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居場所

「うーん……」

 リョウが、軽く唸りながら目を擦る。

 窓からは、かなり高くなった日の光が差し込んでいる。

 気付けば、昼、だ。

「……夢か」

 寝ぼけたように呟き、ベッドの上でごろんと寝返りを打つ。

 ひどく懐かしい夢を見た。

 子供の頃、なにかの弾みで迷い込んだ空間。そしてそこで知り合った不思議な少女。

 あの場所がどこだったのかはもう思い出せない。

 毎日が辛いと思っていたあの頃、居場所を求めていたあの頃、偶然見つけた秘密の場所。

 そういえば、あのあと何度もあそこに通った記憶がある。どうやってたどり着いたのか思い出せないのだが。

「……カロ、あの後どうなったんだろう」

 ぽつりと呟く。

 リョウが生まれ育った山の中の小さな村は、その村人を、いや正確には炎を操る力を持つ「火の竜」の名を受け継ぐ女の子を恐れる麓の人間たちに夜襲をかけられ、混乱の中、炎上したのだ。

 攻め上ってきた人々に放たれた火によってではない。

「火の竜」に放たれた火によって。

 その後、「火の竜」と呼ばれた女の子は「ある人」に拾われて「リョウ」と名付けられる。



「あの火事……一番燃やしてしまいたいものは燃やしてくれなかったんだわ……」

 リョウはふと、自分の手のひらを見つめる。

 一番燃やしてしまいたかったのは自分自身だった。

 自分さえいなければ、世の中は誰も怯えることなく平和に回って行くのに、と何度も思った。きっと両親も死ななくてすんだのだろう、と。


 なのに炎はこの身を決して害することをしない。

 不思議なことに、リョウは炎を操ることができるがその炎は自らの身に火傷一つ負わせることはなかった。炎に対して体の周りには結界ができるらしく、例え燃え盛る炎の中に手を差し入れたとしても何の害もないのだ。


 声にならない笑いが漏れる。

 それが普通じゃないなんて理解できなくて、せっかく村を出て「普通の女の子」として生活できると思ったら、周りの人を驚愕させて、そしてやはり孤立してしまったんだっけ。


「化け物……!」

「魔物だ!」


 そう叫んだ友達や、その親の顔が忘れられない。

 そんな日に限ってお祭りかなにかで町の人が沢山集まっていたりして……大騒ぎになったりするのだ。

 騒ぎの中「あの人」は呆然と立ち尽くす私を抱き抱えて町を出てくれたこともあった。

 そして、力を正しく使うことを教えてくれるようになったのだ。

 お陰で自分を守るための結界を自分から離れた所に張る術も身に付けた。


 ふと、数ヵ月前に二人の隊長なる人たちを結界に閉じ込めたことを思い出して笑いが込み上げる。

 今度のは、少し温かい優しい、笑いだ。


 ほんの少し、胸の痛みが和らぐ。

 今はあの頃みたいに世界から拒絶されている訳じゃない。少なくとも「ここにいていい」と言ってくれる人たちがいる。

 そう思ったら再びまぶたが重くなってきた。

 もう少し寝ようかな……。


 ……そう。カロはどうなったんだろう。あの村が燃えてなくなってしまって、あの後はあそこに行く道が分からなくなってしまった。

 あの子は今でもあそこにいるのだろうか……。



「リョウ! あなたねぇ! いい加減鍵かけないで寝るのやめなさいよ! 無用心なんだから! 夜中に襲われたらどうすんのよ!」

 突然リョウの頭上で声がして、かぶっていた毛布がひっぺがされ、長い黒髪がこぼれる。黒髪は何度も寝返りを打ったせいでくしゃくしゃで、窓から入る光が当たった所がうっすら赤く見える。

