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零の新章  作者: ぱうぇん
序章
1/7

前編 -猛蘭関陥落の前日-

初投稿

有り体にいえば異世界漂流ファンタジー。

オリジナルの設定を使用していますが、作品の舞台のイメージとしては、三国志みたいなぁって感じで考えてもらえれば良いかと。

だからといって、内容は三国志ではありませんのであしからず^^;

 伯州(はくしゅう)の先陣五万との戦。

 戦っているのは、私一人……。

 いつの間にか、一緒に戦場に出ていた兵達は後方に下がって、狭い渓谷の間に築かれた関の中に篭っている。


 幾度の戦によって、補修こそされてはいるが、ボロボロになっている不落と謳われた猛蘭関(もうらんかん)

 今は見る影もない。

 大軍の進行を防ぎ切る事が出来なくなった関の代わりが、私……。


 私の周りには、幾数千もの屍が広がっている。殆ど、私一人で殺ったものだ。

 今も、正面から、敵方の武将と思われる一人が、馬に跨り、槍を携えて突進してくる。



「――の守護神! 覚悟!!」



 敵将の槍を捌いて受け流し、踏み込んで、返す刀で馬の足を切断する。

 馬は悲鳴を上げ、上に乗る主人を振り落としながら、地面に崩れた。

 突如の出来事に、咄嗟に対応できなかったのか、それとも落馬の衝撃でどこか痛めたのか、未だに起き上がれないでいる。

 これしきの事にも対応できないところをみると、さほど力を持った将ではないのだろう。


 敵将は尻餅をついた姿勢のまま、私に向かって何度か槍を突き出してくるが、安定しない体勢では、満足な攻撃もできない。

 私はその攻撃を数度、脚を使って左右に避けた。

 攻撃の最後の突きと同時に、『半月』といわれる体捌きで槍の内側に潜り込み、右手に持った刀で槍を中程から断ち切った。身体を回転させながら、左手に持った刀で、敵将の首筋を薙ぐ。

 胴と頭が切り離された切断面から鮮血が吹き出る。私は、それを避ける事もなく全身で受ける。血液特有の鉄臭い嫌な臭いが立ち込めるが、私は気にするでもなく立ちすくした。すでに私の纏っている衣服は、返り血でどす黒く汚れていた。



 私は何をやっているのだろう。

 あれから、どれだけの月日が流れたのだろう。

 拾われた国で、いつの間にか守護神として祀られ、戦に駆り出される日々。

 来る日も、来る日も、一人で戦い続けていた。


 誰の為?



(あの人のためではないの?)


 でも、あの人はもういない。


(既にいない人の為に戦うの?)


 わからない。


(無駄なんじゃないの?)


 無駄なのかな…。


(なのに、なんで戦っているの?)


 あの人は、もういない。


(えぇ、いないわ)


 なのに、何故戦っているの?


(それは……)


 解らないのね……


(それは、あの人が愛した民の為……)


 本当にそう?


(えぇ。その……はず……)


 でも、その人達はあなたに何かしてくれた?


(何もしていない……。私もそれを望んではいない)


 本当に? こんなにも苦しい思いをしているのに?


(……)


 他の兵も、戦いはあなた一人に任せているのよ?


(……)


 何故、戦う義理ももう無いこの国の為に戦うの?


(……)


 戦いは他人に任せて、自分達は楽して後の平静を掴もうとしているような国のために?


(……あの人が愛した国だから)


 でも、その人は死んじゃったのよ?

 暗殺されたのよ。

 実の母親の手によって。


(……)


 あなたに優しかったのは、あの人だけだったはずよ?


(……)


 もう、疲れたんだよね?


(……つかれた?)


 もう、休みたいんだよね?


(……やすみたい?)


 もう、終わりにしたいんだよね?


(おわり?)


 そうよ? こんなに頑張っても、誰一人、労いの言葉もかけてくれないどころか、侮蔑の視線を送ってくるのよ?


(疲れた……)


 あなたはすでに一人なのよ?


(休みたい……)


 自分で戦わず、自分のことだけしか考えない人達を守って、あなたに何が残るの?


