かなしいひと
とうとう学校からこの駅のホームまで、一言も話さないまま来てしまった。幼馴染の彼女とはずっとこうして一緒に帰ってきたけれど、ここまで長い間口を利かなかったことはない。
昨日些細なことで喧嘩になり、そのわだかまりは解けないままに別れ、今朝も顔を合わせなかった。変だったのは、社交的な彼女にしては珍しくクラスでも一人距離を置き、話している姿を見なかった。
電車の本数は少ないくせに、この駅のホームには椅子がない。僕らはコートの襟を立てて、染み付くような寒さに身を震わせながら黙って待つ。今日は雪が降っていて周囲の音が殺されて、聞こえるのは雪が温度を吸っていく音だけだった。
「私、あなたに言わなきゃいけないことがあるの」
ごめん、とは言わなかった。それが既に手遅れであることも、彼女が何を言おうとしているかも、僕は知っている。いつだって気づいたときには遅すぎて、後悔を先にすることはできない。
「私ね……昨日、死んじゃったんだ」
「……知ってるよ。君には言っていなかったけれど、僕は生まれたときから幽霊が見えるから」
それでも僕は君のことが好きだと言ったら、君はたぶん怒るだろうけれど、いつかその覚悟をしておこうと思う。
縛りプレイ小説お題ったーhttps://shindanmaker.com/467090からのお題。〔かなしいひと〕です。
〔格言、名文の引用禁止〕かつ〔温度の描写必須〕。
三題噺かんがえたーhttps://shindanmaker.com/493831からのお題。『戸惑い』『幼なじみ』『駅のホーム』。




