続 ライトノベルじゃない
四月も半ばになり、俺たち二人は白一色弁当を突いていた。何で二人とも白一色なのかというと昨日こんな会話があったからだ。
「ねぇ、君っていつもパンだよね」
「まぁな、パンはうまいし用意も楽だからな」
日差しの弱い昼の教室で俺たち二人は机をくっつけてだらだらと話しながら昼食を食べていた。
「だめだよそんなんじゃ、おっきくなんないよ。なんなら僕がお弁当作ってあげよっか?」
ガタッ
「マジか、凄く……食べたいです」
「め、目が怖いよ……そうだ!! じゃあ作りっこしよ、そして交換するの」
交換って面倒くさいなあ。調理なんてめったにしないっての。……でもコイツの手作り弁当食べたいなぁ。めっちゃ食べたい。三時間並んででも食べたい。
「土下座してでも食べたい」
「いやそんなことしなくてもいいから」
あ、声に出てた。願望駄々漏れじゃん恥ずかしい。
「うん、じゃあ作る。明日作る。明日食べたい」
「わ、わかったよ…じゃあ明日ね」
「うんっ!!」
明日が楽しみだなぁ。
「うへへ」
「だらしない顔だなぁ」
「いーのいーの気にしなーい」
明日は気合入れてつくろうっと。
気持ちのいい夜明け頃の朝
Pipipipi! Pipipipi!
「……ぴーぴーうるえせ-っつの……」
Pipi…カチッ
「う~ん……ZZZ」
気持ちの(略)朝プラス一時間
Pipipipi! Pipipipi!
「うんん……やっべぇ!! 寝過ごしたァ!!」
あーどーしよもう三十分も余裕ないよ、仕方ないからコンビニで弁当でも買ってこようかな。
ちゃり……(財布の中の小銭の音)
うん、炊いたご飯でもつめておくか。
あららご飯つめるだけだから十秒で終わっちゃった。
やる事他にないしさっさと登校しちゃおう。
そんなこんなで昼休み。
「おーい。ごはんたーべよっ」
はぁ、気が重いな。結局ご飯つめただけ弁当しか用意ができていないままお昼の時間を迎えてしまった。
にしてもコヤツはご飯誘うだけでもなんか可愛いな。
「うん、これ」
ええい、仕方ないしこれ渡すしかないか。
「じゃあ開けるね、えいっ」
広げられた可愛いランチョンマットの上で弁当のふたを取って数秒二人は固まった。
「ねぇ、これ何?」
するとこれまでまったく聞いた事のない低い声がした。
「お……お弁当です」
「へー、僕には白いご飯しか見えないんだけど」
「お、おかしいなぁ…マヨネーズはかけたんだけど」
「ふーん、この白いねちゃねちゃはマヨネーズなんだ」
「そうだよもう、白いご飯だけじゃないよ!」
「ねぇ、この茶番まだ続ける? そろそろ怒っていい?」
あ、これダメなやつや。
「……怒るって? 何を?」
「もうっ、せっかくお弁当用意したのに白一色なんてひどい手抜きだよっ!」
あちゃあ、やっぱり怒ったか。
「本当にごめん。今日寝坊しちゃってさ」
「予鈴二十分前には教室にいたでしょ!」
「あれ~ばれてる?」
「ふざけないでよっ!」
どうしよう、本気で怒ってるや。これお弁当もらえないパターンじゃない?
「本当にごめんね。ただ俺は面倒臭かっただけなんだ」
「開き直ってんじゃないよっ!! 今日のお昼どうすればいいんだよ?」
「どうぞ白いのいっぱいかきこんでください」
「ああ、なんだか呆れてきちゃったよ…もういいや今日はこれで我慢する」
「いやあすまんね」
「まったく悪いと思ってないでしょ」
「もちの論である」
「はぁ……まぁいいや。 じゃあ僕のお弁当空けてみてよ」
「いやっほう!! お待ちかねぇ」
説教を聞きながら開封のお許しを待っていた俺はランチョンマットの上の弁当箱を豪快かつ丁寧に開けた。
そこには真っ白が埋まっていた。
「なあ。俺の目がおかしいのか? お弁当の中身がただの白米だけに見えるんだが?」
「おかしいね、だってちゃんと塩と砂糖をまぶしているからただの白米じゃないよ」
「俺のと大差なくねえ!?」
さっきあれだけなじられたのにこの仕打ちは許せるものではない。
「さて、何か問題でも?」
「問題しかねえよぉ!! 何でさっき俺に対してあんなに暴言吐いてたんだよ!!」
「それは君の用意した昼食があまりにもさもしい事に僕がむかついたからに決まってるだろう」
「お前の弁当も十分さもしい出来だろがっ」
「へえ自分の事は棚に上げて怒鳴ればいいと思ってるんだ」
「そっくりそのままブーメランだろそれ!!」
「随分と強気だね、ここは白黒つけようか?」
「白黒つけるまでもなく白しかないけどな、受けてたつ」
「いいじゃん、ここらでお互いの立ち位置をハッキリさせよう」
「いや立ち位置は俺が主人公でお前がヒロインそれ以外ないだろ?」
「馬鹿いわないで、僕が主人公で君は一方的に僕に行為を寄せるモブだろ?」
「「………」」
俺たちは互いにお弁当を閉じて視線をぶつけ合った。
「「望むところだ、かかってこいやぁ!!」」
「先攻は俺がもらう、…レッサーパンダ!!」
「僕の番だね…大文字焼き!!」
「狐の嫁入り!!」
「リンゴ!!」
非暴力主義の俺たちの決闘方はしりとりだった。
その五分後学級委員長がうるさいから静かにしてくれと申し訳なさそうに言われるまで俺たちは白熱していた。
「なかなかマヨネーズご飯も食べれたものだね」
「しょっぱ甘い…食えたもんじゃねえ」
「何? まだ文句言うの?」
「いやだってこれ本当に味が極端なんだよ」
「しょうがないなぁ、かして」
そういうと弁当箱を引き寄せて一口分箸ですくい俺の口元に差し出した。
「はい、あーん」
バクッ
「めっちゃうまいです!」
もう死んでもいいぃ!!
「君は本当に単純だねぇ」
「可愛いこのあーんは反則なんだよ、特にお前のはな」
「なにそれ僕が可愛いって? ふん、もっと言いなよ」
「ああもう可愛い可愛い!」
「うんやっぱやめて」
なんだよ、どっちつかずな奴(使い方違う)だな。
「いーやいい続けるね、可愛い」
「もう、好きにして…」
いつものように根負けして諦めたようだ。
そんなすねた顔も可愛い。
「うん、好きにするよ」
俺は彼女に精一杯の笑顔で宣言した。
こうして今日の昼食はいつもと違ってかなり賑やかで同級生に迷惑をかける事になった。
事だけでは終わらない。
ある一人の男子生徒が俺たちに面会を求めてきていた。
その生徒と会う事により、俺たちの高校生活の指針が決まる。
先に言うけどこれはライトノベルじゃない。
この先目を覆いたくなるような展開になるかもしれないし、まるで何も起こらないかもしれない。
でも誰にも書くことのできないこの俺の青春は、きっと…何より頓知が利いている。