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8 虎牙峰勇魚は戦いに身を投じる

虎牙峰勇魚 コガミネイサナ

 小さな王国(リトルキングダム)のリーダー。

「――陰の支配者?」


 青年は目の前でたなびく紅の髪に向かって聞き返した。


「そう。あいつが、昨日の戦闘の場を見ていたんじゃないかって思ってさ。」


 その髪の所有者――虎牙峰勇魚はそう答えた。小柄ながらも鍛え上げられたその腕は、思案深げに組まれている。風をはらんだタンクトップの裾が、今にも彼をさらっていきそうだ。ただでさえ風の強い今日、スケボーでのパトロールをしているにもかかわらずそうならないのはひとえに彼の体幹の良さのおかげであろう。


「でも、陰の支配者って謎だらけじゃないっすか!それなのにどうしてそんなことが――」

「確かにそいつがその場にいたところで、俺は気がつかないし気付けるやつもざらにいないだろう。けど、一つ腑に落ちないことがあるんだよ」

「腑に落ちない?」


 先ほどの青年とは違う声がした。勇魚は誰に語りかけるともなく、話を進める。


「ああ。さっき"あいつ"から連絡があったんだが…あの時、あそこにコワモテの兄ちゃんいたろ?そいつの"幼馴染"ちゃんにばったり会ったらしいぜ。ピンピンしてたって」

「「「!」」」


 その場にいた者全員が一斉にざわついた。小さな王国(リトルキングダム)内で昨日から話題になっていたこと――それは、「狼前院日中が誘拐した人物は新しい戦力になるのか否か」。その答えが目の前にあるのだという興奮が、若者たちを武者震いさせた。

 果たして結果は丁か半か――。


「その子、記憶操作も何もされてなくてさ。昨日のこと、ぺらぺらしゃべったらしいぜ」


 勇魚はたっぷりと間をおいて言った。


「無能力者だから入らなかったんだってさ」


 あちらこちらから安堵のため息と新たなざわめきが聞こえる。


「あの『魔女』が人選ミスだなんて…」

「もうモーロクしたんじゃねえの?ざまあ!」

「まあともかく敵じゃないならいーや」

「けど今までに無かったよな?こんなこと」

「ああ…てゆーか能力あるかどうかがわかるって噂、嘘だったのか?」

「どっちにしろ口頭で質問くらいできただろ?何でしなかったんだ?」

「さらわれたってことはアジトかどっかに連れて行かれたってことになるし、脅しでもかけておきそうなもんだけど…」


 どよどよと広がる疑念の声は一通り矛盾点を並べ立て、彼らのリーダーの言葉を待つかのように静まった。勇魚はその沈黙に答えるために口を開く。


「どうして能力者でもないのに連れて行かれたのかまでは分からない。あの子が能力者っていう噂があったのかもしれないし、何か別の理由かもしれない。けど――記憶を消されたりしなかったのには、一つだけ結論をつけることができる」


 青年たちの中で察しの良い者達は、この時点で彼が何を言いたいのかを悟ったらしく、ただならぬ空気を漂わせ始めた。そんな、という声もちらほらと聞こえ始める。

 そういった者たちを代表するように、勇魚の傍らに控えていた男が口を開けた。


「つまり、その子が陰の――」


 そこまで言った時だった。


「!止まれッ!」


 勇魚の鋭い声。スケボーのブレーキ音。熱を持つタイヤ。それらをすべて照らし出すかのような光が、小さな王国(リトルキングダム)を包み込んだ。あまりに強い閃光に、勇魚以外の全員がひるむ。

 その、一瞬のことだった。




 バアンッ




 勇魚の目と鼻の先で、アスファルトがはじけ飛ぶ。体中の粘膜にしみるような悪臭と熱風が残暑厳しいビル街の間を駆け抜けて行った。大半のメンバーが吹き飛ばされていく中、勇魚はスケボーを盾にして腕力で風をしのいだ。

 少しずつ沈静化していく煙の中、勇魚はつぶやいた。



「なるほど…風圧で仲間を片付けて、一人になった俺を半殺しにしてカードを奪おうって魂胆か?なかなかイイ線いってるな」


 傍らのビルの上から視線を感じる。ちょうど太陽の方向だ。逆行でその姿を確認しにくいように、という考えのもとにそこを選んだのだろう。徹頭徹尾、理性的な行動。勇魚の脳裏に、[一天(イーテュン)]の二文字が浮かぶ。


――昨日の今日で、先制攻撃か。


 勇魚は、重傷を負ったメンバーたちの介抱を回復系の能力者たちに頼むと、ビルの屋上をにらみつけた。太陽光が直接目に入り、勇魚の網膜を少しずつ痛めていく。しかし、そんなことは彼にとって大したことではなかった。

 一天の一味と思われる人物は、微動だにせず勇魚を見つめ返している。


――許せねえっ!


