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始業式を前に、2年の教室、朝のHR。
「今日より皆さんと一緒に学ばせて頂く、九条拓真です。2年生からの転入で、皆さんに追い付くだけで精一杯ですが、よろしくお願いします」
端正なルックスに爽やかな笑顔。
拓真の最初の挨拶は、好意的な拍手で迎えられた。
「よろしくな、転入生!」
「仲良くやっていこうぜ!」
そんな声に、
「ええ、こちらこそ。俺も早く、皆さんのクラスメートに相応しくなれるよう頑張ります!」
にこりと微笑んでみせる。その笑顔の仮面に、ぎらつく野心を隠して。
「九条君、君の席は僕の隣だよ!」
声に呼ばれ、窓際の席に視線をやる。
「君は確か、寮で俺の同室になる……?」
声の主を、拓真は写真で知っていた。
今日から生活する寮で、自分と相部屋になる予定だと、教師から伝えられていた。
……確か、名前は。
「瀬尾みつるだよ。これから、よろしくね」
みつると名乗った少年は、愛らしい童顔を綻ばせ、右手を差し出した。
拓真も細身だが、彼はそれ以上、むしろ華奢と形容するのが正しい。
小柄で可憐な体格、柔和な笑顔。声変わりも済んでないようなソプラノボイス。
髪を伸ばしでもしたら、深窓の令嬢にしか見えないだろう。
(なんだ、女の子みたいな奴だな)
瀬尾みつるへの最初の印象は、誰もがそうだろう。
拓真も、例外ではなかった。
だが、差し出された手を握り返し、
「ああ、こちらこそよろしく」
挨拶すると、彼はふふ、と天使のように邪気の無い笑顔を見せる。
この高校に通う上流階級の人間への、ひいてはこの天陵院学園自体への敵意を胸に秘める九条拓真でも、この少年、瀬尾みつるを憎むのは出来そうになかった。
席に着き、2、3、言葉を交わしていると。教師が声を上げる。
「さぁ、挨拶はこれぐらいだ。始業式に行くぞ!」