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エピローグ

 白に近い薄紅の花びらがひらひらと舞い落ちる。


 降り積もるその花びらはそれでもなお、さらに降り続け、風に舞い、ときに視界を遮るほどになる。


 そこに一人の少女がいる。

 花びらと同じ色のゆったりした服に身を包み、長い髪を美しく結い上げた少女。

 彼女の視線の先には風船のような、シャボン玉のような、そんなものがふわふわと浮かび、規則正しくならんでそれぞれが独自の軌道を持つかのように動いている。

 時々それらはぶつかりそうになり、少女は小さく声をあげるとそこに手をかざして軌道修正を助けている。


華露(カロ)時守(ときもり)お疲れ様。会いに来たわよ」

 少女が声をかけられて振り向くとそこには華露と同じように長い黒髪に黒い瞳の女が立っている。

「あら。桜花(オウカ)。……もうそんなに経つ?」

 華露はそう言って微笑む。

 その微笑みは見たところ10才そこそこに見える彼女には不釣り合いな大人びた微笑み。

「……そうね。前に来た時から時は一回りしてきっかり12年経ったもの。……あなたはちっとも変わらないわね」

 そう言うと桜花は華露の隣に座る。

「ふふ。……時守とはそういう仕事よ。前回桜花が来てくれたのも私にはついこないだみたいだわ」

 華露はなぜか少し寂しそうに笑う。

 それは自分と一緒に年を重ねる筈だった友が自分をおいて大人になり、女盛りといっていいような美しさまで身に付けていることに向けられた羨望ゆえなのか。

 それとも次に会うときには、そしてまたその次に会うときには、少しずつ確実に衰えて行くのを見なければならないことに対する嘆きゆえなのか。


「……で? 華露のご執心だった世界、どうなったの?」

 そんな華露の気持ちを払拭するように桜花が明るい声を出す。

「……ご執心……って。……一応ご法度なんだけど!」

 華露は眉を寄せる。

「はいはい。時守たる者、いかなることがあろうとも、どんな小さな世界であろうとも、思いを寄せてはならぬ。あるべき姿に手を加えてはならぬ。……でしょ? でも、やっちゃったものは仕方ないわよねぇ?」

 桜花は目をキラキラさせて目の前に浮かぶ「世界」一つ一つに目をやる。

 まるでなにかを探しているようだ。

 そんな桜花を見て華露は小さくため息をつく。

「……これよ」

 はしっこに浮かぶ小さな「世界」を指差して示す。

「わぁ、綺麗!」

 それは虹色に輝き、小さいながらもバランスのとれた綺麗な球体で安定した軌道を動いている。

「最初に見たときはこんなに光ってなかったし形だって今にもつぶれそうだったじゃない? 軌道も不安定で……何度か他の「世界」とぶつかりそうになっていたわよね?」

 桜花は目を丸くする。

「そうね。……あの頃はまだ私も時守に慣れてなくて……ぶつかった拍子に一人落っことしちゃったのよね……」

 華露が再びため息を漏らす。


 そう。

 あれが私の最初の、そして最大の失態。

 お陰でここでの時守の仕事は枷となり計り知れない時間をここで過ごすようになってしまった。

 それでも、その失態を私は今でも悔やめないのだ。


 間違えて落としてしまった女の子に思いを寄せてしまった、その事により、あの子が属する世界に思いを寄せる結果になって……偶然を装って開けた小さな穴から別の男を一度だけ引っ張りだし、情報を与えてみた。

 元々、不安定きわまりなく今にもつぶれそうだった世界はその程度の穴は「偶然」とういことで処理してくれたようだし、その後は手も出さずにただ見守っただけだが。

 あの子は幸せになれただろうか。

 私が初めて見た、ひどく寂しそうだったあの目は、ちゃんと笑えるようになっただろうか。

 キラキラと輝きを放つようになった小さな「世界」を見るにつけ、なんとなくあの子が笑っているような気がして。


 あのときの失態を、どうしても悔やめない。

 むしろあれは「必然」だったのではないかとさえ思えてしまう。



「あ、ほら。あなたの(・ ・ ・ ・)世界が一回りしてきたわよ。もう帰らないと」

 華露が綺麗な球形の「世界」を指差す。

「早いなぁ……。これで向こうではもう一日なのね。また次の時が巡ってきたら会いに来るわ」

 桜花はそう言うと立ち上がる。


 律儀に会いに来てくれる旧友を優しい笑顔で見送って、華露は思う。


 そう。「あなたの」世界。

 今はもはや「私の」世界ではなくなったもの。

 今はまだ安定した球形で美しさも保つもの。

 この世界がいつか均衡を失うようなことになったとき、私は思いを寄せずに時守の仕事を全うできるのだろうか。

 なんて、ふと思う。


 まあ、そんなこと、あるとしてもきっと、遠い先の話。

 その時になってみなければわからない。



 舞い落ちるのは桜の花。

 ひらひらと、限りなく。

 私の記憶に残る、最愛の友の名でもある花。


まずは、このつたないお話を最後まで読んでくださった方に、心より感謝申し上げます。

本当によくぞ最後まで飽きずに読んでくださいました!本当にありがとうございます!


自分でもこんなに長くなると思っていなかったので100話を越えた辺りから、我ながら焦り出しまして、しかも書くペースをあげたら登場人物の行動パターンが全く読めなくなって……書き上げてから当初予定していたエピソードのプロットを見直したら全く違う話になっていたりしました。ああ、びっくりした!


でも、とにかく、完結です。

このお話書き終えたら、後書きにはあれを書こうとかこれを書こうとか、色々考えていたのですが……案外、実際に終わっちゃうと何も思い付かないものですね……。


とりあえず、リョウとレンブラント、そして、彼らに関わるすべての登場人物たちの戦いと、旅にご同行いただいた全ての方へ感謝を込めて。

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