涙の理由
目が覚めると、お腹から木の枝が飛び出ているのが見えて驚いたのをよく覚えている。どうやら乗っていた船が今なお続く大嵐によって転覆して私は死に、何の因果か幽霊になって近くの島にたどり着いてしまったらしい。
それからすぐに同じ船に乗っていたと思われる男性を発見した。彼はほとんどの時を泣いて過ごしていた。思い出したように食事をとり、しばらくすると眠り、また泣くことを繰り返している。
遠くから観察していくうちに次第に自分でも分からない感情に動かされ、彼と話してみたいと思うようになった。
「あ、あの……」
彼は最初、何の反応も示さなかった。一週間も泣いて過ごすくらいだから、私が声をかけたところで気にするはずもないと思ったけれど、考えてみれば嵐の風が吹きすさぶ音の中で声をかけるにはただ私の声が小さく細いだけだったと気がついた。
こちらは幽霊で、ましてや彼は傷ついている。驚かせないように声をかけながら近づいていると、夜が明けた。
「あの……」
嵐も静まった孤島に私の声は響きすぎたようで、彼は弾かれたように顔をあげてまた泣き始めた。
「何をそんなに悲しんでいるのですか」
「……君がもう帰ってこないことが分かったからだよ」
島に纏わるメルヘンお題ったーhttps://shindanmaker.comからのお題。『嵐の吹く南の島の草むらで、涙を流している男の人と幽霊』。