15 虎牙峰勇魚は激昂する
こんにちは。佐山まりるです。
虎牙峰勇魚・・・能力者グループのリーダー。
柴原カガチ・・・勇魚のグループの一員。
志島生駒・・・・死んだ。
狼前院日中・・・別のグループのリーダー。
「勇魚さん!ここにいたんスかっ」
勇魚の姿をみつけると、犬のように駆け寄ってくる男。
「飲み物買ってきましたッ」
「いつもありがとな……ってこれホットじゃねえか!いま真夏だぞ!?」
「大丈夫ッスよ勇魚さん!カレーって熱いけど涼しくなるらしいじゃねえッスか!それと同じでーー」
「同じじゃねえよ!」
馬鹿だが、一途に勇魚を慕ってくれていた。
「怪我はなかったか?」
「へへッ、なめてもらっちゃ困りますよ、勇魚さん。俺があれぐらいの相手にやられるわけないじゃないッスか。俺は勇魚さんの部下ッスよ?」
厳ついタトゥーを見せびらかしながら、子供のように笑っていた。
そんな男は、もうこの世にいない。
「勇魚さん、あいつら……」
カガチの言葉に前を向き、勇魚は思わず息をのんだ。
紛争中のエリュオン・シティでは、警察のような役割をする機関はない。議会はあくまで、調停機関だからだ。何か事件が起こった場合には、自分で解決するほかない。この国では、それが常識だと組み込まれている。あるいは、自分に近しいグループに頼んで調査してもらうかだ。紛争中のグループを手間取らせるしたたかさが必要だが。
今回も例外ではない。
現場百編、ということで、とりあえず勇魚たちはカガチの死体がみつかった現場に来ていた。
そして、彼らを見つけた。
「おい、魔女。何故ここに来ている?」
[一天]の四兄弟のうち次女を欠いた、狼前院朝日、日中、深夜。そして黒い服を身にまとった部下たち。
あまりにものものしい様子で、辺りの調査を行っていた。
お互いの姿を目視してから、動きを止め、相手の出方をうかがっている。ぴりぴりとした空気が肌に伝わってきた。
当然だ。
勇魚と日中は普段、あまり顔を合わせない。合わせたら最後、死人が出るまで戦闘になるとわかっているからだ。
だが、このような事件が起これば、衝突は回避できない。
日中はくい、と眉をあげてこちらを見る。
「何故とは奇妙な問いだな。ここで殺人事件が起こった。調査するのは当然だろう?私たちがこの町を支配しているのだから、その義務がある」
「てめえのふざけた話にはいくつか突っ込みたいところがあるが……
まず、この町を支配するチームはまだ決まってない」
「だが、いずれ私たちに決まる。いや、違うな。私たちが支配するはずだった。正常な状態に戻そうというだけだ」
「てめえっ……」
「やめろ」
あまりにも傲慢な台詞に能力を発動しようとするカガチを、勇魚はいさめた。
「すみません、勇魚さん。熱くなっちまって……」
「いい。
そして魔女。お前にはもう一つ言いたいことがある
お前はさっき、殺人事件といったな。だが、志島はまだ殺されたのか、事故だったのかわかっていない。それをまるで、見てきたように言うもんだな」
勇魚は無表情でこちらを見る日中をにらみつけた。
「一天があいつを殺したんじゃないのか?」
能力で人を殺すのなど簡単だ。
地上数十メートルまで転移させて、そのまま能力を解除する。
あるいは相手を人形化して操る。
幻覚をみせる。
落下したのと同じような衝撃を与える。
あるいは、勇魚が把握していない能力者も、この町には大勢いるだろう。
そして、能力者の絶対数で最も怪しいのは一天だ。
勇魚の追及を、日中は鼻で笑った。
「くだらないな。私は殺人事件にしか思えないから、そう言っただけだ」
「遺体の状況からはわからないらしいがな」
遺体は葬儀まで、議会が引き取ることになっている。報告もそちらから来た。
隠しているわけではなく、議会のビルに行けば会えるそうだ。
「そんなものは関係ない。貴様、仲間を増やすのはいいが、ちゃんと手綱を握っておけよ?
