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第16話、いつもの朝。

 3組の一行が出発してから2週間。

 予定通りに旅程が進行しているなら、途中休息を挟みながら中間地点まで到達している頃だろう。

 最初の頃は特に心配で仕方なく依頼を受けて気を紛らわしていないとやっていられない程だったが、今では王都行きに参加できない程力の足りない自分にできる事は、一刻も早く単身で王都に向けて旅ができるくらいに力をつける事だと半ば諦めて依頼をこなし続けている。

 今日も朝一番でギルドに向かい依頼を受けてきたところだ。

 眠る夢魔亭に一人で席について今日の予定を考えていると、小さな体には少し大きく見えるお盆に料理を載せて運んでくる赤髪の女の子が近づいてくるのが見えた。



「お待たせしました、朝食セットです!」



「ありがと。」



 眠る夢魔亭の女将、マリーさんの娘のキャルだ。

 俺が礼を言って笑顔を向けると、キャルもきちんと笑顔を返してくれる。

 俺以外の始めてくるお客さんにも同じような営業スマイルを向けれるあたり、マリーさんがまだ八歳だと言っていたが、本当に八歳なのか疑いたくなる程にしっかりした子だ。

 まだ朝の八時にもなっていないというのに眠さを見せる事もなく母親の仕事を毎日朝からずっと手伝っているのだ。

 俺がこの子の年頃は毎日寝坊をして小学校に行っていた記憶がある。

 それを許す親も親だとは思うが、勉強に関しては放任主義だったのだ。

 今でこそ、こうやって毎朝六時には一度家を出て、朝一番にギルドに向かって依頼を受ける。

 そして、家に帰って軽くトレーニングをしてから眠る夢魔亭に足を運び、朝食を食べるという習慣が出来たが、それもこの現状があってこそだ。

 だがそんな俺じゃなくとも、キャルの働きっぷりには感心せざるを得ないだろう。



「今日は何の依頼を受けてきたんですか!?」



 元気溌剌と言った感じのテンションで今日も俺の依頼内容を聞いてくる。

 これはキャルとの朝の会話でのお決まりだ。

 キャルの父親であり、マリーさんの旦那さんである人は有名なプラチナランクの冒険者だそうで基本的にはあまりこの村には帰ってこないのだが、よく冒険章を手紙に書いて寄越してくるらしい。

 それに影響されてキャルも冒険者に憧れているらしく、毎朝徐々に依頼の難度を上げていく俺の話を聞いては期待に胸を膨らましているのだ。



「今日は魔核の収集だな。数は決まってなくて、とってきた分だけ報酬を払ってくれるんだとさ。」



「うわぁ、帰ってきたらいくつとってきたか教えてくださいね!」



 ちなみに依頼を終えて帰ってきてからおっさんとこの宿に来て、マリーさんの作る晩御飯を食べながらキャルにその日の依頼内容を語って聞かせるのもほぼ日課になってきている。

 毎度毎度キャルが期待に胸を膨らませて俺が帰ってくるのを待っているので、いつもつい依頼以上の成果を上げてしまったりするのだが。

 今回の任務は魔核を集める数は決められてないので、その面でもちょうど良いと思って受けたのだ。



「おうよ、楽しみにしてろ!キャルも頑張って働けよ!」



 そう言って俺がサムズアップすると、キャルも返してくれて、大きさの違う右こぶしの親指を立ててコツンとぶつける。

 その後、キャルはパタパタと足音を立てながら、マリーさんの厨房のほうへ走っていった。


 本格的に話すようになったのは3組が旅立ってからなのだが、まだまだ若い俺とは接しやすいのか、駆け出し冒険者の話が聞きたかったのか、なぜかキャルは俺の事を気に入ってくれてこの町ではおっさんと同じくらい仲の良い人物となっている。

 俺も妹が出来たみたいで、向こうの世界で一人っ子だった身としてはなんだか嬉しくていつも可愛がっているのだ。


 キャルが妹だとすれば母親はマリーさんか。

 可愛い妹と美人な母親に囲まれた幸せな生活ってのも良さそうだなぁ。


 いや、待てよ。

 となると父親は現状で言えばおっさん……。



「なしだな。」



 幸せだったはずが、急に沈みこんだ思考を一度停止させてから、テーブルに運ばれた朝食に手をつけようとすると、俺の思考を感知したかのようにおっさんが夢魔亭に入ってきた。

 最初に会った時に着ていた時と相も変らぬ衛兵装備で、上着も羽織らないおっさんは、きっと肌寒さなど感じないほど図太い神経の持ち主なんだろう。



「おっさん、おはよう。」



「おー、おはよう。大将、今日は何の依頼受けてきたんだ?」



「今日は魔核の収集だ。上限は無いみたいだから、狩りまくって小遣い稼いでくるわー。」



「あんまり深追いして怪我なんかしてくれるなよ?」



「大丈夫だって、初日のあれ依頼たいした怪我なんかしてねぇんだから。」



「ソロ冒険者の中だったら、かなりのハイペースで銅ランクまでのし上がってきた大将は流石だけどな。正直この銅ランクからが冒険者の最初の壁といっても良い。この町に関して言えばこれからほとんどが森での依頼になると思うが、あの森は元々南北で二つに分かれていた森がひとつに重なった森でな、このフロディーレ王国で最大の森だ。東西に走る街道が二つだった森の接点、つまりあの街道は森の中で最も浅い場所とも言える。」


