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 土の竜が三人を前に話し出す。

 とはいってもグウィンの記憶からの情報なので当のグウィンは腕を組んでよそ見をしていたりするのだが。


「ヴァニタスは人間が造り出した種族だ」

 ……は?

 リョウとスイレンが声にならない抗議の視線を向ける。

「うん。その反応、当然だと思う」

 あっさりと、土の竜がそう続ける。

「命を司る僕だって新しい命を造り出すことなんて出来ないよ。……でも人間がやってのけたのは全く新しいものを作り出すってのとはちょっと違ったんだ」

 ゆっくりと、一度言葉を切ってから。

「南方に、昔、魔法使いと呼ばれた部族があったんだよね。野生動物を従えるのが得意な部族でさ。彼らは動物と会話するなんていう言い伝えさえあったんだけど」

 リョウはザイラの話を思い出す。

 そういえば彼女も子供の頃に動物と会話した記憶がある、と言っていたっけ。

「まぁ、言い伝えだから実際のところ本当にそんな能力があったかは分からないんだけど。しかもその部族自体はとうに滅んでいて今となってはその名残で少数のその部族の末裔が各地に散っているとかそんな程度らしいんだけど」

 ……たぶん、それがラウとかザイラなんだろう。

 なんて思いながらリョウは話に耳を傾ける。

「どうもその中に、部族の血を濃く引いていた者が数人いたらしいんだ。で、南方の地で、ことを企んだのが始まりらしい」

「……企むって、何を?」

 リョウが思わず口を挟む。

「うん。どうも、当初はリガトルをどうにかして人の世界の災いを減らしたかった、ということだったみたいなんだけど。自然現象とはいえ野生の動物並みの気性を持つ存在だからうまく操って災いを減少させられないか、みたいな善意でリガトルに手を加えて造り出しちゃったみたいなんだよ。あのヴァニタスをさ」

「ええええっ!」

 リョウとスイレンが同時に叫ぶ。

 ……手を加えてって……そんなこと、出来たのか……!

「……どんな手を加えたんだ……」

 スイレンも同じようなことを呟く。

「その、情報源って……?」

 リョウがグウィンに尋ねる。

「グリフィスんとこで聞いた話だ。騎士隊の隊長が連れてきた男だったぞ。本人もその部族の出身だとかで、ことの始まりを見届ける前に西の都市に移って来たから詳しいことは分からない。でも、そういう自然に逆らう良からぬことを始めようとしている奴等がいて止めることもしなかったのがずっと心残りだった、と言ってきたんだ」

「ラウ……だわ……」

 唐突に、リョウは西の都市を離れた晩のことを思い出した。

 都市の司に面会に行こうとしたときにすれ違ったクリストフとラウ。

 都市の司やグウィンと会ってきたようなことを言っていたから、何をしてきたんだろうなんて思ったのだ。

 そんな話をしに行っていたのか。

「あ、そんな名前だったな。……なんだ知り合いか?」

 グウィンが答える。

「うん。だって彼、その力を使って馬の調教してるんだもの。ハナはそこで見つけた馬よ」

「……じゃあその男は、あのヴァニタスの造り方も知っていたのか?」

 スイレンが眉間にしわを寄せながら尋ねる。

 まぁ、確かにあまり気持ちの良いものではないから想像したくもないことだけど。

「いや、そこまでは分からないと言っていた。でも、そうやって造り出す(すべ)が確立されたのであれば、しかもことの流れをみる限りでは……かなり危ないと言っていたんだ」

 ……どういうこと?

 というリョウの視線にグウィンが答える。

「おそらく、その首謀者の初めの意図は良いものだったかもしれない。つまり、自然災害の抑制だ。でも、現に抑制ではなくやつらは生産されているし、それによって人の社会が脅かされている」

 ……あ。確かに。

 リョウは首をかしげる。

 どこでどう間違ったのか。

「だからさ。それが人間の心の歪みなんだよ。思いもよらない力を手に入れると今度はそれを使いたくなる。で、そうなると他人の為じゃなくて自分を満足させる為に使おうとするのが人の世の常になってきてるんだよね」

 やれやれ、といった風に肩をすくめる土の竜。

 なんとなく納得できるような気がしてリョウが視線を落とす。

「あ! 別に人間全部を否定はしないからね? つまり、そういうやつが多いってことだろ? そうじゃないやつもいる。だから助けにいくんだよね?」

 正面の席からリョウの顔を覗き込むように土の竜が首を傾けてリョウと目を合わせようとしてくる。

 ので。

 ふっ、と。

 リョウは微笑んでしまう。

「……そうね。ありがとう」

 暗くなってしまった気持ちをちょっと切り替えてみて。

「うん。リョウはね、そういう顔してる方がいいよ」

 土の竜がそう言って微笑む。

「え……」

 あれ?

