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恋の本能

「楽しかったね」

 帰りの車の中、家路を辿る道路が長い橋にさしかかったところで、ようやく口を開く勇気が出た。

「ああ」

 彼の返事はそっけない。運転中だからというのもあるだろうけれど、元々そんなに明るい人でもない。

「また来ようね」

「そうだな」

 口を開いたはいいけど、当たり障りのない会話しかできていないことに焦りが汗となって流れていく。昨日までに考えていた、ノートの一ページを丸々使った台詞は今になって綺麗に頭から抜け落ちてしまっている。経験を補うために見た映画や漫画や小説の台詞の断片だけが、ただ、走馬灯のように頭をぐるぐる回っていた。言葉が出てこないまま、橋の終わりが近づいてくる。

「一緒にいてもいいかな」

 一瞬、自分が言った言葉だと気づかずに、時が止まった。真っ白な頭から気持ちが零れ落ちたのだと分かった。理性で止められるくらいなら、本能なんて呼びたくない。

「うるさい、わかってるくせに」

 海の向こうに落ちていく夕陽のせいで、彼が顔を赤くしているのかどうかは分からなかった。

「教えてよ、こんな近くにいるのに」

「俺の隣にいたら幸せなんだろ。だったら幸せになれよ、ずっと」

 初恋のスタートラインはまだ切ったばかりだ。

三題噺もどきの小説お題ったーhttps://shindanmaker.com/571142からのお題。場所:車の中、状況・条件:夕暮れ時、必須の台詞:『一緒にいてもいいかな』。


3つの台詞でお話つくるったーhttps://shindanmaker.com/616070からのお題。「教えてよ」「こんな近くにいるのに」「幸せになれよ」という3つの台詞を盛り込んだ甘い話。


お題ひねり出してみたhttps://shindanmaker.com/392860からのお題。『うるさい、わかってるくせに』。


お題詰め合わせhttps://shindanmaker.com/538989からのお題。『初恋のスタートライン』/『理性で止められるくらいなら、本能なんて呼びたくない』。

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