 

 確かに、もはや名前は覚えてないんだが、とあるクラスメイトが神さんにもらった地図によると、森は南北に向けて広がっていた。

 その面積は広大で縦長に広がるこの森は、森の西側で大陸を分断する山脈に並列するように存在している。

 もちろん俺もそうわかっているから深追いせずに逃げる獲物は基本的には追いかけていない。



「要するに、だ。深追いして方向を見失うような事があれば森からは出られないし、森の深いところに入ってしまえば、より強力な魔獣どもの巣窟だ。用心だけはして行くんだぞ。」



 ただ、その地図の話などはおっさんにはしていないので、意外と心配性なこの無精ひげを生やしたおっさんとしか形容のしようの無いおっさんは俺に忠告してくれているわけだ。



「あいあい、わかってるよ、俺もそこまで自惚れちゃいねーから。」



 普段はちゃらんぽらんな癖にこういう時はちゃんと真剣な表情も作ってきやがるんだもんな。

 対応に困るっての。


 俺はひらひらと手を振っておっさんに返事を返すと、今度こそ朝食に手をつける。


 フランスパンのように固いコッペパンに、猪の肉を煮込んだビーフシチューと野草のサラダが今日の朝食セットだ。

 パンに味は付いていないし、野草のサラダにもドレッシングなんて洒落たものはかかっていない。

 調味料自体が高価なこの世界において、この食事は当たり前なもので、俺もそれにはもうなれきっている。

 毎日食べている、マリーさんが作ってくれる食事が俺の中では既に最高の料理となっているのだ。


 サクラから手紙が来たら、俺が王都に行ったときにはサクラの手料理をお願いしてみるのもありだな。

 そう思うと今日の依頼でどれだけ自分を追い込めるかがまた楽しみになってくる。



「衛兵さん、お待たせしました!」



 キャルがおっさんの分の食事も運んでくる。

 お盆にのった食事は俺と同じ朝食セットのメニューだ。



「おっ、キャルちゃんありがとよ!今日もうまそうだ!」



「お母さんの料理は天下一品ですからっ。」



 それだけ言うとキャルは、少し人が増えてきた食堂をパタパタと走って次の料理を取りに行った。



「そういや大将、この前の言ってたアレだが、話は通しておいたから明日の晩飯の時にここで顔合わせで大丈夫か?」



「さんきゅーおっさん。明日は早めに帰ってくるよ。」



 実は、この先冒険者としてやっていくには対人戦も必要になってくる。

 上位ランクになれば、護衛任務や、盗賊の討伐等、人間を相手にする仕事も出てくるし、賞金首に出くわす事があるかもしれない。

 もちろん俺の事だから揉め事で人間を相手にする事だってあるだろう。

 素手の人間を相手取るのと森の猛獣どもを相手取るのでは、大きく勝手が異なる事を身をもって理解した。

 おそらく獲物を持った人間を相手にするのもまた大きく勝手が異なるだろう。

 だから俺は対人戦の稽古をつけてくれるような人を探していたのだ。

 都合のいいことに衛兵として町の門で働いているおっさんは冒険者に顔が広い。

 この町を拠点にしている冒険者達に俺の相手をしてもらえないか聞いてもらっていたのだ。



「引き受けてくれたのは銀ランクパーティ”森林の守人|≪もりと≫”のリーダー。カイルって人だ。」



「まじか!”森林の守人”ってカナートじゃ結構有名どころのパーティじゃねえのか?」



 この町に来てまだ一ヶ月やそこらの俺でも聞いた事があるほどのパーティだ。

 銅ランクと銀ランクの差はかなりでかいし、聞いた話によれば、ランクは銀だが実力で言えば金ランクでもおかしくないほどだという。

 そんなパーティならわざわざ俺みたいな駆け出しをカモにする事も無いだろうし、信頼度は高い。



「そうだぜ、大将。大将ももう一ヶ月以上、上等な剣背負ってパーティに参加するでもなく、毎日毎日ソロで依頼受け続けてるからギルドじゃそれなりに知られてるみてぇだな。」



「なるほどな?いやー、大御所パーティーのリーダーに稽古つけてもらえるってなると、修行も捗りそうだな!」



「まぁそういうわけだから頑張れよ。これで大将が魔術も使えるようになりゃ銀ランクもすぐだろうな。」



「魔術はたぶん無理だな!小難しい事はわかんねーし、勉強なんかしたくもねぇ。」



 それに、日本で勉強なんてろくにしてこなかった俺にはおそらく魔術に対する補正はむしろマイナス

に傾いていてもおかしくない。

 成長補正はあるだろうからこれから頑張れば何とかなりはするだろうが、やっぱり勉強は嫌いだ。


 皿に残ったシチューをパンにつけて口に放り込むと立ち上がる。



「んじゃ、行ってくるわ!ご馳走様!」



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