表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女の殺し方〜All we need is〜  作者: 黒鮫しゃけ
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/10

第3話・死、あるいは諦観

直後、先ほどよりも大きな衝撃音が、BGM越しに聞こえた。

乙女は釣られて、視線を音の発生した方へと向ける。


そして息を呑んだ。


「う、そ……」


震える喉で声を漏らす。


クレーターの出来たコンクリート壁。

一面に広がった、ドス黒い血の痕。


そして、真下で項垂れる白い人影。


「死んだ……の?」


座り込んでいた魔法少女の体が、ゆっくりと地面に倒れていく。


『敗北』


恐ろしい2文字が脳内を過ぎた。

そのとき、背後に何かの気配を感じ取る。


(まずっ……!?)


反射的に振り向いた瞬間、乙女は強烈な浮遊感を覚えた。

遅れて、金属塊が勢いよくぶつかったような、激しい鈍痛が全身を襲った。


殴られた、一瞬でそう理解する。

宙に浮いた体が、重力に従って落ちた。


「かはっ!?」


地面に叩きつけられた反動で、肺から空気が押し出される。

コンクリートの上を小さく跳ねた後、何度か回転してから体が止まった。


「ぐっ、ぶはっ……ぐぷっ……あ゙、おぇっ……」


心臓から込み上げた血液が、口から溢れて地面を染める。

グラグラと揺れる視界に、自分を殴り飛ばした相手が映った。


軽く2メートルは超える体長。

こちらを凝視する空洞の瞳。


ヘドロのような、真っ黒な液体を無理やり人型にした、怪物。

太く長く伸びた腕が今、乙女へと振り下ろされようとしている。


逃げなくては、早く逃げなくては。


自分の下敷きになっていた右手で、コンクリートの地面を力の限り押す。

反動で体が横にずれた瞬間、大きな影が勢いよく迫ってきた。


耳元で、破裂音が響く。


「か、ぁ。いや、いゃ……」


飛び散った鮮血が目に沁みる。

無理やりまぶたを開けば、すぐ目の前のコンクリートに漆黒色の腕が突き刺さっていた。


(あ、危なかった……!)


荒くなった呼吸を抑え、脳に酸素を行き渡らせる。

心臓の鼓動が、耳によく聞こえてきた。


「はぁ、はぁ……ふぅ」


冷静になるんだ私、1度落ち着くんだ。

そうだ、今すぐに逃げなくては。


あの腕を地面から抜くのに、数秒は掛かるだろう。

その間に、この場を早く離れるべきだ。


両脚に力を込めて、震えながらも立ち上がる。

もう力尽きた腕をぶら下げながら、魔物から逃げ出そうと背中を向けて走り出した。




「はぁ、はぁ……ぁ、れ」


その瞬間、気が付いた。




赤く濡れた右手で、自分の左腕に触れる。

否、触れようとした。


「あれ……あれ、あれ……?」


何度も、何度も左肩を掴む。

その度に血が飛び散り、地面を汚すように滴っていく。


恐る恐る手のひらを見てみれば、真っ赤に染まり上がっている。

もう1度右手で肩を力強く掴んだ瞬間、今度は肉が潰れたような、そんな音が耳に聞こえた。


「ない……ない、ない、ない! 私の、左腕が!!!」


どうして

なんで

返して


腕はどこ

探さないと


分からない

何が起こったの


知らない

見えない


触れないの

腕が無い


助けて


血が出てる

嫌だ




私の腕がない!!!!!


脳が理解を拒み、発狂を促す。

喉を壊すほどに開き、息を吸うことなく声を上げた。


「あ、ぁ……ぁ、あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙――」


そして心臓からの叫び声が、唐突に途切れた。


「………………かはっ」


乾いた空気だけが、喉から吐き出された。


目玉が溢れそうな眼孔を下に向ければ、自分の胸部から真っ黒い何かが生えている。

ゆっくりと体が持ち上がっていき、脚が空中で揺れ動いた。


腕だ、あの魔物の腕だ。


そう乙女が理解した瞬間、彼女のことを貫いたまま、魔物は腕を薙ぎ払った。

振るわれた勢いで、胸部から腕が引き抜かれる。


そのまま宙を飛んでいき、乙女の体がフェンスを突き破った。

視界の端に遊具が映ったかと思えば、全身が地面に打ちつけられる。

体が滑るように転がっていき、砂の不味さを舌の上に覚えた。


「ひゅー……ひゅー……」


僅かに開いた口で呼吸する。

もう痛みを感じることすらなく、ただ気持ちの悪さが体内に残っている。


濁り出した視界には、黒色の何かが近付いて来るのが見える。

おそらくあの魔物だろうが、体に力が入ることはもう無い。


ここで、ようやく状況を理解した。


(死ぬんだ……私)


最悪の現実が、頭の中で形になった。


「そっか、そっかぁ……私、死ぬんだぁ」


不思議と口角が上がってしまう。

自身の血溜まりが、ぬるま湯のように思えてくる。


「もう、死んでも良いや……」


ふと、そう声を漏らした。


「どうせあの子も……いないし」


あの子も、こんな気分だったのだろうか。

あの子も、こんな苦しみを味わったのだろうか。

あの子も、自分が死ぬのを快く受け入れたのだろうか。


(ああ……早いかもしれないけど)


「悪くない人生だった……かも」


まぶたが、ゆっくりと落ちて行く。

砂の上を這いずる音が、耳に聞こえてくる。




――――な!!




だんだんと、眠たくなってくる。




――ぬな!!




乙女を見下す魔物が、腕を高く高く持ち上げる。


「ねぇ……会えるかな、静海(しずみ)……」


最後に呟いた乙女の頭に、鋭い声が響いた。




『死ぬな!!! 生きろ!!!』




悍ましい真っ黒い腕が、ギロチンのように乙女へと迫った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