 二人の間を結ぶ視線を薙ぎ払うように、勇魚は素早く右手を振った。


 ズカッ


 次の瞬間、ビルの屋上部分がビルから切り離された。その衝撃を受け、人影が尻もちをつく。その無防備な一瞬をとらえた勇魚はさらなる攻撃を加えた。別のビルからマジックハンドのような腕を生やし、切り取った屋上を勇魚の前へと持ってこさせたのだ。

 倒れた青年たちのうちの数人は、その光景をかたずをのんで見つめていた。


――虎が、目覚めた。


 そこにいる全員が、そう思った。彼らの前にいる虎牙峰勇魚は、それほどまでに変貌を遂げていた。

 先ほどまでの険しいながらもどこかやさしさを感じさせる瞳には、もはや殺意しかこもっていない。いつもは小さく見える体が、ゆうに2mは超えているかのように思える。何よりも彼のまわりに漂う恐ろしい空気。これを虎と言わず、何と言おう。敵も味方も震撼させる、勇魚の本来の姿が今まさにここにいた。

 屋上の上にいた人間は、一言で言うと貧弱そうな男だった。黒い中折れ帽子とジャケットに、同じく黒のコーデュロイのパンツ。薄いブラウンの髪は肩すれすれまでだらしなく伸ばされていて、肉はほとんどついていないように思われる。顔色も悪く、ぎょろりとした眼球が飛び出しそうだ。そんな男が、今の勇魚の姿におびえないわけがなかった。


「おっ…お前が、虎牙峰勇魚かっ!?」


 男はカチカチと歯を鳴らしながらそう言った。明らかに虚勢を張っている、情けない姿だった。

 勇魚は答えずに、ただただ彼を見つめ続ける。気迫のこもったその視線から目をそらすこともできず、男は無駄な抵抗を続ける。


「どっどうなんだよ!何か言えよ、オラ!合ってんのか違うのか、それくらい答えらんねーのかっ!?おい!聞いてんのかよ!?なあ!」


 勇魚はそれでも黙っていた。男はその沈黙に押しつぶされそうになりながらも、勇魚への挑発を続ける。


「答えねーってことは、お前が虎牙峰勇魚なんだろ?それとも何だ小さな王国(リトルキングダム)では向こうが名乗らねー限り名乗らねえっていう掟でもあんのかよ?ゆるーい甘ちゃんグル―プって聞いてたけど、こまけ―とこ厳しいんだなぁ!え、おい!虎牙峰勇魚ってのぁとんだキチガイリーダーなんだなあ!?」


 勇魚は少し頬の筋肉を動かしただけで、なおも黙っている。男の圧迫感による恐怖は、とうとうピークに達してしまった。


「おいおいおいおいおい!こんだけ俺が話してんのにさあ…何で何も言わねーんだ?こんなのフェアじゃねーだろ?なあ?おい!虎牙峰勇魚!お前なんだろ!?なんか言ったらどうなんだよ!なあ!それとも、何だよ…?」


 そうして、彼はとうとう禁句を口にしてしまった。


「虎牙峰勇魚ってのぁ、見た目通り器もちっせーのか?」




――あ、やべえ。


 小さな王国(リトルキングダム)の面々は、同時にそう思った。勇魚の頭の血管を簡単に引きちぎる方法。それを、この男は無意識にやってしまったのだ。

 とうとう勇魚が口を開く。


「おい」


 地獄の底から這い上がってくるような声。いったい彼の体のどこから出てくるのだろうか。男は予期しなかったその音にびくり、と反応した。


 そっと勇魚の顔色をうかがった男は、さらに震え上がる。

 勇魚は――笑っていた。

 これ以上にいい笑顔というものがあるだろうかと疑ってしまうほどに、いい笑顔。しかし、その顔は真の意味で笑ってはいなかった。

 勇魚はゆっくりゆっくり、男の心をむしばむように語りかける。


「なあ――今、なんつった?」

「え…?」


 がくがくと震える男は、その問いに一つの音で答えることしかできなかった。勇魚は、じり、とわざと大きな音を立てながら震える兎に近づく。食い殺す前にいたぶっておこうと言わんばかりに。


「さっき、なんつったかって聞いてんだけどなあ――――――?」


 そう言って勇魚がさっと手を振ると、アスファルトから触手のようなものが何本も生える。しかし、一見柔らかそうなそれらはすべてアスファルトの黒さそのままを保っており、堅さも変わっていそうになかった。

 これは、勇魚の能力によるものだ。

 物に触れることなく、それらを自由に変形させることができるという力。

 その力を十分目の当たりにした男は、自分の人生が終わりに近づいていると錯覚した。

 それほど――恐ろしかったのだ。その時の、勇魚の表情も体の形も空気も――何もかも。


「お前、俺のこと――ちいせえ、とか言わなかったか――――――ぁ!?」


 その絶叫とともに、男は触手にその体をとらわれた。勇魚のものと負けず劣らずの叫びをあげたその男は、視界の端にそれを見た。


 大きな刃のついた、

 死神の鎌を。



「は」

「ははは」

「ははははは」

「ははっはっはははははははははっははっはははっははっははッはッははっはっははッはははぁっ!!!」



 勇魚は、男に鎌を振り下ろし続けた。

 笑いながら、楽しそうに。

 自信の心が晴れるまで。


――頼むから殺さないでくださいね…。


 メンバーたちは、それだけを祈りながら彼らのリーダーを眺めていた。

うわああああああお正月ボケでえらいこと更新してなかった!まりる、ごめん!

読者の皆さん!言い訳がましいかもしれませんが、これから受験勉強や家庭の都合で更新がなかなかできないこともあるかもしれませんのでどうか「諸君、この街は今日も」を見捨てないでくださいね(>人<)


ちなみに…今回は勇魚がかなり荒ぶってました(笑 ので、彼の話をちょこっと。

勇魚というのはクジラの別の呼び方。

彼のキャラクターをまりると考えているときに、名前どうしようかってなって

電子辞書ポチポチしてたら勇魚ってのが出てきたからこれにしようって話になったんです

個人的にこのお話の中で一番好きなの彼なんですよねー

情に熱くて強くって

あと個人的に髪染めてる細マッチョって大好物なんですよねw

まあ彼のあれは地毛設定なんですけど…。


挿絵も描けたら投稿していくので、ご愛顧のほどよろしくお頼み申し上げます!(←軍師勘兵衛見てたらなんか口調時代劇ww)

以上、桜木れもんでした!

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