では何もせず、ただ見てるだけってのは随分と良い趣味ね」
「いやぁだってほら、暴力は嫌いなんだよね。 自分が誰かを殴ったり蹴ったりすると自分が痛かったり疲れたりするしねぇ・・・・・・それだったら他の誰かをけしかけて代わりにやってもらった方が気分が良い」
法子さんの挑発もどこ吹く風と言わんばかりにニヤニヤ顔を止めず自分がいかに楽をするかと考えているかを得意げに話すこの男。 なんかムカつくなって思ったら、僕とやってることが近いからか。 僕の場合は戦闘は全く向いてないから強いと思った法子さんに協力するフリをしてどんどんライバルを蹴落としてもらって最後の最後に僕が法子さんをなんとか倒すか降参させ最後の一人になり、願いを叶えようとしているのだ。
「客観的に見たらこいつと僕は同類だよな・・・・・・」
小さくぼやきながら法子さんと守さんの攻防を見ているしかない僕は意識をそちらから男の表情や動きなどを暗視やらなにやら色々と覚醒した目の能力でしっかり監視することに向けた。
「他の操ってる人たちも、もうすぐこっちに来るけど、大丈夫? 君よく見たら凄い美人だね? その制服似合ってるねぇ。 降参して俺の女になるなら殺さないであげるよ?」
「だれが! ていうかそんなこと言うってことはどうせ、この会社の美人な女の人に手ぇ出しまくってるんでしょ?」
軽蔑の眼差しを送りつつ守さんに蹴りを入れ間合いを広げつつ提案を退ける法子さん。
それをバレたかと額に手をやり余計に顔をニヤつかせて笑う男は得意げに両手を広げ答えた。
「うん、その通り! この会社の好みの女は独身も人妻も美味しく頂きました! 実に素晴らしい夜を過ごしているよ。 ちなみに昨日は人妻と激しく朝まで楽しませてもらってねえ、いやあ良かったよ」
などと昨日の情事を思い出してうっとりしている男。 くそなんてうらや・・・・・・けしからん男だ!
「・・・・・・最低、あなたは絶対地獄に落とすわ」
「そっかぁ残念だよ。 じゃあそろそろ死んでね」
男は指を弾くと今までの動きが手加減でもしていたかのように守さんの動きが速くなり法子さんが押されだした。
「くっ! なんでいきなりこんな」
「人間の身体には常にリミッターがかかってるって話聞いた事あるだろ? それを今洗脳でこじ開けてあげたのさ。 まあその反動でどうなるかは知らないけど」
ご丁寧に説明しつつ口笛を吹いて成り行きを見守る気でいる男。
と、そこへ月明かりが一瞬途切れ、何事かと思ってそちらに目をやると自己紹介を結局聞かずに終わった大きな鷲が窓ガラスをぶち破り足の爪で男をむんずと鷲掴みにして引きずり出しそのまま空中で離し真っ逆さまに落ちていく男。
途端、聞こえる大絶叫、数秒後糸が切れたように守さんが倒れ込み駆け寄ると呻きながら意識を取り戻した。
「わりぃ。 足引っ張っちまった」
「そんなことないわ。 あの男は今死んだわ」
そうかと呟き、守さんはため息をつくと鎧を解除し立ち上がる。
「ま、なんにせよ。 迷惑かけたってのは事実だ。 詫びって事で牛丼でも食いにいいかねえか?」
「こんな時間に牛丼なんて不健康だわ」
守さんの提案に生真面目な意見を言う法子さんだったが、思いっきりお腹の音が鳴り響いた。
「いきましょ。 ネギ玉牛丼大盛りがいいわ」
顔を真っ赤にしつつ僕と守さんを置いてスタスタと歩き出す法子さん。 その後ろをゲラゲラと笑いながらついていく僕たち。
「あ、あの僕は・・・・・・?」
寂しそうな誰かの声がしたけど、きっと気のせいだろう。