25 歳瀬皐月は「彼ら」になる
私は周囲を警戒しながら、道を歩いていた。いつもと変わったことがないか、一緒にパトロールしている仲間と話したり、道行く人に尋ね、また[一天]の影がないかにも気を配っていた。この周辺は[一天]と勢力が拮抗しているからだ。いつ奴らが現れるかわからなかった。
重要なのは、気を負いすぎないこと。王国が緊張しているのをみれば、[一天]のほうが余裕があるのではないかと思われるから。
だが、今日ばかりはそんな悠長に構えてもいられなかった。仲間が殺されているのだから。
その様子を、私は真正面から見つめていた。透明化のスキルを使っていたのだ。自分と、仲間に対して。こんな地味な能力は嫌いだったが、こうして[一天]の役にたつならば喜ばしい、と仲間に対して話した。
そして私は、軽口を叩くなと補助系能力使いに言い、重力倍加能力を使う。さっと手をふれば王国の人間たちは地面に倒れふした。
おそらく他の能力を使ったため、透明化のスキルが無効化される。同時に構えていた銃を連続で撃った。外した。王国の人間が重力に耐えながら転がったのもそうだが、私は普段、銃の練習をする権限を与えられていなかった。これほど[一天]につかえているのに。[一天]のために、矮小な人間の集まった王国を滅ぼそうとしているのに。どうして認めない、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いにくいにくいにくいにくい
「皐月」
劣勢に追い込まれた私たちだが、幸いなことにパトロールメンバーの一員私は転移系能力者だった。
私にこの人数の同時に転移させた経験はなかったが、仲間を助けると同時に、勇魚さんにこのことを知らせなければならなかった。圧力が加わったときに頭を地面に打ち付けた者もいるし、何よりあの銃は脅威だ。撃たれた足の痛みと、キャパ以上の能力使用によりガンガン響いてくる頭痛と、吐き気に耐えながら、能力を行使した。
景色が変わる予兆が見える。助かった。
ああ、でも。
痛いんだよ、勇魚さん。助かったけど、こんなに痛くて本当に助かるのか?転移は間に合うのか?
痛い、痛い、痛い痛い足が頭が心臓が痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいた
「皐月」
残された私たちは、取り逃したことをしり舌打ちをした。何故殺さなかった、と仲間を非難した。あっちが卑怯な手を使ってきたんだから、と言い合った。
そこへ彼がやってくる。私たちの――
「皐月、大丈夫か?」
目を開けると、皐月の視界に青年の顔がうつった。歳瀬文月。皐月の、正真正銘の兄だ。
「うん、大丈夫」
頷き返す。それでも、顔が青くなっているのはごまかせないだろうなと思った。実際に立ち上がっても、ふらりと体がゆれる。
「ほら、大丈夫じゃないだろ」
「大丈夫だから。はやく勇魚さんに報告に行かないと」
実のところはかなり辛かった。体がとはいうよりは精神だけれど、精神は体に影響する。ひどく汗をかいているのを皐月は自覚していた。
皐月の過去視は、その場にいた人物の視点を借りる。時には、その人物が激情を抱けば、それが皐月にももたらされることがある。私が見ていると感じつつ、これは別の人が見ているんだと頭で考えていたものが、私がいたんだと思い込んでしまうのだ。
感情まで知ることができるのは、過去視の能力者としては強い力だが、それでも精神にまで影響されるのは辛い。
今回は現場が綺麗だったからまだよかった。
現場保存がしっかりとなされていないと、人物の視点がまじりあい、実際にはあり得なかった光景や感情が作り出されることがある。そんなときには、頭の中がぐちゃぐちゃになって、過去視どころではなくなるのだ。
「勇魚さんに……?過去視はどうだったんだ?」
「やばいの。相手は本気で殺す気だった」
文月の顔が険しくなる。文月は王国の中でも穏健派だった。暴力が嫌いなのだ。
それが能力由来なのか、そんな性格だからあんな能力を得たのか、皐月にはわからない。
「でも、あのあと狼前院深夜が来て……」
「四兄弟の末っ子が?」
最後に駆けてきたのは狼前院深夜だった。
「うん。襲ってきた奴らは、狼前院深夜のお友達だったみたい」
お友達、というのを揶揄するようにいったのは、それが単なる仲良しこよしの友達ではなく――ある意味ではそうだが――[一天]でもっとも統率のとれていない集団だからだ。
「独断専行だったの。狼前院深夜に怒られてたわ。
でもだから、[一天]の総意じゃないわけ。はやく、勇魚さんに言わなきゃ」
そう言う皐月に、文月が静かに首をふる。その顔は憂いに満ちていた。
暴力が嫌いなの文月の顔が。
そして静かに皐月に告げる。
「もう遅い。勇魚さんは、行ってしまったんだ。[一天]と全面抗争を始める気だよ、勇魚さんは」
えーと…月曜じゃないですね。数分前まで月曜だったんですけどね。
すみません。
次のれもんが余裕をもって投稿してくれるのを祈ります。