3 手名椎ゆゆはヤンキー(死語)と紛争に遭遇する
手名椎ゆゆ この町に引っ越してきた少女。
愛巣宮 少年。菓子で当たりをひく能力者。
林林 少女。宮の友達。
お久しぶりです、まりるです。
いや……私もゆゆ視点以外を書いてみたいんですが、流れで(笑)
黒い髪の少女、ゆゆは非常に焦っていた。横断歩道を挟んだ向かい側を歩く少年に目をひかれ、何気なく見ていたものの、その彼と目が合ってしまったのだ。しかも――これが重要なのだが――ガンをつけられている。(当社ゆゆ比)「ああん?てめえ、こっち見てんじゃねえよ」とその目が雄弁に語っているのだ。
そもそもの始まりは、一度スクールまでの道を下見してみようと思ったことだった。お気に入りの熊のフードのついたパーカを着ていれば、何でもできるような気がしてくる。実際のところ、そんなはずがないのだが。
道を歩いていると、道路を挟んだ向かい側に二人で歩いている少年少女を見かけた。
リア充爆発しろとは、ゆゆは微塵も思わない。そもそも見知らぬ男子と会話することが、自分にとって非常に困難であると自覚しているからだ。ただ、微笑ましいなあとは少し思った。
それから、彼らが着ているのが、明日からゆゆが通うスクールの制服らしかったのも、目を惹かれた一因だ。そもそも、都市それぞれに数多あるコミュニケーション・スクールに制服はないのだから、その特徴のあるブレザーを着ているだけで、エリュオン・シティ唯一のスクール、エリュオン・スクールの生徒だということがわかる。
そうしてながめていたのは、ほんの数秒だっただろうか。
少年が振り向き、こちらを向いた。
(うわああああ!)
金髪に、耳に多数空いたピアス。不良と呼ばれる種別だとしかゆゆには思えなかった。その隣を歩くピンクの髪の少女は普通に可愛らしく見えるが――というより本来は、その華やかな薄ピンクの髪に目を奪われるはずだが、ゆゆには少年しか目に入らなかった。
覚えておいでのはずだが。
ゆゆは、とてつもない怖がりだ。
(嫌だあああ。どうしよう、どうしようどうしようどうしよう。絶対こっち見てる!怒ってるよ、お前なにガンつけてるんだよって絶対思ってるよぅ)
目をそらした瞬間少年が襲いかかってくるんじゃないか――とまでは思わなかったが、体は硬直して動かなくなり、小さくカタカタと震える始末だ。そうこうしているうちに、目の前の信号は青になる。おそらく最初からその予定だったのだろう、お互い話しあうこともなく、二人の少年少女は横断歩道を渡ってこちらへと向かってくる。半融解したアスファルトを――手慣れた様子で――避けながら。
ゆゆはぎゅっと目をつぶった。
「キミだいじょーぶ?」
「ふぇ?」
目をそっと開けた先では、困ったようにさきの少年が笑っていた。
「いや、なんか震えてるみたいだし」
「ふええっ。いや、だだ大丈夫ですっ」
「そうだよ。どうせ、宮がこんなたくさんピアスつけてるから怖がってるんだって」
「いって!うわ、馬鹿ひっぱんなよ!ちょ、マジ痛い痛い痛い!シャレにならねえって」
目の前で繰り広げられるコントのような一幕に、ゆゆは思わずくすりと笑った。いつのまにか恐怖はなくなっていた。
(そうだよ、そもそも町をピアスをたくさんつけている人が歩いていて、たまたまその人と目が合ったからなんだっていうの?わたしってば、さっきの失敗を繰り返す気?)
そこまで考えて、ゆゆは電柱に頭を打ち付けたくなった。
母親に宥めすかされ、いずれ再びやってくるだろう“きゅーちゃん”に謝罪することを決意したものの、あれほど非礼なことをした自分がゆゆは猛烈に恥ずかしかった。だからこそ、こうして気分転換として町に繰り出したのだ。
(もう、初対面の人を勝手に怖がっちゃ駄目!)
ゆゆは自分に言い聞かせた。
目の前の少年少女は、思った以上に親しみやすい性格らしい。ニコッと笑った少年は、ふたたびゆゆに話しかけてきた。
「俺っちは愛巣宮。こっちは……」
「あたしは林林!りんりんって気軽に呼んでね!」
「あ、……わたし、は…」
「なあ、その制服、うちのスクールのだろ?」
ゆゆの話を聞かず、宮は話を続ける。
「何組?会ったことないよな?」
「えっ……あ、えっと、その……」
「え、何?」
「もう、この子怖がってるじゃん。落ち着いてきいてあげなよ」
怖がってるわけじゃない、ただコミュ障なだけで……とゆゆは心の中で思ったが、林の助け舟は素直にありがたかった。
「きっと心の顔では、ガンつけた上にいちゃもんまでつけてくんのかよこのヤンキーがって思ってるよ」
「思ってませんっ!!!」
その評価は一瞬で崩れ去ったが。
「だいいち……や、やんきー?って何ですか?」
「知らないの!?やだ、ジェネレーションギャップを感じるよ」
「同い年だろ……うーん、まあ、キミは知らなくていいんじゃね」
宮が苦笑いで答える。
「でさ、話戻すけどさ……」
グアシャアアアアアンン
だがそれを遮るように、強烈な音が辺りに響きわたった。
「ふえっ!?なに!?」
「ああっ、チクショウ」
「さっきの亀裂、できたてだったってこと!?」
戸惑うゆゆを放って、二人は舌打ちでもしそうな顔をしていた。
そのとき、大きな炎の球が、二人がつい今しがた渡ってきた横断歩道に直撃する。半壊していた道路は完全に壊れていた。
ゆゆは思わずフードをつかんで深くかぶる。状況はよくわからないが、危険が近寄っていることだけは確かに感じとれた。炎の球――能力者だとしか考えられないが、だけど、どうして?
