12 狼前院朝日は客観する
お久しぶりです、桜木れもんです!
狼前院 日中
[一天]のリーダーの女。冷徹。
狼前院 朝日
日中の右腕で兄。冷徹。
手名椎 ゆゆ
臆病者の少女。
幸せにしてやりたいと、ただそれだけを思っていた。
狼前院の四兄弟――朝日、日中、夕暮、深夜。彼らが力を合わせれば、誰もかなわないともっぱらの噂であり、事実そうだろうと朝日は思っている。一人一人の能力は汎用性があり、かつ強力なものだから。
だが四兄弟と言っても彼らは血がつながっておらず、全員が前リーダーの養子だ。互いに実の親を知らないという状況の中で、前リーダーを育ての親として慕い一つ屋根のもとで寝食を共にしてきたため、たまにそのこと自体忘れかけてしまうが。
そんな中で、朝日は一番“養子”であることを意識しているかもしれない。
――朝日、新しい家族だよ。
先代がそういって、幼い子供の背中を押す光景。これを、一番多く見てきたのだから。
だからこそ、“幸せ”にこだわった。以前どこで、何をしていたかもつまびらかに知らない新しい家族。前の家庭で史上最高の幸福を味わっていたのかもしれない彼らが、自分を含めた家庭に「偽物」の影を見出すのが怖くて、ただひたすら弟や妹たちを守ろうと、そう心の奥で思っていた。特にこの家のものは〔一天〕のメンバーとしても生きなければいけない。それは新しい家族にとってはマイナスになる可能性が高かった。実力重視の怜悧なチームの中で、先代の子として実力を発揮することは、精神的にも肉体的にも負担になる。朝日は、それを熟知したうえで家族と接することを忘れなかった。次期リーダーを選出するときに、自分からその座を辞退しのはそのためだ。すべては“家族”を守るため。守り、支えることで、ガラスのそれを壊さないようにするためだった。
お兄ちゃん――この言葉には、朝日が家族にかけた時間と労力が込められている。
だが、と朝日は心の中でため息をつく。
――日中様にも、新しい“家族”ができたらしい。
「なぜ言わない」
日中の突然の一言が、朝日の注意を取り戻した。
「……何をです」
「とぼけるな。検討はついている」
相変わらずのぶっきらぼうな口調。だが、これでいい。
朝日は、日中の注文通り口を開いた。
「……あなたらしくもない。なんとなく保護する、など」
「……ふん」
正解かどうかも言わず、日中は苦笑した。朝日は途中だった紅茶の準備を再開する。琥珀色の液体を最後の一滴までカップに注ぎ、顔を上げると――トレーニングマシンを背景に、クマ耳のパーカーが目に飛び込んでくる。
手名椎ゆゆ。一天のアジト、それも日中の私室で彼女を見るのは二回目だ。確か、前は紛争に巻き込まれかけた時に保護した。あんな場所で無傷でいられたことなど、能力者かと思われる要素がいくつかあったこともありその行為に何ら疑問はなかったのだが、今回は違う。非能力者と知っていながら、日中が保護命令を出したのだ。しかも理由は、「なんとなく」。
「どうぞ」
朝日はそっとゆゆに紅茶を差し出す。すると、ゆゆははっとしたような表情で居住まいを正し、いただきまっ、と口早に言ってカップを手に取った。前に出した紅茶がよほど気に入っていたらしい。素直な子だ、と朝日はクッキーの皿をすすめながら思った。
「それで、あの男は」
リスのようにクッキーをほおばるゆゆを見つめながら、日中は突然切り出した。
「なぜお前にかかわっていた。ただのカツアゲか何かか?」
その質問に答えようと、ゆゆは少しせき込みながらクッキーを飲み込んだ。朝日はその背をさすってやる。しばらくしてから、ゆゆが口を開いた。
「そのっ、私、今日帰る途中話しかけられて、あ、今日は友達と遊んでたんですけど、志島生駒って人がシバさんが嫌いだって言って、シバさんは勇魚さんって人のお気に入りで、能力とかないんですけど、志島さんは私とシバさんが仲良しだからまわす……?って言って、ほんとはそうじゃないんですけど、でもそう言われて、そしたら助けられた、ん、です……けど」
「……通訳を頼む」
日中の一言に、ゆゆがうう、とうつむく。朝日は脳をフル回転させ、ゆゆの話をまとめた。
「要は、ゆゆ様のお知り合いでそれほど親しくない方にシバさんという方がいらっしゃって、今日帰る途中にそのシバさんに個人的恨みを持つ志島生駒がゆゆ様を脅した、と」
「そ、そうです!」
ゆゆが顔を上げて目を輝かせたのを見て、ああこれがいわゆるコミュ症というものだな、と朝日は理解した。日中はなるほど、というようにうなずくと、少し考えてから言った。
「志島生駒には聞き覚えがある。〔小さな王国〕の鼻つまみものだと」
「以前、チームに加えてほしいと言ってやってきたことがありますね」
「ああ……」
朧気な記憶をもとに朝日がいうと、日中は不快感をあらわにした。あの時のことを思い出したのだろう。日中にとってああいった高慢な人物は、汚らしいゴミ屑同然なのだ。
「えっと……」
ゆゆが不安そうにつぶやく。日中のいらつきが、自分のせいなのではないかとでも思っているのだろうかと思い、朝日はそっと彼女に話しかけた。
「志島生駒が危険人物であることは、ご存知ですよね」
「はい、シバさんたちに聞きました」
「彼は最初こちらのほうに加入を希望したのです。しかしその時の態度があまりに傲慢なものだったため、チームの調和を乱すものとして日中様が入団を拒否されまして。その後〔小さな王国〕に転がり込んだという情報は得ていたのですが、ここ最近動きがみられなかったためそのままにしていたのです」
「そう、だったんですか……」
「そこでだ」
日中が唐突に口を開いた。ゆゆは居住まいをただし、はい、と答える。朝日は日中のほうを一瞥すると、あ、と思った。日中が何か策を考え付いた時の目は、朝日が一番知っている。
「お前は志島生駒に目をつけられたのだろう」
「た、たぶん……」
「それならば、」
日中は、少し間をおいてから提案をした。
「我々〔一天〕が保護してやろう。不満か?」
ゆゆちゃんのキャラが分からなくなってきたorz
長らくのブランクをいただいての連載再開だったのですが、
キャラの参考のためにバックナンバーをチェックした際に、自分の挿絵のあまりの下手さに愕然としました。ブランクって自分を客観視できていいですね!(泣
これからは謙虚に生きよう。