「……ザイラ?」

 眩しそうに毛布をひっぺがしたその人を見上げるリョウの瞳は濃いブラウン。とはいえ、日の光が当たると瞳の奥が赤くキラキラ光って見えたりするので暗い色彩ではない。

 その髪と瞳の色をザイラは綺麗な色だと思っていた。光の加減で不思議な色彩に見えるなんて、と。本人は気に入っていないようなので面と向かって言ったことはないが。

「ハナを連れてきてあげたわよ。今日から見張りの仕事でしょ?」

 褐色の肌にぱっちりした黒い瞳。同じく黒い髪は細かくカールしていて後ろで一つにまとめられている。ちょっと大きめの口は屈託なく笑う笑顔がよく似合っていて、そんなザイラには「可愛い」という形容詞がぴったりだ。それでいて騎士隊第九部隊の隊長の妻として、しっかり者でも通っている。

 そんな彼女は只今、相変わらず恨めしそうに自分を見上げているリョウを見下ろしている。

「なんでうちの中にいるの……?」

 どうやらリョウはまだ状況が把握できていないようだ。

「だから! 鍵! あいてたわよ!」

 ザイラが腰に手をあて、眉間にシワを寄せる。

「あー……夕べ遅かったから……帰ってすぐ寝ちゃったんだった……」

 リョウがだるそうにベッドの上に座り、ぐるっと首を回す。

「無用心だからやめなさい、って言ってるのに」

 ザイラがすかさず小言を言う。

「無用心って……だって私だよ? 夜中にここに押し入ってくる人がいるとしたらそっちの方がよっぽど無用心……っ」

 ぼす。

 リョウの台詞は最後までは続かなかった。

 なぜなら、ザイラがリョウの枕を取り上げてリョウの顔めがけて投げつけたから。

「あなたねぇ! 女としての自覚を持ちなさいってば。……まぁ確かに……そう言われればその通りなんだけども」

 目の前で、投げつけた枕を抱えてまだぼんやりしているリョウを苦笑しながらザイラが見つめる。

 確かに、レンジャー仕込みの凄腕騎士に襲いかかるなんていう身の程知らずがいたら……結果は目に見えているわけで……いやいや! だからといって、こんなお年頃の女の子が施錠もしない部屋で夜を過ごすなんて、何かが間違っている……!

 そんなことを考えているうちにザイラの気迫はすっかり薄れていた。

「……で、なんでハナをつれてきたの? こんな早い時間に。私の見張りって夜中なんだけど」

 ぐいと伸びをしてリョウが尋ねる。

 だんだん頭がはっきりしてきて事態が把握できてきたようだ。

 ハナはリョウの馬。赤毛の、それはそれは賢い子でリョウのお気に入りだ。で、そのハナは駐屯所の厩舎にいたはず。


 リョウの住む、ここ西の都市では数ヵ月前から都市の警備の仕方が変わった。

 今までは兵士が城壁の周りに見張りにつき交代制で警備しているところを日に何度か騎士隊の者が見回る程度だったが今度からは騎士隊自体も見張りにつくことになったのだ。そして城壁から外に向けた、今まで以上に広いエリアを見張ることになった。

 都市には全部で4つの駐屯所があり、それぞれに3つの騎士隊が所属している。

 そして、訳アリなのがリョウが属する第三駐屯所の事情で、レンブラント隊長率いる第八部隊からは、ハヤト隊長率いる第七部隊へ移動している一級騎士が多いため、第八部隊は人数が少なく、第七部隊は標準的な部隊に比べて一級騎士が多い。

 とはいえ訳あっての移動なので、その一級騎士を第八部隊の穴埋めに使うことができず、第七部隊で余った一級騎士の人材は隊内の二級騎士と共に城壁寄りの(比較的安全な)エリアの見張りにつくこととなり、さらにそのために余った二級騎士が第八部隊の穴埋めに加わることとなった。これは一級騎士の「自分の所属する隊を選べる」という特権に基づく事情も関係している。


