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天陵院学園高校、大講堂にて。
生徒代表として、堂々たる演説を行うのは。
「諸君、まずは無事新学年を迎えるべく、再びこの学び舎に集い来たったこと、大儀に思う。だが、浮かれるな!」
生徒会長、霧堂雪斗。
獅子のたてがみを思わす、燃える黄金の髪。怜悧な瞳に宿る、生まれついての覇者の光。
引き締まった長身と、腕の振り方、指の先に視線の動き……そんな一つ一つの所作に至るまで、全てに支配者のオーラが宿る、学園の帝王。
この学園を運営する大財閥、日本を牛耳るともいわれる霧堂グループの御曹司。
18歳の少年とは思えない迫力と威圧感を、当然のように放つ……若きカリスマだ。
「我ら天陵院の生徒は、やがてこの国を背負い導く、尊い義務を背負っている。そのことを忘れるな。想起せよ、諸君! 我らは支配者なのだ。王たる星のもと産まれた我らは、軽薄な遊戯で青春を浪費することなど許されはしない。学べ! 歯を食いしばり、艱難辛苦に耐え、自らを高めよ! そうしてこそ我らは、はじめて頂点として君臨できる。世の高校生たちと、己を同じと思うな。我らは選ばれし者! 価値無き凡人どもと自分は違うと、その才を、力をもって証明してみせよ!」
大講堂に、生徒会長の獅子吼が響き渡る。天井を、壁を震撼させる。
「ここに、新たなる学年の始まりを宣言する!!」
潮騒のように、あるいは熱病のように。
講堂中の生徒達が熱狂に席を立ち、拳を突き上げて雄叫びを贈る。
これが、天陵院学園高校。明治の世から、この日本の支配者たちを育み送り出してきた、帝王の学府。
「……ふん。時代錯誤だな」
しかし、少年は。九条拓真は、形だけ拍手を贈りながらも嘲笑っていた。
この高校は、普通じゃない。霧堂という帝王家のためにある、ピエロたちの劇場のようだ。
潰し甲斐があると思え。拓真は、胸の中燃え上がる霧堂への憎しみを、唇を噛んで抑えた。
その氷の表情に、隣の少年、瀬尾みつるもあるいは現状への違和感があるのか。
「まあ、変な生徒会長だよね。生徒会もだけどさ」
穏やかながらも苦笑して、肩を竦めてみせた。
「生徒会……あいつらか」
檀上、生徒会長霧堂雪斗の後ろ、教師陣より目立つ位置に着席し、拍手を贈る少年たち。
全員が、この高校の通常男子の黒い制服とは違う……目映い白の、軍服めいた制服を身に纏っている。
そして全員の腕章に、燦然と輝く綺羅星の紋章。
みつるが小声で、拓真に教える。
「星鳳会って言うんだ。生徒会長直々に選んだ、特別な生徒達。生徒でも先生でも、彼らに逆らえばこの学校にはいられない……怖い人たちだよ」
天陵院学園生徒会、星鳳会。生徒会長の、全てを焼き尽くす太陽のようなカリスマとはまた別種の迫力を纏った少年たち。一人一人の顔に、瞳に、学園ヒエラルキーの、そしてこの国の権力ピラミッドの頂点に自分たちがいることを信じて疑わない、そんな傲慢さが見えた。
その顔を、一人ずつ目に焼き付けて。拓真は、隣のみつるにも聞こえないよう胸の内で、
(見てろよ、お坊ちゃんども。お前たち全員、俺の前に跪かせてやる)
狩人の笑みに、唇を歪ませるのだった。