表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/37

35 古井戸桜は妥協する

 古井戸桜が狼前院日中に初めて会ったのは、桜が17歳、日中が12歳のときのことだった。人類、いや世界すべてが敵だというように睨む少女。顔を合わせて感じたのは、こんな少女を護衛してろなんて馬鹿みたいな話だということだった。


 それから、桜が日中に忠誠を誓うまで、紆余曲折があったのだが。


 それは紛争の最中に語ることではない。


 ただ17歳だった桜が確信したのは、狼前院日中が自分と同じ17歳になったとき、自分とはまったく違うモノが見えているんだろうな、ということだった。

 もっと遠くまで見渡し。

 もっと深くまで見透し。

 日中が見えるモノたちに潰されてしまわないように、自分が守らなければいけない。自分にはその義務がある。


 つまり簡単にいえば、桜は日中の統治者としての片鱗、将来性を見出し、惹かれたのである。


 言葉にすれば軽いが、


 現在、

 桜は22歳。日中は17歳。


 自分が忠誠を誓った歳に日中が近づくにつれ、桜は日中の判断に絶対の信を置くようになった。たとえ、日中の決断が間違っていたとしても、彼女が読めなかったことを自分が読めるはずがない。ならば彼女を信じ、彼女の駒となるのが臣下の正しい姿だろう。



 だけれども。



 目の前のこのちっぽけな少女においてだけは、日中の決断をどうしても理解することができない。

 こんな何もできない体的にも精神的にも弱い人間を、どうして[一天(イーテュン)]に在籍させ、そのうえ守ってやらなきゃいけないんだろう。

 本音を言えば、今すぐ追い出してやりたい。できれば王国の目の前にでも、「[一天(イーテュン)]から追い出されました、好きにしてください」って首にぶらさげてやって。


 でも、日中さんの命令だから仕方がない。


「じゃあ、カードの保管庫を開けるから。誰か見ていないか、周りに注意していてね」

「は、はい!」


 まあ、見ていたところでどうせ[一天(イーテュン)]のメンバーだろうから、どうもしないのだけれど。


 暗証番号を入力し、ダイヤル式の鍵と合わせて保管庫を開ける。


「えっ……!?これが、カード……」

「そ」


 保管庫の中には、桜の身長の半分ほどはありそうな、巨大な金属板が眠っていた。表面はライトを浴びると紅色に輝く銀。中央には、[一天イーテュン]という巨大な文字。今は見えないが、裏には議会のマークである二重円が同じように彫られているのを知っている。


「ずいぶん、大きいですね……」

「本来一番安全なのは、日中様の隣だから。向こうもそう考えるだろうし、小さくて携帯しやすい形だったら、リーダー同士で戦って終わり、になっちゃうでしょ。他の紛争は知らないけど、たぶんそういうことじゃない?」

「[小さな王国(リトルキングダム)]も、こんな風に大きいんですか?」

「さあ。知りたかったら[小さな王(リトル)]にでも聞いてくれば?」


 実際のところ、精神干渉系能力者によって、形まではわからないものの、長時間携帯していられないらしい、ということはわかった。持っている時間に応じて倦怠感が出るとか、凍傷を起こしそうなほど冷たいとか、そういったことだ。形まではわからないけれど、同じ条件にするためには、その厄介な能力以上の何かはないだろう。


「じゃあ、これを持って次のアジトに行くよ」

「あ、待ってください!きゅーちゃん……えっと、幼馴染を呼んでもいいですか?」

「ハア?あんたばかじゃ

「日中さんからはいいって言ってもらえたっていうか……日中さんから言いだしたっていうか……」


 困ったような顔で見上げてくるゆゆを見て、桜は即座に前言を撤回した。


「構わないから早く呼んで」


「わ、わかりました」


 少し離れて端末から電話をかけたゆゆだが、二、三言話すと、通話を切った。


「あの……どうしましょう」

「何があったの?」


「きゅーちゃん、深夜さんと王国の戦闘を確認しようとして、逃げそびれたみたいで、能力が飛び交う中で隠れているそうなんです……!」

まりるでした。

読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