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第11話、帰り道。

 さて、あの後俺たちはサクラが起きるのを待たず街道に戻り、カナートの町へ向かい歩を進めている。

 もちろんサクラを置いてきた訳ではなく、俺の背中ですやすやと寝息を立てたいる。

 昨日から歩いたり走ったりを繰り返している俺の脚はかなりガタが来ているが、森の中でもう一泊する危険を冒すこともできないし、かといってサクラをおぶるのはほかの男には譲れない。

 身体的には苦行にも等しいが、こうしてサクラとふたたび触れ合うことができる幸せをかみ締めることができるので不満はない。

 時折風に揺られてサクラのショートカットの髪の毛がさわさわと頬に触れる感触が心地よい。


 もちろん定期的に休憩は挟ましてもらっているが、疲れているのは皆同じで特に迷惑をかけているわけでもない。


 その道中、コトノにサヤカ、ユウキと高校生時代のいつものメンバーに加え、クラスのリーダー役のサトシに第一回クラス会議の内容を教えてもらっていた。


 第一回クラス会議は、転生直後俺がクラスを抜けて森に入っていった後に行われたそうだ。


 そこで決まったのはまずクラスのリーダーの選出。

 特に議論することも無く、サトシがそこで選ばれたわけたそうだ。

 それからはサトシが主にしきり、まず神様に与えられたモノや情報の共有を行ったらしい。

 ジュンのように地図をもらったものもいれば、コトノとサヤカは弓矢、ユウキは魔術を使いたいと頼んだそうだ。

 ちなみにユウキやサクラが使ったモノは、魔法ではなく魔術というらしい。

 詳しいところまでは誰も神様に聞いてはいないとサトシが言っていた。


 そのサトシだが、神様にはカリスマが欲しいと頼んだそうだ。

 なんでそんなモノを頼んだのかと聞くと『神様が、テンプレ通りのファンタジー世界の説明をしてくれたからね、そんな世界にいきなり飛ばされたら僕達が混乱するのは分かりきってるだろう?だから僕は皆がバラバラになってしまわないように、まとめることの出来る力が欲しかったんだよ。元委員長としてね。』と照れくさそうに語っていた。


 よくそんな状況でそこまで考え付くことが出来たもんだと素直に感心した。

 それと同時にサトシのおかげで俺がこのクラスに戻ることが出来たところもあるようなので感謝しておいた。


 また、ぶっちぎり一位で多かった神様への願いは『お金が欲しい』という安直ながらも、どの世界に置いても重要であろうモノだったらしく、それを聞いて全員がポケットをパンパンに膨らましてジャラジャラと金属のすれる音を鳴らしている理由に合点が行った。


 神様はよほどの大金を寄こしてくれたのだろう、一人で抱えて運ぶことはできないくらいの量だったので、皆で分けて運んでいるようだ。

 一応貨幣の相場も聞いているらしく、全員がこの世界で数年は何もせずに暮らせる位の金貨はもらっているらしい。



 それからは俺が皆の下を離れた後の話をした。

 特に森の中で巨大猪と戦ったときの話を聞きたがった。

 俺のが目を突き刺した巨大猪はそのまま街道で息絶えていたらしく、クラスメイトの晩御飯になっていたそうだ。

 知らぬところでクラスメイトの助けになれていたことが地味に嬉しかった。


 後俺は衛兵のおっさんの家に居候することになっているという説明もするとユウキ達も来たがったが、狭いし酒しかないからやめておけと断っておいた。



「いやー、長い道のりだったなー!」



 そんなこんなで俺たちは何とか森を抜けきり、一回目にここを通ったときと同様に、ちょうど良い高さの石が置いてある石に腰を下ろして小休止を挟んでいる。

 ユウキの言葉に皆口々に無事に森を抜け切ったことを喜び合っていた。


 小休止のたびにタバコを吸っていたのが功を成したのか、森の街道を抜けるまでの間に獣に襲われることは無かった。



「流石に俺ももう握力がねーわ。」



「情けないこといってんじゃないわよ。町までしっかり運んであげなさい!」



 ここまで腕をプルプルさせながら何とかサクラを運んできたが、とうとう町まで腕が持ちそうになく、ヒラヒラと溜まった乳酸を循環させなが弱音を吐くとコトノから厳しいお言葉が飛んでくる。