「魔女まで来てんのかよ」
「ど、どういうこと?」
「は?……とにかく逃げるぞっ」
少年はゆゆの手をつかんで走り出そうとした。
だが、
「やだっ」
思わずゆゆはその手をはねのけてしまう。
本能的な恐怖と合わさって、見知らぬ人――それも男子に手をつかまれるという行為はゆゆに拒絶以外の行為を許さなかった。その上、足が震えて動かないのだ。逃げなければいけないことは知っているのだが。
「ちょ、何してんの、逃げなきゃ駄目だよっ」
少女が慌てたように言う。だが、ゆゆは確かに、その口が一瞬笑みを浮かべたのを見た。
ますます体が動かなくなる。
(え……なんで笑ったの?怖いよ…なに、ここ?異次元に迷い込んだわけじゃないよね?)
「うわ、上みろっ」
「へ?……うわっ」
宮の声に従って上を見れば、再び火の球が降ってくるのが見えた。
「おい林、そいつもう放っておけよっ。どうせ一般人傷つけたらあっちの負けなんだからさ。俺っちは――悪ィけど俺っちはこれ以上無理だ!」
そう言い捨てて、少年は走り去っていく。少女は一瞬、逡巡したようだが、結局少年の後を追った。
炎の球が落下する。
大きな爆発音を立てながら、熱風がゆゆのフードを揺らした。
ゆゆはぺたん、と、気が付けば腰を落として座り込んでいた。知らない間に目から涙がぼろぼろとこぼれていた。ガクガクと体が震えて、動く気配はまったくなかった。
あの少年たちのことを薄情だとは思わない。ここまでくれば、ゆゆにもわかっていた。
紛争だ。
夜々――ゆゆの母は何も言わなかったが、エリュオン・シティは紛争の真っただ中だったのだ。いや、これはゆゆに非があるだろう。どこの都市が紛争中なのかは簡単に調べられるし、普通は引っ越しさきのシティに関してそれぐらいは事前に確認しておくはずだから。
そして紛争中のシティで、見知らぬ他人のために自らの身を危険にさらすなど、馬鹿以外の何者でもない。ゆゆももう子供でないのだから、自分の命ぐらいは自己責任だ。
だから、この体が動かないのも、ゆゆのせいで。
涙が、頬を伝っていく。
「――君」
冷たい男の声に、そろそろと顔をあげた。数分経ったのか、数十分経ったのか、気が付けば、炎の落下する轟音は鳴りやんでいた。
見上げた先にいたのは、なぜかスーツ姿に眼帯をした男だった。目が合った瞬間、何かに驚いたかのように彼が目を見開く。――視界は涙で歪んでいたから、定かであるかは疑いがあるが。
「君」
男は再び同じ言葉をはく。だが、先ほどよりその響きは柔らかかった。
「なん、ですか?」
震える言葉をゆゆはゆっくりと紡ぎだした。
「どうしてこんなところにいるんです?危ないでしょう」
「あ、わ、たし……っ」
言葉が出てこない。
もしかしたら、――いや確実に、この男は能力者だろう。紛争に、チームに所属していない一般人が参加することは不可能で、かつ紛争が勃発した瞬間、さきの宮と林のように、一般人は逃げていくのだから。
「どうした?」
そして音もなく、その人は現れた。
だが驚いた様子もなく、男は背後から近寄ってきた人物に答える。
「申し訳ありません、逃がしたようです」
「それくらいはわかっている。……それでその者は、っ」
男に声をかけた人物は、泣いているゆゆを目にした瞬間、男と同様に目を見開き、言葉をつまらせた。
「それは一般人だろう。紛争が起こっているというのに……どうして逃げなかった?いや、逃げられなかったのか……?チッ、愚かな。おい、怪我はないか?」
ゆゆはゆるゆると首を横にふる。
「そうか。……私は、狼前院日中だ。[獄炎の魔女]などと呼ばれている。――お前は?」
その人――ゆゆと同じくエリュオン・スクールの制服を着た女は、無表情で名前を尋ねた。
狼前院日中 ?
眼帯の男 ?
眼帯のほうはまだ絵を見たことがないので楽しみです~
あと、1話の挿絵を作成中のようですよ
ということでまりるでした、読んでくださってありがとうございます
テストがあるので、2,3週間は更新できないかと思います…