 で、リョウは。

 二級とはいえ実力はそれ以上ということが認められているので、二級騎士の中でも準一級クラスの者と共に一番危険度の高い夜中から朝までの時間帯が割り当てられた。

 しわ寄せがリョウのところに来たことをレンブラントは申し訳なさそうにしていたが、リョウとしては自分に役に立てる分野があること自体が嬉しいくらいだった。


 その仕事が今日から一ヶ月続くのだ。

 なので夜型の生活に慣れるべく、しっかり休息をとろうと今日は午後まで寝ることにしていたのだが。

「うん。だってしばらく忙しくなるだろうからゆっくりご飯一緒に食べるんだったら今日くらいが最後かな、と思って。厩舎までハナを迎えに行かなくてよければギリギリまでお喋りできるでしょ?」

「ええ? そのためにわざわざ?」

 思わず目を見開いたリョウにザイラが首をすくめて見せる。

「なんてね。ホントはついでなの。今日は駐屯所のお世話になった先生に挨拶に行って来たのよ。あの先生ほーんとに、相変わらずの癒し系で! お菓子持っていったらすごく喜んでくれたわ! ……あ、そうそう。その帰りに厩舎を覗いたらハナがつまらなそうにしていたから連れてきちゃったの!」

 ああ。なるほど。

 ザイラは数ヵ月前に大怪我をして駐屯所の軍医の治療を受けていた。すっかり回復したからお礼がてら挨拶に顔を出してきた、ということなのだろう。


「それにしてもハナ、よくザイラについてきたわねー」

 すっかり目が覚めたリョウは、洗面所に向かいながらそんな声をかける。

 ザイラは寝室の手前の小さな居間に移動して、慣れた様子でテーブルの椅子に腰掛け、頬杖をつく。

「ふふ。父さんの血を引いてるからね、あたし。動物相手には苦労しないのよ」

 その声はちょっと得意気。

 そういうものなのか。

 ザイラの父親は騎士のために野生の馬の調教をしている。飼い慣らすのが難しい野生の動物は調教に特殊な能力がいるのだ。その能力は彼が生まれ育った部族特有のもので、ザイラはその能力を受け継いでいる、ということなのだろう。


 賑やかないつもの食堂で。

 ザイラが今日は二人で食べよう、とテーブルを挟んで向かい合った二人分の席を確保する。

 昼は過ぎていて中途半端な時間帯ではあるが、そこそこに客が入っているのはこの都市の特徴かもしれない。みんな友との語り合いの場としてここに集まってくるようで食事の時間帯に限らずこういう場所は人が常にいるのだ。

 もちろん、軍に調整が施されてからは不規則な時間帯の勤務者が圧倒的に増えたためこういう時間帯に食事をしている者も多い。

 今日はザイラの夫のクリストフは不在らしい。

 クリストフは黒い髪を後ろに撫で付けた、真面目そうな印象の若者だ。少々目尻が下がっているせいか取っつきやすそうに見える顔立ちで、騎士隊にしては珍しく短髪だったりする。騎士は規則で髪を短くするか、邪魔にならないよう、もしくは見苦しくないよう後ろで束ねておかなければならないのだが大抵の騎士は勤務に入った時や戦闘に駆り出された時にはわざわざ床屋に行く暇がなくなるのである程度の長さにしてしまっていることが多い。

 クリストフの場合、家に帰ると妻がきちんと散髪までやってあげているのだと気付いた時、リョウはザイラのセンスと技術に感服したものだ。

 そのクリストフは第九部隊の隊長。同じ第三駐屯所所属だ。

 ここのところ隊長クラスの人たちはかなり多忙なようだった。

 リョウがこの都市に来たばかりの頃、ザイラとクリストフは毎日のようにリョウをここに連れてきて、一緒に食事をしながら都市の事や自分達の事を話してくれた。

 後になって知ったことだったがリョウが来る前は、その二人に加えて第八部隊隊長のレンブラントや第七部隊隊長のハヤトといったメンバーで集まることも珍しくなかったらしい。そういう時、食事の場は隊内の情報交換や隊長としての意見交換の場ともなっていたようで。