 長い距離を歩いてきたせいで汗をかいたのか、天使のわっかでも出来そうな綺麗な黒髪ロングの首元をふぁさふぁさとゆすっている。

 ちらりと覗く汗ばんだうなじが、陽光をわずかに反射して俺とユウキの視線を捕える。



「ちょっと、何ジロジロみてんのよ?」



 その視線に気付き即座にジト目で睨んで来る。

 正に凛とした、という表現が当てはまるコトノの顔つきはドMなら喜んで罵られたいと思うだろう。



「おお、なんと敏感なエロセンサーだっ!」



「否めん。」



 些か表現に問題があるかと思うが概ね否定は出来ない。

 驚異的な反応速度だ。



「誰がエロセンサーよっ!?そんなにジロジロ見られたら誰だってわかるわよ!」



「コトノは恥ずかしがりだから、代わりに私が見せてあげよーかー?」



 そこにコトノ隣で体を伸ばしていたサヤカも、うなじをちらつかせながら乱入してくる。



「いらん、お前の中途半端な髪の長さじゃ萌えん。」



「何よ、私のうなじならも、萌えるみたいな言い方しないでよ。」



「うーっ、いじらしいぞー、このこのー!」



「天然女たらしめー!」



 サヤカは黒髪セミロングで俺のタイプではない。

 だが性格と比例するようなはっきりとした顔立ちは誰が見ても美少女だ。


 この弓道部組は、共に整った顔立ちと、部活で適度に引き締められたそのスタイルで、校内でも屈指の美少女ポジションを獲得している。

 無論クラスの男子、いや全生徒からの羨望の的だったといえよう。


 クラスではこの二人に加え、サクラといつも一緒にいたのだ。


 サクラはアルビノのような透き通る白い肌に、儚げな薄い顔立ち、ともすれば非健康といわれそうな細い体格が男子達の庇護欲を駆り立て、入学当初、それはものすごい人気だったそうな。


 結果そんな三人と常に一緒に行動していた俺は次第にクラスの男子達から距離を置かれてしまったという過去もあった。

 ユウキは持ち前の明るさと、空気の読まなさを良い方向に発揮してクラスに溶け込んでいたが、もとより人についていくのが嫌いな俺はそんなことは気にも留めず、悠々自適に美少女達と高校生活を楽しんでいたというわけだ。