(もう、終わりにしてもいいのかな……)




 次々と襲いかかる敵兵。動きが丸見えだ。所詮は雑兵ということなのだろう。

 私は最小限の動きで攻撃を受け、急所を斬りつける。それで、敵兵は沈黙する。


「あと、五百がいいところね」


 前方の部隊を眺め呟く。

 敵方の先駆けて突進してきた部隊は、既に千をきっているはずだ。

 もう、半日はぶっ通しで戦い続けている。そろそろ、敵の援軍が駆けつけてくる頃合だろう。

 それで、この戦いに終止符を打とう。


「くっ……。この化物が!」

「化け物?」


 そうかもしれない。

 私にとっては、守護神も化け物も一緒だ。大した違いは無い。どちらも、人ならざるモノなのだから。


「一体、いつから私は人間じゃなくなったのかな……」


 そう呟く。

 目の前には、さっき化け物と私を罵った人が倒れている。

 弱い。

 数で成り上がった国の武将なんてこんなものなのか。確かに、戦において投入される兵の数は重要だ。

 だが、雑兵・武将に関わらず、手応えすら感じられなかった。


 斬り伏せた死体には一瞥もくれず、刀についた血糊を、刀を振って落とす。どんなに上手く斬っても、油と刃こぼれだけはどうしようもなく、毎日綺麗に手入れされていた二刀は見る影もなくなっていた。

 

 前方を見ると、遠くに舞い上がる砂塵が見えた。


「やっと到着したようね」


 敵方の援軍が、突出していた先陣に追いついたのだろう。


「もう、これで終わりにしてもいいよね?」


 その場にいる誰に問うわけでもない自問が口をついで出る。

 前方の敵部隊は、私の前方二里の所、峡谷の手前で陣形を整えているようだ。

 私は、それに構わず、ゆっくりと敵部隊に歩み寄る。

 敵援軍の旗印を確認。


伯州(はくしゅう)軍じゃない?」


 伯州(はくしゅう)の軍であれば、旗には[伯]の文字が掲げられているはずだ。

 よく見ると、援軍と思われた部隊の兵が身に着けている鎧も、伯州(はくしゅう)の兵の物とは違った。

 青塗りの鎧に、藍染の鉢巻。旗には[訃]の一文字。


「あれは……。訃祷(ふとう)軍か」


 訃祷(ふとう)は大陸の北西に位置し、最近になって大国へと伸し上がった国である。我が国とは、広大な国土を抱える伯州(はくしゅう)を挟んで対極にある国なので、国交もあまり盛んに行われていなかった。

 故に、たまたま戦場に居合わせるということは、まず無いはずなのだ。


(なぜ訃祷(ふとう)軍……)


 その訃祷(ふとう)軍が、伯州(はくしゅう)の先陣の残存部隊を蹂躙していく。

 大国という事もあり、武将や兵の質は高い。

 伯州(はくしゅう)の先陣は私と戦っていた為、消耗している上に兵の質は悪い。

 伯州(はくしゅう)の先陣部隊はあっという間に、訃祷(ふとう)軍に飲み込まれていった。


「あっけない……」


 その光景を見ながらも、歩みを止めていなかった私は、訃祷(ふとう)軍よりも一里程離れた場所に立つ。

 訃祷(ふとう)軍は、戦場にただ一人いた私の存在に戸惑っているようだった。

 私が、しばらく訃祷(ふとう)軍を眺めていると、そこから一人の騎馬兵が出てくる。現状偵察だとでもいうのだろうか?

 こんな、何も無い平野で?

 それとも、ここに居るのが、守護神と謳われた私と知って、一騎打ちでも申し込むとでもいうのだろうか?


 まぁ、そんな事はどうでもよかった。


「もう、終わりにするね……」


 私は、誰に聞かせるでもなく、そう呟いて、右手に持っていた刀で自らの腹部を貫いた。


「もう、休んでもいいよね……?」


 腹部を貫通し、背中から飛び出る刃。

 私は、さらに両手で柄を握り、一気に刃を根元まで突き入れた。

 腹部から流れ出る血とともに、体中の力が抜けていくのが分かる。

 どれくらいの血液が体外に流れ出たのだろう。

 すでに、踏ん張りの利かなくなった体が、前のめりに倒れそうになるが、咄嗟に両手で身体を支えようとしていた。


(やだな……。こんな時まで体が意思に反して動いちゃうよ)


 両手を地面についたが、踏ん張りが利かない上に、地面にできた血溜りと両手を濡らした血のせいで、滑るように倒れ込んだ。


 大地に広がった自分の血が、妙に生暖かい。

 すでに聴覚が失われつつある耳に、蹄の音が聞こえてくる。

 その蹄の音は、かなり近い場所で止まった。

 ジャリっと砂を踏みしめる音と共に、私の側で誰かが何かを言っているが、なんと言っているのか分からない。


「終わりにしてもいいよね……?」


 最後の一言で、私の意識は深い闇へと落ちていった。

 無骨な冷たい腕に抱きかかえられる、微かな感触だけを残して……。


(義兄さん……)

序章前半終了!

多分コメディ風味はない。シリアルもない。シリアス……書けるかなぁ。書きたいなぁ……

数日後にでも後半をうpします。

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