志島生駒は自殺するようなタマじゃない。むしろ、殺されたといったほうが納得できるような人間だ」
殺されたといったほうが納得できるような人間。
日中の言葉が、じわじわと勇魚の頭にしみこんでいく。
「わかりやすく言ってやろうか?
志島生駒は殺されて当然のクズということだ」
「貴様あああぁぁぁぁ!」
カッと視界が赤く染まり、気が付けば勇魚は能力を発動していた。勇魚の怒声に合わせて、周囲のアスファルトが無数の動く鞭のように隆起し、しなり、日中へと襲いかかる。背後で部下たちが叫んでいるのが聞こえたが、勇魚の耳には入らなかった。
パアン!
甲高い音がして、何もない空間で鞭がはじかれる。防御系の能力者だ。
それを翻し日中に振りかざしたが、今度はこちらが防御に回さざるをえなくなった。日中が炎を放ってきたためだ。それだけではなく、頭上に炎球をため、攻撃の様子をうかがっているので、こちらもゆらゆらと数本のアスファルトをいつでも防御に回せるように待機させる。
膠着状態に陥るのを防ぐため、地を這う蛇のようにアスファルトを変形させて――
「勇魚さん!」
唐突に、世界に声が響いた。
違う。そうわかっていて、そっと振り返れば、カガチが勇魚の右肩を強く握っていた。
「現場保存、じゃないんスか」
「そう……だな。悪ィ、カガチ」
「ほんとッスよ。リーダーは冷静じゃなきゃ」
そう言ってカガチはニヤリと笑った。
向かいをみれば、日中も炎球を消し、側近の朝日と話し込んでいる。
勇魚の視線に気づくと、肩をすくめた。
「残念だが、時間切れのようだ。これから学校があるからな」
「どうでもいい……」
そう答えかけ、勇魚はふと疑問を抱いた。
「学校?お前が在籍しているのは、名ばかりのはずじゃねえのか?何を今さら……」
「学生の本分は勉強、だろう?」
そう答える日中は、明らかに煙に巻こうとしている。今までろくにスクールに通っていなかったのは、報告されている。それをいきなり、しかもこんな事件が起こっている中で行く必要があるか?
何かある。
だがその「何か」はまだわからない。そして追求する時でもない。素知らぬふりをされるだけだ。
勇魚は去っていく日中を黙ってにらみつけていた。
そこへ、部下の卯月から報告が入る。
「すいません、勇魚さん……過去視に失敗しました」
申し訳なさそうにうつむく歳瀬皐月は、小さな王国では珍しい、大人しい外見の女性だ。その能力「数直線上の同一自己」は制御が甘いが、非常に重要な過去視である。情報収集がこれだけで済むといっても過言ではない――制御は甘いが。
普段は能力は使わず、その女性としての包容力でチームをまとめ、勇魚の側近として活躍している。
「いや、俺のせいだ。さっき現場をぐちゃぐちゃにしたからな」
自分がもっと冷静であれば。
こればかりは、自分に怒りをぶつけるしかない。
「私の力がもっと強ければよかったんですけど……」
「無い物ねだりはよくねえな。おい、お前ら!現場のぞきに行くぞ!」
「「「うす!!」」」
これだけの仲間がいれば、怖いものなどない。アイツの死の真相を、つきとめてやる。
勇魚は日中たちが去っていったほうをじっと睨みつけた。
気が付いたのですが、佐山は一天の人たちを、れもんは王国の人たちを恰好よく書く傾向にあるっぽいです。個人の嗜好ですね。
というわけで、今回は日中さんを冷酷に、勇魚さんを熱血に書くように努めました。
この話、投稿の6時間前に書きあげました・・・つまりAM3時ですね
翌日が休みの大学生はこうなります笑