 それはクラスメイトにとって、この異世界にきても変わらない風景となってしまったようだ。


 しかし俺自身、自分で言うのもなんだがモテる部類の人間だ。

 身長もそれなりで、体も鍛えているし、もちろん他人からみて顔も悪くないんだろう。

 それだけならまだクラスの連中も文句の一つや二つ言ってくることもあったかもしれないが、いかんせん大人しくしていた高校でも俺の悪名は響いてしまっていたわけで。

 結果としてこの光景にも皆もうあきらめて口を出してくることもなく、日常として組み込まれていったのだった。



「……ごめんね。私の髪の毛が短いばっかりに。」



 談笑しつつそんなことを考えていると、ふと傍らからサクラの声が聞こえた。



「ちょ、サクラ、体大丈夫なのか!?」



 ぎょっとして隣に目をやるとサクラが体を起こして涙ぐんだ瞳でうるうるとこちらを見つめていた。


 今の会話をサクラに聞かれていたのか。

 これはまずい、非常にまずいぞ。

 サクラは落ち込んだり嫉妬したりするとネガティブモードに入ることがある。

 そうなったサクラは基本的には手のつけようが無く、最終手段として抱きしめて頭をなでてやるまでは収まらないのだ。


 だがここにはクラスメイト達がいる。

 ユウキは『あちゃーっ。』と額をおさえ、コトノは『しーらない。』とそっぽを向いている。

 なんとしてでもこんな所で公開処刑は避けねばならん。



「さ、サクラ、俺は中途半端が好きじゃないだけで、お前のショートカットは俺としてはさいこ、おわっ!?」



 地雷を避けつつもとっさに考えうる限りの賛辞を並べようとする俺に、サクラは唐突に抱きついてきた。



「ケイくんっ……。無事で良かった!」



 自らネガティブモードを解除して俺の無事を喜んでくれるサクラに、俺も場所をわきまえずほっとしてしまい、素直にお礼を言うことにした。



「サンキューな、サクラ。」



「ううんっ、私のほうこそごめんね。私があの時びっくりして泣いちゃったからケイくんを辛い目にあわせちゃったよね……。」



 そんなサクラの謝罪は俺からすれば予想もしなかったことだ。

 あの時サクラのトラウマをえぐったのは俺だ。

 サクラが俺に謝ることなんて何もないと思った。


 だがサクラは意外と強情で、一度決めたら頑固だ。

 俺がそれを否定したところで、認めないだろう。

 だから俺も『気にしてねーよ。』とだけ言って泣き続けるサクラの頭を落ち着くまでなでてやった。


 普段こんな大胆なことはしないサクラが皆の前でここまでして来たという事実は、どれほどサクラが俺を心配してくれていたかを如実に物語っていた。

 だから俺も皆の生暖かい視線を気にせずにサクラが安心できるように抱きしめ続ける。


 それから数分後サクラは泣き止んだのだが、周りのクラスメイト達の生暖かい視線に気付いたとたん、火が出る勢いで顔を真っ赤にし、石の陰に逃げ込んで顔を隠しながらクラスに謝り倒していた。


 コトノはサクラに、『今回だけだからね!』などと言っていたがおそらく二人の間で取り決められた条約に関することだろう。


 実は俺はそんんじょそこらの鈍感主人公とは違い、コトノの好意には気付いている。

 というのも、簡単に説明するとサクラに俺が告白したあとの事だ。

 すぐにはYESをもらうことが出来ず、保留のまま俺たちは学校生活を一週間ほど送ることになったのだが、その折に、二人の変な距離感に鋭く感付いたコトノに事情の説明を求められたのだ。

 実際のところコトノはある程度予想していたらしく、かなり渋った後に俺が白状しても、特に驚くこともなくため息一つついたのだった。

 不振に思った俺が今度は追及する側に回ると観念したコトノは『うっさいわねぇ!私もアンタの事狙ってたのよっ!』と顔を真っ赤にして涙目で訴えてきたのだ。

 補足事項だがそれは昼休みの教室での出来事で、その後の昼食はそれはもう大惨事だったといえよう。


 結果として俺はサクラと付き合うことになったのだが、その時にサクラとコトノの間で、コトノの前ではイチャイチャしない、その代わりコトノも積極的に俺を奪うようなマネはしない等の条約が取り決められたらしい。

 無論俺に口を出すような隙は与えられなかった。


 なんにせよサクラはコトノの前で俺に泣きついたというわけだが、事情を鑑みて今回は許してやろうというコトノの配慮だろうということだ。



 それから俺たちはサクラが目を覚ましたので少しペースを上げて町へと行軍を開始し、夕方には町の門に到着することが出来た。

 その間にはユウキ達に説明したように、サクラ達と離れた後の出来事をサクラに語って聞かせ、猪や狼と戦ったときの話をした後には、サクラはまた泣きそうになりながら無事で良かったと改めて喜んでくれていた。


 クラスメイトや、サクラと仲直りできて本当に良かったと思う。

 昨日おっさんの家から森に行く決心が出来て本当に良かったとしみじみと思い返す。



「おーい、たいしょーう!心配したじゃねーかー!」



 そんな事を思っていると、門番の仕事をもう一人の衛兵に任せておっさんが大声を上げながら走り寄って来る。

 今日3度目になるであろう説明をしなければならないことにため息を付きながらも、おっさんも俺のことを心配してくれていたことに頬が緩む。

 そこで俺はふと気付いた。



「わりー!おっさん!ランプ忘れてきちまったー!」



 『なにー!?』っと驚くおっさんに、話ついでにタバコの一本でもくれてやろうと俺は思った。

今回はかなり楽しく書くことが出来ました!

ケイ達の雰囲気を感じ取っていただければ嬉しいです!


自分で書いてておっさんが好きすぎてしかたがない。笑


11月19日、一日でPV1000件突破、全体ユニークアクセスもついに1000件突破したようです!

読んでくださってる読者様方、ありがとうございます!

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