 ザイラは騎士隊に所属しているわけではないからそういう話になるときは気を利かせて席をはずしたりもしていたらしく、リョウが来てからは女同士の話も堂々とできると喜んでいた。


「うちの部族は血筋がもうほとんど途絶えたらしいのよ」

 なんとなくザイラの父親ラウの話が続いていた。

「昔は魔法使いのように言われて敬遠されていた部族でもあったんだって。飼い慣らされた野性動物の需要もあったらしいのに、それを作り出す部族が敬遠されるなんてひどい話よねぇ」

 ザイラの世代では、もうすでに昔話なのだろう。その時代を生きていた者ならばもっと違う感情がこもりそうなものだがザイラの話には特に深い感情はこもっていない。ただ伝え聞いた、という話し方だ。

「ふうん……」

 リョウは、ザイラの話を聞くのが好きだ。

 自分の話も家族の話も、ザイラはとても楽しそうにする。

 話の腰を折らないように気を付けながら、ずっと聞いていたくなる。

「あたしはね、父の血を受け継いだらしいの……母はよその人間だったから」

「そうなんだ」

 ザイラの母親はザイラが子供の頃亡くなっている。

 だからザイラには母親との思い出が少なくて父親から聞いた情報を大切に思い出として記憶しているのだ。

「母と父は年の差結婚だったのよ」

 楽しそうに話すザイラにつられてリョウもつい微笑む。

 なるほど。そういえばザイラが一人娘というわりにラウは年を取りすぎているようにも思えた。

「もともと結婚する気がなかった父と流れ者としてやって来た母が出逢って結婚したんだって。それからね、あたしが父の能力を受け継いだってわかったときは二人とも大喜びだったんだって」

「そう」

 リョウが話の先を促すように相槌を打つ。

「あたし、子供の頃、家出をしたことがあってね。この都市に来る前だけど。……その時に野生の牛の群れに出会っちゃったのよ! で、その牛を手懐けて帰ってきたらしいわ」

 あはは、と笑いながらそんな話をする。

「え……牛……?」

 リョウもさすがに唖然とする。

 野生の牛は狂暴なことで知られている。しかもその群れに遭遇なんてしたら、群れの中の子供を守ろうとする牛によって人間なんて一突きで殺されるだろう。

「そうなの! あたし、その時、牛と会話したような記憶があるのよねぇ。父に話したら、それは血を受け継いだからだって言われたわ。……さすがに今は動物と話したりはしないけど」

「うわぁ……動物と会話ができたんだ……うらやましい……」

 リョウは、ハナの事を考えていた。

 ハナはリョウの気持ちを察してくれるが会話ができるわけではない。

「そういえば」

 ふと、思い出したようにザイラがフォークを置く。

「ねぇ、リョウ。ハナって特別な子じゃない?」

 思わず目を丸くしたリョウにザイラが納得したようにうなずく。

「やっぱりね。あの子普通の馬と違うもの。雰囲気というかオーラというか。何かリョウに対する強い意思みたいなものを感じるわよ? ……絆みたいな」

 そうなんだ。

 そういう特殊能力を持つザイラがそう言うのなら。

「うん。……私、あの子は聖獣の血を引いているんじゃないかと思う。……いまどき信じられない話だけど」


 聖獣。

 今は純血種はとうに滅んで伝説としてしか知られていない種族。乗り手を選び、人と意思を通わせる動物。

 一角獣や有翼獣は白馬であることが知られているがハナは赤毛。角も翼も持ってはいない。言葉を交わすことができるわけですらない。

 とはいえ、リョウの気持ちを察したり考えを読んでいるかのような行動をとる。さらに元々力の強い野生の馬とはいえ、それでもあり得ないほどの力を出すし、リョウに初めて会ったときはまだ調教も始まっていないのにまるで乗り手を選んだかのようにリョウになついた。


