2 愛須宮は今日もアイスを食べる。
えっと、れもんです。めっちゃ遅れましたごめんなさい。そして内容支離滅裂orz 次はもっと上手に…書き、たいなあ…
残暑厳しい、街の片隅。
「おばちゃーん、チョコたんバーひとつ」
「はいはい、いつもありがとね」
一人の少年が満面の笑みで駄菓子屋「とめちゃん」から出てくる。片手に安っぽいチョコレートバーの包みを持ちながら。少年、といっても幼い子供ではない。彼の髪は金色に染め上げられ、耳にはシンプルなシルバーのピアスがいくつもささっている。右手の中指では、赤いルビーを模したプラスチックをはめ込んだ、一目で安ものと分かるような指輪が冷たい光を放っていた。
彼の名は愛須宮。エリュオンスクールの生徒だ。
宮は軽やかなステップで「とめちゃん」から離れ、少し離れたところにいる少女に声をかける。彼の友人、林林。彼女もまた、スクールの生徒だ。
彼女はつややかな髪を揺らしながら、宮に向き合った。
「宮、またそのアイスー?」
「もちのろん!」
「宮っていっつもそれだよねー。高級カップアイスとか食べないの?」
「そんなの買う余裕なんざ俺っちにはねえ!」
「それ買う余裕あるんだったら一週間くらい貯めればいいのにー。今、パーゲンペッツがやってるんだよね、『当たりが出たらもう一個!』って。貯金してパーゲン買って当てて私にちょうだいよ」
「おいおい…俺っちのこの力はそんなせこいことするためにあるわけじゃないんだぜ?」
「ドヤ顔して『だぜ?』とか言わないでよ。だっさいなー」
仲の良い二人の会話。それが途切れるのを待って、宮はアイスの袋を開ける。中から出てきた茶色い氷菓にかぶりつき、宮は何とも言えない顔をした。
「んーっ!これこれ!やっぱ夏はこれだね~」
「って言ってももうすぐ終わるけどね。夏休み」
「それ言うなよ…気分なえるジャン」
「ジャン・キリ○ュタイン!」
「うんそういう発言はちょっとアレだから控えようかって言うかそうやって伏字にしても見る人が見たらわかるから」
「ちぇー。世知辛いねえ」
林が口をとがらせながら黙って歩く。その隣を宮がアイスをなめつつ彼女に従う。いつもの光景。林は、少しずつ見えてきたアイスの棒を見るともなしに見た。
その棒の先に書いてあったのは――。
「あたり」
「いちいち発言しなくてもいいよ。もう分かりきってるし」
「え―…冷たいな、林」
「はいはいすごいねー宮の能力」
「褒められてる気がしない…」
「褒めてないもの」
「ひでぇ!俺っちのガラスのハートがぁ!」
「あんたのハートは鋼鉄製だと思う」
「林~…」
がっくりと肩を落とす宮。その右手に握られている食べかけのアイスが、暑さと自重に耐えきれずに道路にべシャリと落ちた。あらわになった棒の先には、予測通り『あたり』の三文字が印字されている。
そう、これこそが宮の能力なのだ。
エリュオン・シティは多くの能力者が集う街だ。
能力者、というのは生まれつき何かしらの能力を体に宿している人間のことである。一口に能力と言っても、200mを19秒台で走るとか、テストで高得点を取り続けるとかといったものとは一味違う。能力者のそれは科学の力では証明しきれない、目を見張るような物のことを指すのだ。彼らはそういった力を駆使して人々を守ったり、力を競い合ったり、実力教科にいそしんだりしている。
そして、彼らの能力のほとんどには、他称であれ自称であれ名前が付いている。宮もその多分にもれず、自らの能力に名前を付けていた。
宮は、彼の力を「神の恩恵」と呼んでいる。
名前は大層なものでも、その能力自体はそんなにすごいものではない。当たりが出るお菓子などを買うと必ずあたりが出て、食玩を買えば必ずレアが出るという、ただそれだけだ。無能力者から見たら、「あれ?何かあいつラッキーだよなー」と思われるだけである。
はっきり言おう。しょぼい。かなりしょぼい。カッコよさのかけらもない。
宮自身も、この能力に気がつくまでかなりの時間がかかった。あまりにスケールが小さかったからだ。しかし、自覚が無くても能力は発揮されるものだ。幼少期にはやっていた戦隊ヒーローの食玩を買い集めていた頃は、買っても買ってもレアなフィギュアしか出ず、「レアがほしけりゃクズキャラのフィギュア持って愛須のところへ行け」とまで言われた。友達と一緒に当たり付きのお菓子を買いにいくと、必ず自分だけ当たって羨望のまなざしを受けた。神社のおみくじも必ず大吉だったため、大凶など都市伝説だろうと思っていた。
そんな自分がおかしいと思ったのは、10歳ごろのことだった。夏の日の午後、友人たちと集まって公園でサッカーをしていた時だった。その日はかなりの猛暑だったため、太陽の光をたっぷり浴びながら走っていた彼らは、あっという間にのどが渇いた。そのため、『靴を飛ばして一番近くに落とした人が全員分のアイスを買ってくる』というちょっとしたゲームをすることになった。その結果、宮が買ってくることになったのだ。
宮は、その当時男の子たちの間ではやっていた当たりつきのソーダアイスを買って、彼らのもとへ戻った。満面の笑みで受け取った彼の友人たちはむさぼるようにそれを食べ――。
ある事に気がついた。
「あれ?あたりじゃん」
「おー、俺もだ!ラッキー!」
その二人までは良かった。だが次の瞬間、彼らは異変に気がついてしまったのだ。
「え…?俺も、当たりなんだけど…」
「俺も!何で…!?」
「…え?何これ、気持ちわりい…」
ぞっとしている少年たちを不思議そうに見つめ、宮は素っ頓狂な声をあげた。
「え?こーゆーのって、絶対に当たりが出るようにしてあるんじゃないの?」
その瞬間、公園の空気が凍りついた。
「…え?そんなわけねーじゃん」
「そーだよ、そんなんじゃあっという間にアイスなくなっちゃうって…」
「宮…お前、まさか…」
「能力者なんじゃね?」
「いやー…あの時はマジでビビったな」
「何一人で妄想に浸ってるわけ」
宮は林の冷たい一言に我に帰り、自分が今赤信号を渡ろうとしていたことに気がついた。幸いにも車などは通っていなかったが――それでも危険であることには変わりない。
「あ…」
なぜなら、その道路は大きくえぐられ、アスファルトが半融解していたからだ。
「…ひどいね。これ、また一天かな?」
「さあな…どっちもありうる」
「…何年続くんだろうね。能力者のトップ争い」
「分かんね。ま、いいんじゃねえの?俺っちたちが無事なら、それで」
「そうだね」
林は笑って宮に向き合った。
「何にせよ宮は、どっちかに貢献できるほどの能力者じゃないもんね。いつでもひゃっぱで無事だよ」
「なんだそりゃ、ひっでぇ!」
笑い合う二人。そんな仲睦まじい友人同士の会話を、残暑の生温かな風が緩やかになでていった。
その時――
「ん…?」
宮は自分に刺さった視線に気が付いた。
「宮、どうしたの?」
「いや…」
答えながら振り向く彼。
その瞳がとらえたものは。
「…何だ、ありゃ?」
宮たちを見て震えている、黒髪の少女だった。
つぎはまりるです。あと、イラストはそのうち書こうかな…汚いですが。