眠れない狼
走っている。
その足の向かうところは自身すら分からないが、己の四足が赴くままに走る。次々に世界を置き去りにする。しかし降りしきる雪と星月すら塗り潰す夜空の黒、世界はその二色しか色を持っていない。
一瞬も止まらない四足が蹴っているのは大地ではない。単にそのエネルギーを受け止められるだけの雪に過ぎない。その下に大地がある保証はどこにもない。
口を浅く開け、自らの白い息が視界を遮らないように酸素を取り込む。空気すら凍てつかせるそれは肺から体を凍らせようとするが、熱した筋肉がそれを許さない。雪がいよいよもって嵐のように吹き荒れて、目に入ろうとするのを呼吸の流れを変えることで防ぐ。おかげで世界の色はほとんど白に染まり始めた。もう既に目を閉じているのと変わりはない。
何が変わると問いかけても、答えが返ってこないのが分かっているから走るしかない。近づいたけど離れてく。磁石のように反発する。太陽と月のように終わらない。どこまでも続くこの世界でそれを追っているのか、この世界の果てまで逃げているのか、そろそろはっきりさせなければ自分がどちら側にいるのか曖昧になり始めていることには気がついていた。
狼はまだ眠れない。
縛りプレイ小説お題ったーhttps://shindanmaker.com/467090からのお題。〔眠れない狼〕です。〔パロディ禁止〕かつ〔「走る」描写必須〕。
【創作向け】100のお題から選んだーhttps://shindanmaker.com/196345からのお題。【04/何が変わると問いかけても】【35/近づいたけど離れてく】【79/嵐のように吹き荒れて】。