第十六話「パニック映画的なあれ」
途中の堂君の言葉は堂君の個人的なイメージです。真面目に警備している方がもしこれを読まれて「警備員なめんじゃねえぞぼけええ!」って気分を害された方が居たらごめんなさい。
二日後法子さんから連れてこられた大きな建物で簡単な現状報告が行われ最初に法子さんから紹介された人たちも順調に勝ち残っているらしくオブジェクトで確認できる参加者の数は半数を切っていた。
そして、法子さんもオブジェクトから得られる力が増したようで身体能力強化という系統は変わらず、ただその強化される度合いが以前とは比べ物にならないくらい強力な物になった。
「私は剣を召喚する能力と基本的な身体能力だけが上がっただけなのに、ほんとに君のその能力の拡張の幅は末恐ろしいわね」
「僕が見える分にはいいんだけどそれをどう法子さんの戦闘に役立てていくかが僕にとっては問題だけどね」
そう、僕がオブジェクトから得られた力は目、視覚に関する能力なのだがあれからも何度か戦闘を経験していくうちにいくつか能力が増えたのだった。
「それはあなた一人で考えないでいいわ、前衛の私が戦いやすいようにあなたに指示を出すからあなたはこの間の甲冑の時のように何か気づいた時しっかり私に伝えてくれればそれで大丈夫よ」
「うん、ありがとう。 法子さんはやっぱり優しいね」
「べ、別に優しくなんてないわよ。 誰だって得意不得意適材適所ってのがあるんだからそれを言っただけよ」
若干顔を赤くしそっぽを向く法子さん、この人ほんとちょろいな。このまま勝ち残り続けていけばいずれあの人たちとも戦う事になるだろうし、甲冑とだって戦うだろう。 拓斗が参加者ではない事を祈りつつ僕は次の戦闘も無事に終える事を願っていた。
場所は変わり、夜間警備員が欠伸交じりに時折ライトであちこちを照らしながらかったるそうに見回りしているであろうそんな深夜帯の大きなビル。
その屋上に僕と法子さんとこの間自己紹介した鎧の力を得た守さんの三人でこれから突入するのだ。今回はオブジェクトの力で僕が透視を行い大体の敵の位置は特定してあるのでそこに向かって法子さんと守さんがカチコミを掛ける流れだ。
「しっかし、ちょっと会わない間にお前らちゃんとコンビって雰囲気になってんのな? あれか、実はお前ら付き合って――」
「ません!」
守さんのちゃかしに馬鹿正直に反論する法子さん。今までいろんな戦闘で色んな建物を壊してきたけどここまで大きなビルで戦闘を行い破壊してしまう事になってしまうという事に対して緊張しているのを守さんなりに紛らわせようとしてくれてるんだろう、流石社会人で年長者だ。
「そっかそっか、もし付き合う事になったらちゃんと報告しろよ? 盛大に祝ってやるからよ」
「はいはい、そんなことには一生ならないだろうけどね」
「そこまで否定するんだ・・・・・・」
法子さんの全否定に流石にゼロ一筋の僕でも若干傷付き方を落としていると法子さんが背中を叩いた。
「恋人とかそういうのにはなるつもりはないけど、コンビとしてはちゃんと認めてるわ。 それともあなたは私と恋人になりたいの?」
「誰かに認めて貰ってるって感覚っていいですね、守さん」
「へへ、確かにな。 その信頼を裏切るなよ? 少年」
「はい!」
僕と守さんが肩を並べて和気あいあいと屋上から階下に降りるドアを開けて歩いていくと後ろから不満そうな法子さんが面白くなさそうな顔をして付いてきた。
「ちょっと! あなたが前を歩いてどうするのよ! 私が前衛でしょ!」
少し頬を膨らませて僕のすぐ後ろに寄ってくる法子さんが軽く僕の背中を小突いてきた。
「あはは、ごめんごめん。 法子さんが僕をコンビとして認めてくれたのが自分が思ってる以上に嬉しかったみたいでさ」
そんな緩みきった空気を追いやるのに十分な物が目の前に現れた。
「これって・・・・・・撮影か何か?」
「んなわけないだろ、構えろ!」
法子さんが呆けて、守さんが叱咤する。
目の前には、目の焦点が合ってないスーツ姿の男女が適当なパイプ椅子やらカッターやらを持ってこちらに向かってゆっくりと近づいてきていた。
パニック映画的なあれって自分が遭遇したら相手しないでひたすら逃げる場所を探してるうちにだんだん力尽きて掴まって食われて仲間入りする自信しかない。