会話ネタ集1
完全なキャラもなんもなくただこんな恋愛の会話あってもいいかな程度のネタを集めました。
「馬鹿だね、キミ」
柔らかな声が上から降り注いできたのを聞いて、ぐっと唇をかんだ。
「最初からわかってたのに、なんであんなことしたの」
「うるさい」
「アイツの目がどこをみてたかなんて、賢いきみならわかりそうなものだけど」
「黙って」
「一瞬でも自分に向けられた声が嬉しかった?
断られるのを予想してたんでしょ」
「...っく、うる、さっ...」
涙が熱い。今は春で、寒い冬から戻ってきたところで、なのに涙は熱かった。
言われているひどい言葉とは裏腹に、そっと頭をだきよせられた。そのまま髪を撫でられて、その感触にほっとした。
「さい、てい」
「知ってる」
「くちわる、い」
「元からだよ」
「つめた...っい」
「これでもきみには大分優しくしてるんだけど」
「いじわる」
「なんでか、理由聞きたいの?」
「...聞いていいの?」
「キミが望むならね」
********
「...私はあなたがどうしようもなく憎い」
「俺はどうしようもなくあなたが愛しい」
「馬鹿なのね」
「そうかもな」
憎いと言われてさえ、恋情を抑えることなどできなかった。
瞳をのぞきこめば、確かな拒絶に胸が引き裂かれるように痛むのに、睨み付ける眼差しは優しさと気遣いでほのかに色づいている。
俺が少しでも傷つく素振りを見せたら、きっとこの黒い瞳は戸惑いで揺れて、泣きそうに目を伏せるのだろう。
優しすぎて、人のことを想いすぎて、その度に身を晒す彼女を愛しいと思うのは哀れみじゃない。その瞳が潤むほど甘やかして、我が儘を言える場所になって、彼女を守れる唯一の男になれたらどれだけいいだろうと、それだけを考えているのだ。
「...そんなに、その男が好きなのか?」
一瞬だけぱっと頬に散る朱が憎い。
どうすれば、彼女は。
********
「さよなら」
不意に重なった唇は、想像していたような甘さはなかった。ただ、思っていたより熱くて、火傷しそうなほど柔らかかった。
想い描いた瞬間よりあっけなく離れていった温もりに、どうしてか泣きそうになる。
いつものように優しく笑った君は、涙が一筋零れたのも気づかないように、拗ねたみたいに唇を尖らした。
「...最後ぐらい、我が儘言ってもいいじゃない」
「で、も」
「でも、なんて言わないで。はじめてした約束忘れたの?」
でも、と心のなかで呟く。それを見透かすかのように睨まれた。
「別れるときは、私の言うことを何でも聞くことって決めたのに」
仕方ないやつ、とでも言うように眉を寄せて。
それから、僕の顔を見て、ふわっと顔を綻ばせた。
あ、と思ったその一瞬は、まるで君に恋に落ちたときの感覚ととてもよく似ていた。
雑踏のなかで手を繋いだあのとき。
ケンカしたって一緒にいたとき。
僕らが不安定に、不確定に歩んできた道の、始まりを思い出して僕は笑った。
「うん。ありがと」
不意に、時計を見る。
特別な日でもない平日の道端だ。
夕陽もとっくに沈んで、見慣れた暗闇が降りている。ポツポツと光っているのは電灯くらいだ。
午後10時59分まであと10秒。
「じゃ、」
「うん」
「「ばいばい」」
そうして僕らは、別れた。
ほんのすこしの未練と、限りない愛情を抱えて。
※※※
その一部始終を′′必然的に′′通りかかった警察官が、二人の別れを見送ってぽつりと呟いた。
「最近のばかっぷるって...すげぇな...」
こきっと肩を鳴らして自転車にまたがる。
あのやりとりを最初に見てから半年、毎日毎日飽きずにあの別れを繰り返している若さに脱帽。
あそこまでくると、もういつまで続くのか面白くなってくる。
くあぁ、とあくびをして、警察官は夜の町の巡回のために暗い夜道に吸い込まれていった。