籠雀
雀の鳴き声で目が覚めた。傍らの時計を見ると時刻は三時を過ぎたところで、空はまだ夜の気配を拭いきれてはおらず、白み始めたばかりの色をしていた。
朝の匂いに誘われるように庭に出る。季節は秋。色とりどり鮮やかに紅葉した木々にも霧がかかり眠たげに薄く色づいているように見えた。
そしてその一枝に留まっていた件の雀は無闇に鳴いているばかりでなく、旦那様にその躍りを見せているようだった。
私がこの家にお仕えするようになる以前から旦那様は不治の病を患っていて、ご自身のお部屋からほとんど出られなかった。それでも一度だけ会ったときのお顔があまりに儚くてよく覚えている。
真っ白に染まった髪に隠れて表情は見えない。死装束のような淡い色の服装も相俟って存在感が幽かに感じられ、ただ呼吸するだけで消えてしまいそうで、私は声をかけることができなかった。
聞いた話では、旦那様はもう寿命を迎えるということだ。病によりすり減った寿命はもう今さえ蝕み始めている。生きている時間のほとんどをあの部屋で過ごし、この家で生まれ、一歩も外に出ることなく死ぬ。
泣いてしまえるならいっそ、そうできれば良かった。
やはり私には声をかけることは許されない。
恋愛お題ったーhttps://shindanmaker.com/28927からのお題。「早朝の庭」で登場人物が「泣く」、「秋」という単語を使ったお話。
お題ひねり出してみたhttps://shindanmaker.com/392860からのお題。『泣いてしまえるならいっそ、』。