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第1話、暗闇。

 真っ暗な空間だった。

 光はなく、闇もない。

 ただひたすらに、暗い。

 奥行きは感じられず、地に足がつくこともない。


 ここはいったいどこだろうか。


 その疑問に答えるものすらいなかった。


 周りを見渡しても景色は塵のひとつ分も変わることはない。

 光のない世界を捕らえることは人間の目にはかなわない。


 俺の目は開いているのだろうか。


 そう思ったとき唐突に右目を鈍痛がおそった。

 悲鳴をあげそうになった、いや、実際悲鳴を上げたつもりだった。

 しかしなにもないこの空間では音すら発生しなかった。

 恐る恐る右目に手を触れてみると、まぶたが縦に切り裂かれているのがわかる。

 即座に右目にナイフが刺さったためだと理解する。

 もはや目を動かすことすら苦痛だった。


 だが、ふと体があることに安堵した。


 あの後どうなったのだろう。


 最後に見たのは光、聞いたのは轟音、だったようなきがする。

 なにがどうなったのかはわからないがそれからの記憶は一切なかった。

 あのときの状況も、今の状況もまったくわからないことばかりだ。

 しかしそれでもただ気になるのは桜だった。

 あの時桜はどうなったのだろう。

 助かったのだろうか。

 それとも……。



『君たちは爆弾に吹き飛ばされた』



 何の前触れもなくそんな声がした。

 声がした、というのはこの空間において不適切かも知れない。

 そんな声が頭に響いてきたのだ。

 しかしその意味はすぐには理解できなかった。



『理解したくないのはわかる。だが、事実だ。』



『君たちのクラスは彼の持ち込んだ爆弾によって全滅した。』



 ああ、たしかに。

 理解はしようと思えばできた。

 光と轟音に俺たちはやはり文字通り吹き飛ばされたのだろう。

 しかしそれは最悪の事態を決定づけた。



『そう、君の恋人も一緒に死んだ』



 それは、右目が潰れ、何も見えないこの世界ですら目の前が真っ白になるような衝撃だった。

 声の出ないのを幸いとして泣き叫んだ。


 自分は泣き叫んでわめいているはずなのに、それでも頭に響く声だけが淡々と話しかけてくる。



『人の子の愚かさよ。しかし人の子ゆえの愚かさよ。』



『私はその心をめでる。』



”何を言ってるんだ。そのせいで俺も、桜も、クラスの皆も死んだんだ。”



 当然のようにこちらの思考を読み、脳内に話しかけてくるこいつにようやく言い返す。

 そして改めて脳内で、ではあるが、ようやく事実を口にして認識しなおした時に自分の現状に違和感を感じた。

 死んだならなぜ俺の体があるんだ。

 この非現実的空間はなんだ。

 というか俺の頭の中にで偉そうにしゃべるこいつは誰だ。



『そう、君は死んだ。君たちの死は、あまりに唐突で、あまりに悲しく、あまりにもったいないと私は思う。』



『だからここに呼んだ。』



”誰だ。”



”誰なんだ、あんたは。”



 新たな疑問に混乱した頭の中でわけの分からない事を言うそいつに、俺はそんなことしか言えなかった。



『わかり易いように君たちの言葉でいうなら、神というものに近い。そして君が望むのなら、私は君の救世主となろう。』



”どういうことだ。”



”助けてくれるのか?”



『そうだ。君が望むなら、私はここから君を異世界へ転生させる。』



”なぜそんなことをする。”



『気まぐれだ。君が異世界で受肉したならば、どう苦難を乗り越え、どう生きていくのか、それが気になっただけだ。』



”……。”



 聞いたもののそんな理由は俺には理解できなかった。

 変な趣味をしてやがる。といった程度だ。



『同じような話を君の仲間達にも話している。』



”なんだと?”



”桜にもか?”



 それは聞き捨てならない。

 正直、こいつの言うことはどこぞのカルト集団のエセ神父だ、と突っ込みたくなるような酷い内容だ。

 わけのわからない事ばかり言う宗教臭い神さんの言うことに踊らされて、一人で生きていくなんて勘弁だ。

 だが桜がいるならそれでもいいんじゃないかと思ってしまう。

 それどころか、例え対価を払わされるとしても転生させてくれと頼み込みたい。


 一度どん底まで落ちればそこからは這い上がるだけじゃないか。

 一度死んだのならこの宗教くさい神さんに騙されたところで痛むようなものは何もない。


 そしてもう一度生きて桜に会うことができるなら、それ以上に幸せな事はないだろう。 



『そうだ、あの部屋にいた全員に話している。』


『みな、続々と次の世界で生きることを決めている。』



”そうか。”



 と。


 理不尽だ、とは言いたくもなるが、あんな事件が起きた一因は俺にもある。

 俺なんかより巻き込まれて殺されたクラスの皆の方がよほどその理不尽を叫びたいだろう。

 

 事件の一因である俺まで転生させてもらう事が許されるだろうか、とも思うが、幸い俺は喧嘩には自信がある。


 もし本当に異世界に転生できたとしてもあいつらだけじゃ安全面に不安がありすぎる。

 だから最初は疎まれるかもしれないが、俺はあいつらを守ってやろう。


 という建前と本心が半々の気持ちと共に、やはり最大の理由はただ桜に会いたいということ。


 クラスのやつらとはそこまで関わりがなかったやつも多いが、それでも四月から一緒に過ごしてきたやつらだ。


 異世界であろうと、どこであろうと、皆がまた生きることができるならそれだけで十分だと思った。



 そうとなれば俺の方針は迷うこともなく決まった。


 だから……。 



”頼む。”



”俺を、桜を、クラスの皆を生き返らせてくれ。”



 俺たちにはまだまだやりたいことがいっぱいあったはずなんだ。

 全部はできないだろう。

 異世界だってんならできないことの方が多いだろう。

 それでも、たとえひとつでもできることがあるなら、頼む。



『よかろう、君の望みは聞き入れた。』



『さぁ、いきなさい、人の子よ。そして私に魅してくれ、人の心を。』



 その言葉とともに、俺の視界に光が移り込む。

 果てしなく巨大な魔方陣とでも言うしかない存在が広がっている。

 そこから発せられる光は徐々に強まっていき、俺の身体は耀きに飲み込まれ、そして俺の意識は世界から切り離されたかのようにホワイトアウトした。


書き溜め分連続投稿。

次回はついに異世界へ!

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