 前にも誰かにそんなことを言われたような気がする。

 リョウがそんなことを思いながら土の竜と目を合わせると。

「そんな風にね、自信を持って笑っていてくれると僕たちもあなたを支えようって思えるんだ。火の竜の力は破壊の力だけどリョウはその力を自暴自棄には使わないだろ? 少なくともそういう顔をしていてくれれば僕たちもそれが確信できるから安心できるんだよ」

 あら。

「私、そんなに信用ない……?」

 リョウはちょっと不満げな視線を土の竜に向ける。

「いや、どんな顔してたってお前の力の使い方は信用してるけどな」

 隣の席からグウィンが腕を伸ばしてリョウの頭をがしっと撫でる。

「単に、リョウは考えてることが顔に出やすいってだけの話だ!」

 テーブルで頬杖をつきながらスイレンが付け足す。

「まぁ、グウィンの持っていた情報で使えそうなのは今んとこそんな感じだね」

 土の竜はそう言うとグウィンに視線を向ける。

 グウィンが軽く頷くと、リョウの隣でスイレンが大きく息をつく。

「ふーん……ということは、人間が造ったあの余計なものをまずは、さっさと片付ければいいわけだな? 人間がそんな風に造ったものなら、何の気兼ねも要らないだろう?」

 忌々しげにそう言うスイレンは……おそらくリョウを助けようとして体液をかぶったあの経験から来る嫌悪感で言葉を紡いでいると思われる。

「そうね。そんな不自然なものは一刻も早く片付けないとね」

 なんてリョウも請け合う。

 そして。

「土の竜の情報もあるの?」

 改めてリョウはグウィンに尋ねる。

 さっき土の竜の石の記憶も見せてもらったと言っていた。

「ああ、あれだ。えーと」

 なにかを思い出そうとするグウィンに。

「日の終わりに集いし同胞(はらから)に日の始まりを知らせん。世の(もとい)を砕き、地の(もとい)を据え、明けの星とならん……だろ?」

 と、土の竜。

「ああ! それ!」

 スイレンが声をあげる。

「その意味、知ってるの?」

 リョウも思わず身を乗り出した。

「一応ね。スイレンなんか知ってても良さそうなのに、受け継がなかったの?」

 土の竜が不思議そうな顔でスイレンにそう言うと。

「私は、本来水の竜の名を継ぐ筈ではなかった者なのだ。継ぐ筈だったラザネルとかならそういうことも学んでいたかもしれないが……そういう話はなんだか気まずくて向こうから話してくるとき以外は私から詳しく聞いたことがなかったのだ」

 スイレンは少し気まずそうにそう言う。

 土の竜は意外そうに片眉を上げた。

「へえ……君もなのか……」

 そういえば、土の竜もスイレンも本来これまでの流れにのっていれば他者が継ぐ筈だった名を継承している。

 土の竜はスイレンの発言にちょっと親近感を感じたようで、ちょっと間を置いてから。

「あ、えーと、ね。たぶんあれは今のことを言ってるんだよ。日の終わりってのは、つまりこの世界の終焉(しゅうえん)のことで、世界の始まりを朝に例えた一日の終わりだ。こんな風に均衡が崩れていずれ終わることがある意味自然で、昔から予言されていたってことだね」

 スイレンとリョウはなんとなく身を乗り出す。

「で、集いし同胞(はらから)は、この石のことだよ」

 土の竜が自分のや首から下げた黒い石を手のひらに乗せる。

「石の視点で語られている言葉なんだ。石を持つ者が集まるときにこの世界の始まりに関わった力を知ることができて、それがこの世界を変えるヒントになるだろうって意味だ」

「この世の(もとい)を砕くってのは、終わりかけているこの時代を終わらせること、そして地の(もとい)を据える、は新しい世界の土台を据えるってことだな」

 土の竜の説明にグウィンが付け足す。

「明けの星……は、夜明けの意味だとすると……それが新しい時代の幕開けに繋がる、って意味か……」

 リョウは最後の一節を解いてみる。

「ご名答」

 土の竜がにっこり笑う。

 要は一日という区分を何に例えるか、ということで二つの意味を持たせ、頭の代が変わる石の継承式で受け継がせることで本来の意味を隠してきたということなのだろう。

「まあ、僕はこの世界を終わらせてやれって思っていたから今までたいして興味もなかったんだけどね。……でもこうなると今度は、世界の始まりに関わった力について知る方法が分からないんだ。ただ漠然と四人が顔を付き合わせたら何かが起こるのかなとか思っていたけど……今んとこ何も起こらないしね?」

「あ、ほんとだ」

 リョウはつい自分の腰にある剣に目をやる。

 土の竜に呼ばれて集まるということで、一旦身から外していた剣だったが改めて身に付けてきている。

「石の記憶を見るときと同じ、ではないのか?」

 当たり前のことのようにスイレンが呟く。

「そうやって石の意味が伝えられているとしたら、同じように使い方だって二通りに取れるような方法で伝えられていると考えても不思議ではないだろう? 単に互いの記憶を覗くのが本来の使い方とは思えん」

「確かに、それはそうだな……やってみるか?」

 スイレンの言葉は説得力があった。

 グウィンが同時に少し考えてから実践してみることを提案する。

「……僕はいいけど。でもそれ、万が一違っていたらお互いの恥ずかしい記憶がだだ漏れするってことになるかもしれないよね?」

 にやっと笑って土の竜がグウィンを見る。

「うるさい! この際仕方ないだろ! 他に何も思い付かないんならやってみるしかないんだから!……おいリョウ!」

「へぇっ?」

 なんだか投げやりな返事をするグウィンにいきなり名前を呼ばれてリョウが驚いて変な声をあげる。

「あのな! 万が一、変な記憶見ても気にするなよ?」

 訳がわからないグウィンの言葉にリョウは「へ? 私が?」と聞き返す。

 グウィンは若干顔を赤らめているのだが……リョウには意味がわからない。

「ま、それじゃ、やってみますか」

 土の竜がそんな声をかける。






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