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16 雨森九馬は組み立てる

雨森九馬 ゆゆの幼馴染。

手名椎ゆゆ 臆病な少女。

狼前院日中 スクールの生徒で一天(イーテュン)のリーダー。

狼前院朝日 日中の兄で補佐役。

 スクールの生徒たちが、街中を支配するように歩いていく。校舎を始点としたその流れに逆らうように、雨森九馬は大通りを急いだ。


「ねーねー、帰りゲーセンいかなーい?」

「ごめーん、母さんに早く帰れって言われたー」

「あーそっか。人死に出たしねー」

「物騒だよねー」


 通りすがりの生徒がそんな会話をしていた。人死にが出た、という話を九馬はあちこちで聞いた。今までにない物騒な事件ということもあって、あちこちで身の安全を確保しようという声が上がっていたが、九馬にしてみればそんなことはあまり意味がない行為だった。近所に空き巣が入ったからと窓にくぎを打つようなものだ。これから自分たちがするべきなのは、殺されないようにすることではない。殺したと勘違いされないようにすること、そして殺しが招く紛争に備えることなのだ。

 そうはいっても、九馬はゆゆのことが気がかりだった。あちこちを駆け回って情報を聞き出し、何とか安否を確かめることはできたものの、直接会って話をしたわけではない。二日前に一天(イーテュン)のアジトに行くところを見て、それっきりだった。

 自分でも過保護だと思っていた。しかし、


「……やっぱり、気になるもんは気になるんだよな」


 胸騒ぎがする。今回の事件はゆゆとかかわりがあるという感覚が、事件を聞いた直後から虫のように体の中をはいずりまわっているのだ。おそらくこれは、第六感というやつなのだろう。根拠はないが、肌で感じる。それで彼女を迎えに行こうと、小走りでスクールに向かっているのだ。

 その時、ふいに声をかけられた。


「ちょっといいか、兄ちゃん」

「あ?」


 急いでいたこともあり、九馬は少しにらみつけるように声がしたほうを振り返った。九馬は身長が高く、目つきも鋭いため、こうしただけで大抵のものはどこかへ逃げる。だが――今回は違った。


「あ、その、少しお伺いしたいんでありますが……」


 声の主はびくつきながらも、九馬に絡み続けたのだ。度胸のある奴だ、と思いながら、九馬は彼をじっくり見た。派手な蛍光色のTシャツに水玉のサルエルパンツという、いかにもちゃらちゃらした格好で、髪の色はショコラアッシュ。特に能力はなさそうだ。敵ではない。


「悪いが、急いでいるんだ」

「そんな、お時間は取らせね……っす!ちょっと、ちょっとだけ簡単な質問に……」

「宗教は間に合ってるよ」

「違うんす!あの、今度の”人死に”について……」


 人死に、と聞いて九馬は少し驚いた。こんな男が、”人死に”について調べている。彼は被害者に何か関係があったのだろうか、それとも――。


「人死に?」


 何気ない素振りで、九馬が聞き返す。


「そっすそっす。実は、俺、被害者の関係者の者なんすけど……」

「へえ、お前が?」

「そうなんすよ。あの――こんな奴らを知りませんか?」


 そう言って、男はスケッチブックを取り出した。そこにはうまいともへたとも言えないような少女と男のスケッチが描かれていた。しかし、九馬にはそれが誰かわかった。少女のほうは狼前院日中、隣の男は朝日だ。この男は一天(イーテュン)の重役達を見たことがないらしい。


「知らないな……この子がなにかしたのか?」


 九馬は、自然と嘘をついた。男はそんなに賢くはないらしく、ぺらぺらと話し始める。


「いや、すんません。俺、生駒さん……あ、生駒さんってのが死んだ人なんすけど、昨日の夕方、地味ーな女の子をナンパしてたんすよ。《小さな王国|リトルキングダム》の奴の女じゃないかって思って。まあ、違ったんすけど」

「へえ。それで?」

「そしたらなんかこいつらがえらそーな態度でやって来て、俺たち、やっちまうか?みたいな空気になったんすよ。けど生駒さんふらふらどっかいっちまって、追いかけてたら見失っちまって……きっと、こいつらが悪いんすよ!能力かなんか使ったんす!絶対見つけないと!」

「それは議会に報告するべきだろ。自分で調べてんのか?」

「それが……」


 男は、急に口ごもった。


「言ったことには言ったんすよ。けど、なんか面倒くさいみたいな対応されて、そこらへんの紙にメモしておしまいだったんす。あんなので絶対解決するはずないっすよ!」

「なるほどな。まあ、頑張れよ。」


 はい、と元気よく返事をすると、男は踵を返して走って行った。少し先のスクールの生徒に声をかけて、怖がられている光景を見てから、九馬も自分の目的地に向かった。

 歩いている最中、九馬はずっと爪を噛んでいた。


「地味な女、狼前院兄妹、ふらふらどっかいっちまって……」


 ぶつぶつ、とさっきの男の話を反芻する。九馬の中の虫がものすごい速さで動いて、額からふつふつと脂汗がにじんだ。九馬自身でも、まさか、と思う。だが、九馬の中で自然とピースが合わさって、虫食いのジグソーパズルが組みあがった。そこから自然と導き出される答えに、九馬は吐き気を覚え、足をよろめかせる。

 いつの間にか、九馬はつぶやいていた。


「ゆゆ――」


「きゅーちゃん?」


 だしぬけに声をかけられて、九馬はぎくりと足を止めた。いつの間にかスクールの前まで来ていたらしい。校舎の前で鞄を抱えたゆゆが、驚いたように立ちすくんでいる。


「ゆゆ……」


 健康そのものと言った感じのゆゆの存在に、九馬はふっと笑いを浮かべた。どうやら、何もゆゆの身には起こっていないらしい。自分の考えすぎか、と思うと、なおさら笑いが浮かぶ。


「元気そうだな」

「うん。あ、そうだ。きゅーちゃん、私、お友達が……」


 頬を少し上気させて。ゆゆが話そうとする。すると、その場に凛とした声が響いた。


「すまない、待たせたな」


 九馬とゆゆが、同時に声がしたほうを振り向く。九馬は驚きの声をあげた。

 そこにいたのは――


「狼前院、日中……」




 九馬の中でまた一つ、パズルのピースが集まった。

桜木れもんです。

最近時間がないと感じることが多くなりました。授業や劇団サークルの稽古が本格化してきたこともあって、大学生とはなかなか忙しいものだと実感しています。この小説だって夜の10時に必死こいて書いてます。まりるよりひでえ。おかげで遂行できる趣味の範囲が狭まっています。誰か心と時間のゆとりをください(´・ω・`)

てなわけで少し前に一日3時間睡眠で頑張ってみたのですが、サークルの稽古中にぶっ倒れるという失態を犯しました。先輩がえらい心配してくるので事情を説明したところ「君はナポレオンか」とおしかりを食らいました。それだけでなく、ぶっ倒れてから一週間は日替わりで微熱・腹痛・悪寒などの体調不良となり、一日3時間睡眠は無理だなーと思いました。やっぱり健康第一ですね。

次はまりるの番です(意味深)

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