二人の繋がり
「あ、あの……レン? 大丈夫?」
取り敢えず、酒の入っている量の少ないリョウがレンブラントに事情を説明したあと。
リョウが不安になってレンブラントの顔を覗き込んだ。
なにしろ話している間中、レンブラントはガンガン飲んでいたのだ。
そして話している間に、要は、リョウが命を落としそうになったときにグウィンがそれを助けたのだという、グウィンが感謝されなければならないというような流れになってきた段でグウィン本人はなんだか居心地悪そうに退室してしまっていた。
「ええ……大丈夫です。……つまり、その……グウィンとは何もなかったと……」
「あるわけないじゃない! だいたいあの人、いっつも冗談ばっかりで人のことからかってるだけなのよ! そもそもグウィンにだってそんな気無いんだから!」
リョウは少々むきになって全否定に入る。
「その気がない……は、さすがにどうかと思いますけど……」
レンブラントは視線をそらしながらボソッと呟く。
「……え?」
「いえ、なんでもありません」
テーブルの隣の席で話していたリョウが椅子から腰を浮かしてレンブラントの方に近寄り相変わらず心配そうに顔を覗き込んでくるので。
レンブラントはつい腕を伸ばす。
「え? うわ!」
リョウは腕を捕まれてくるりと向きを変えられ、レンブラントの膝に乗せられた。
そのままぎゅっと抱き締められ。
「……レン? ……酔ってる?」
膝の上で上体をひねってレンブラントと向き合う形をとったリョウは恐る恐る聞いてみる。
見た目には酔っているようには全く見えないレンブラントは、くすっと笑うとその顎をリョウの肩に乗せて。
「酔ってますよ」
リョウの耳にそっと囁く。
うわあ!
リョウが耳にかかるレンブラントの息とその艶っぽい声に、ぞくっとして身を離そうとすると、レンブラントの腕に力が入り、その動きが封じられた。
「リョウ……こうされるの弱いんですね」
再び耳元でレンブラントが囁く。
「レン……絶対酔ってるでしょ……」
リョウだって少しは飲んでいるのだ。わざとらしく狙いを定めて、その声で耳元で囁かれたら……ちょっと、いや、かなり辛い。
そもそも、今の話の流れだって自分がいかにレンブラントが好きでグウィンとは何事もある筈がない、ということを力説するような話だったのだ。
うっかりすると、とろけてしまいそうになる自分の気持ちに抵抗するようにリョウはレンブラントの服を掴んで握りしめる。体に力が入ったせいで肩が少し震える。
「だから、酔ってるって言ってるでしょう? ……リョウ、そうやって我慢してるの……すごく可愛いですよ?」
レンブラントはそう言うとリョウの首筋に顔を埋めて唇を這わせる。
「……っ!」
リョウが声にならない悲鳴をあげ、さらにぎゅっとしがみつく。
レンブラントの柔らかい唇が触れたところに軽い刺激を感じたので。
レンブラントがリョウの首筋から唇を離すと同時にリョウがその場所に手を当てる。
「……今の、何?」
「僕のものっていう印です」
レンブラントが意地悪そうな笑みを浮かべてリョウの顔を覗き込む。
「あ……」
キスマーク、付けられた……。
リョウが事情を察して顔を赤らめる。
レンブラントはリョウの首筋に当てられた手に自分の手をそっとかけて。
「見せてもらえますか?」
なんて言ってにっこり笑う。
「あ、あのね……」
リョウがその手を離そうとしないのでレンブラントは更にほんの少し手に力を加えると、今度はあっさりリョウが手を離した。
「……ごめんね、レン。私、ほら、竜族だから……」
レンブラントの目の前にある結構はっきりとつけたつもりの印は、薄い状態でついており。
「……こういうのって、たぶんすぐ消えちゃうと思うの……」
リョウが申し訳なさそうに視線をそらす。
「ああ……なるほど……」
キスマークなんて所詮ちょっとしたアザみたいなものだ。
治癒力の高い竜族の体ではあっという間に治癒してしまう、ということらしい。と、レンブラントが納得したところで。
「残念ですね……じゃあ……」
そう言うと今度は両手でリョウの顔を包み込むようにして、同時に自分の顔を近づける。
リョウも抵抗することなく、レンブラントと唇を重ね、この度は自分から深いキスにもっていってみる。
だって、この人に対して後ろめたいことなんか何もない。
本当に、心から、自分の存在すべてをかけて、愛しているのだ。
この人が寂しい思いをしなくていいように、少しでも不安を感じたりしなくていいように、何でもしてあげたい、と思った。
だって、どう頑張っても、竜族と人間。
竜族同士で、つまり自分とグウィンが一緒に過ごすのとは違うのだ。
グウィンはどちらかというと家族のような感覚。血の繋がりがあるような安心感をもって接することができる相手。信頼もできる。
それを端から見たら、誤解することがあるかもしれない、と、リョウは思った。
特に、種族の違いをまざまざと見せつけられたりしたなら。
レンブラントは竜族の中に一人だけ人間、という状況で一緒にいてくれているのだ。都市にいるときとは事情が違う。
不安にだってなるだろう。
そう思うと。
自分から誘った深いキスだったせいか、はじめはちょっと驚いたような様子だったレンブラントが、あっという間に熱く返してくるので、リョウは切ないくらいの思いが込み上げてきて涙が出そうになる。
「……レン……」
いつの間にか息が上がってしまったリョウがそっと唇を離して、レンブラントの瞳を覗き込む。
大好きな色。
「愛してる」
ゆっくり囁いてみる。
絶対に、あなたのこと、守るから。
そう心に誓いながら。
レンブラントはそんなリョウの頭にその手を回して自分の方に引き寄せ、抱き締める。
「僕も、愛していますよ。もう、絶対に離さないから覚悟しなさい?」
リョウの耳元でそう囁く。
「はー……」
宿屋の外。
ちょっとした庭があり、宿泊客が散歩でもできそうなスペースが設けられた場所で。
昼間ならいい木陰になりそうな木の下に長椅子を見つけて酔いを冷ましているグウィン。
「お前はほんとに……バカなのか?」
隣に座っているのはスイレンだ。
「バカだよ、どうせ……これでも気を遣ってんだ」
酔いを冷まそうと外に出たところを、部屋の窓から外を見ていたスイレンが見つけて不審に思い、出てきて話を聞いた、といったところだ。
「だいたい、リョウのやつ、放っておいたら絶対変に気を遣ってレンブラントとの間にわだかまり作るぞ。今から隠し事してたら絶対結婚なんかうまくいきっこないんだ。早い内にちゃんと説明させてやらないと……」
「このお人好しめ……自分から悪役になるバカがどこにいる。このバカが」
ぶつぶつと独り言のように言い訳をするグウィンをスイレンが罵る。
「……お前、俺とレンブラント、どっちの味方なんだ?」
バカを連発されたグウィンがぷっ、と吹き出しながらスイレンの方を見る。
「ふん。決まってるだろう。私はいつでもリョウの味方だ。リョウが幸せなのが一番なのだ。……まあ、でも……今日くらいはお前の理解者になってやってもいいぞ。リョウは今のところ絶対幸せだろうからなっ」
スイレンはそう言うと宿屋の二階にあるグウィンたちの部屋にともる明かりを嬉しそうに見上げる。
「ああ、そうだな。敵に大量の塩を送っちまった……」
グウィンが深いため息をつき、スイレンは再び「このバカが……」とこぼした。