「なるほど……ない話じゃないわね」

 ザイラも、リョウとハナの出会いには立ち会っているのでそれを思い出しながら腕組みをする。

「でも、ということは、きっとハナとリョウは出逢うべくして出逢ったのよ。こんな素敵な出逢いってないわ!」

 まるで自分の事のようにはしゃいで喜ぶザイラを見ていると、リョウはなんだか幸せになる。

 そんなリョウを見てザイラがふと黙る。

 優しい目をしたまま。

「……?」

 リョウが、どうしたの? という視線を送ると。

「リョウって、そんな風に笑うようになったんだな、と思って」

 ザイラがそう言いながらテーブルに頬杖をつく。

「来たばっかりの頃からしたら、かなり柔らかくなったわよね、表情も。あなた、そうしていたら絶対可愛いんだからずっとそうしていなさいよ」

「かっ……可愛いって……!」

 そんなの、言われたことないけど!

 リョウはそう叫びそうになりながらも声がうまく出なくて思わず両手を握りしめる。

「赤くなっちゃって、なお可愛い!」

 ザイラはそう言うとけらけら笑った。

「もぅ……! からかわないでよ!」

 しまいにはリョウもどう反応して良いのか分からなくなり視線を泳がせる。

 そんなリョウを見るザイラが、ふと真剣な顔になり。

「リョウはきっと今まで沢山苦労してきたんでしょう。そりゃあ、女が騎士なんかしていたら苦労もすると思うけど。でもここに来たばかりの頃は、あなた、笑っていてもなんだか冷めた目をしていたのよ」

「そう……なの?」

 ここに来てから前よりよく笑うようになったと思っていたんだけどな、とリョウは思う。

 以前はいつももっと緊張していたように思う。

「そうよ。だってあなた自分の事も全然話さないし」

 そう言うとザイラはぷっとふくれて見せる。

 リョウは思わず吹き出す。

「話さないって……ああごめん。だって……私の話なんて面白くないもの」

 こんなことを笑って言えること自体リョウにとっては革命的変化だ。

「それにザイラは今は私の事知ってるじゃない?」

 前回、かなり派手に力を使ったのがきっかけで「火の竜」という呼び名を持ち、炎を操る力を持つということはリョウが所属する第三駐屯所では指揮官ならびに三人の隊長に知られている。都市の他の軍の上層部にはハヤトが機転を利かせて詳細までは伝わらないようにしてくれたが、それでも都市の司には話が通してあるし、ザイラには夫との間に余計な隠し事を作らせてはいけないという気持ちと、何より友達として話しておきたいという思いからその事を話したのだ。

「そうね。だから今は前よりリョウの事がわかってきたような気がする!」

 そう言うとザイラは屈託なく笑って見せた。

 そして付け足す。

「あのね。あたしは、あなたの事を親友だと思っているからね。でも、親友だからって隠し事をしないで欲しいなんて言っちゃうほどあたしは子供じゃないつもりよ。だからね」

 そう言うと今度はちょっと間をおいて。

「話したくないことは話さなくて良いけど、話したいことは遠慮せずに話してね?」

 この度のザイラの微笑みは、可愛らしいというようなものではなかった。大人の、美しい、微笑み。


 そして、リョウは。

 その言葉に、胸の奥に言い知れない痛みを感じる。それは決して悲しい類いの痛みではなく、むしろ心地良い痛み。

 こういう気持ちを何て言ったらいいのだろう。

 そんな風に思う。

 この人は一方的に私を「親友」と呼んでくれたのだ。こちらはそう思っていないかもしれないのに。それって凄く勇気のいる発言ではないだろうか。

 見返りを一切期待しない、温かい感情。

 そんなものを自分が注がれるなんて、予想したこともなかった。

 そして、目の前の素敵な友を、リョウはとても大切な存在だと思った。こんな人と知り合えた自分は何て幸福者なんだろう、と。


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