君を忘れて
エメラルドグリーンの水面が揺れる浜辺を恋人演技で彼女と歩く。彼女は護衛対象。俺はボディーガード。白いワンピースから伸びる四肢は真夏の日差しより眩しい。
「ねえ、次はあそこに行こうよ」
優しい言葉は恋人演技。浮かれそうな心を押さえているのを微笑みながらごまかして、手を引っ張られるがままについていく。
「そうだ、写真撮ろう」
不意に携帯のカメラを向けられて、少し怯む。
大人になっていくにしたがって、笑顔のやり方を忘れる。しかし彼女といることで俺はそのやり方を思い出すことが出来そうな気がした。
「はい、チーズ」
カメラを向ける携帯の向こうの彼女が満面の笑みを浮かべているのを見れば、自然に笑える。調子に乗って俺はいつものピースもつける。左手で作る、人とは変わったピースだ。
そして彼女が俺の左手を見て目を見開いた。なにか核心に触れた左手を俺は意味もなく背中に隠す。
風の音、かもめの鳴き声、波の音が俺たちの間の沈黙を埋める。重要なその言葉さえ、さらっていくことに鈍感な俺は気づかない。
「やっぱり……記憶がなくなったって、コウちゃんはコウちゃんのままなんだね」
俺は君と恋に落ちた永遠にとらわれて、その言葉は届かなかった。
縛りプレイ小説お題ったーhttps://shindanmaker.com/467090からのお題。〔君を忘れて〕です。〔推定表現(~らしい、~ようだ)禁止〕かつ〔季節描写必須〕。
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