ハメツ
「諦めろ。お前に才能はない」
そんな言葉を聞いたのは、誰でもなく、勿論、神の声などでも決してない。
それは、頭の中から聞こえてきた。
いつからだろうか? 僕は気が付けば小説家になりたいと思い始めていた。きっと、そのきっかけとなる本があったのだろうが、そんな物はとうに忘れた。
目指し始めたのは二年前の事だった。それから一行に上達する気配を見せない。
流石に嫌気がさした。というか面倒臭くなった。諦める事に罪悪感を感じなくなったのだ。
そんな時、ふと、自分の頭にそんな言葉が流れた。
僕はそれに反論する。
「才能がなくとも、努力すれば報われるだろう?」
しかし、そんな僕の愚言はいともたやすく返される。
「いいや。違うね。努力をすればその代価で報われると考えている奴が多すぎる。努力にエネルギー保存も、質量保存の法則も法則は通用しないんだよ」
そんな事を言われたら、僕の存在意義そのものが否定されたみたいじゃあないか。
ならばどうすればいい? そんな疑問が自分の中に生まれた。努力が報われないのなら、僕はこれからどうすればいいと。
だが、それを問うのは少し違う気がした。細かな理由は分からない。何故か、直感的にそう感じた。
それは、自分で考えるべきなのだと、思った。
「でも、努力が無駄になる事はないだろう?」
僕は恐る恐るそう訊いた。
「いいや、努力だって、無駄に終わるさ。努力が無駄な事を信じたくない人間が、勝手に捻じ曲げただけなんだよ」
だんだん腹が立ってきた。思いっきり、その謎の声に向かって叫ぼうと思ったその時ーー。
「そうそう怒るな。お前だって分かっているんだろ? 分かっているから、腹立たしいんだろ?」
「……?」
僕は一切口に出していないし、顔にもそんなに表情は表れていないはずだ。それなのに、どうして分かった?
「小説家なんて、なりたくてもなれないもの何だから、今の内に諦めてもいいんじゃないのか?」
「嫌だよ。せっかく見つけた夢なんだ。いいさ、お前が誰かは分からないけど、お前の言いたい事は分かった。僕は、努力が報われなくても、才能がなくても、苦になっても諦めるつもりはないよ。まあ、今のところだけど」
僕ははっきりと答えた。
「苦になっても?」
「うん、苦にならない夢はないと思うんだ。その苦を乗り越えた先に、きっと何かがあると思う。それが、夢が叶ったっていう結末じゃなくてもね」
「……ふぅん、めんどくせぇ」
そう言って、その声はそれっきり聞こえなくなった。
二十年経って、やっと小説を上手く書けるようになってきた。
僕は小説家ではない。インターネットで仕事をしながら携帯小説を書いている。
ある日、僕はこの体験を小説に書いてみる事にした。すると、一つだけ、感想を受信していた。
『その声は、自分の声なんじゃないですか? ほら、自分の心を読んでいるような描写もありましたし、この主人公は何処か自分の隅で卑屈になっていたんじゃないでしょうか?』
ああ、なるほど。