束の間に会いましょう
人間が定義する時間の中で、『束の間』という時間がある。原因にも過程にも結果にもならない、記憶や認識から切り取られてしまう意味のない時間のことだ。
過ぎ去ってしまったものも未だ来ていないものも、時間というものは途方もなくあるものだから、ほとんどは束の間となって過ぎる。
この屋上で君と向かい合っているこの時間も大部分は束の間になるのだろう。長すぎる沈黙に耐えかねた太陽が顔を出し、夜明けを告げるように一筋の朝日が君に触れる。ゆっくりと瞬きをする君の頬に見えない涙が流れているようだった。彼女は僕よりも頭がいい。もう既に僕の言うことが分かっているのだろう。
しかし、これほどの時間を費やしてなお、君に対して何を言うべきか、僕にはまだその言葉を見つけ出せないでいる。
言うべき言葉の代わりを見つけられないでいる。
名前をつけられるような特別な関係だったわけでもない。いまさら言うことなんて、本当は何にもないのかも知れなかった。そうすると、僕と君とのありふれたさよならも束の間になってしまうのだろうか。
君と会うことはもう二度とできないとは分かっているけれど、叶うならばもう一度会いたいと思う。
そのときはまた、束の間で。
弥塚泉のお題。『束の間』。
縛りプレイ小説お題ったーhttps://shindanmaker.com/467090からのお題。〔ありふれたさよなら〕です。〔二次元ネタ台詞の引用禁止〕かつ〔キーワード「朝日」必須〕。




