表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女の殺し方〜All we need is〜  作者: 黒鮫しゃけ
第1章・芽吹く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

第2話・BGMと不協和音

本日更新2話目です。

1度スマホを耳から離し、スピーカーに切り替えてキッチンに向かう。

適当な場所に置いてグラスを手に取り、水を入れながら口を開いた。


「それで祭莉(まつり)、こんな朝早くに何?」


「えーとね、今日って体育あったっけ?」


グラスを滑り落としそうになる。

しっかりと掴み直して、祭莉に再び問いかける。


「……だけ?」


「うん、それが聞きたくて」


肺に溜まった空気を、長々と吐き出す。


そんな事のためにわざわざ電話を掛けるなんて。

この女はメールという概念を知らないのか。


「ないない、今日は体育無いから。私、ご飯食べてるからもう切るね」


「無いんだね、ありがとう! じゃあまた、学校でね!」


ツーツーと電話の切れた音がキッチンに響く。

水がいっぱいに入ったグラスをテーブルまで運び、スマホをソファに放り投げる。


椅子に座りながらテレビに視線をやれば、今日1日の星座占いのコーナーが流れていた。


『今日の12位はごめんなさい、蠍座のあなた。周囲から厄介ごとに巻き込まれるかも。普段とは違う行動を取ると、運気が上がりそうです。ラッキーアイテムは――』


(私、蠍座なんだけど……)


水が半分ほどのコップを、テーブルに勢いよく置く。

反動で揺れた水面から滴が飛んで、自分の右手を湿らせた。


なんとも不吉なものだ。


左手でパッと水を払い、朝食の続きを食べ進める。

味噌汁は冷めてしまっており、気が付けば米の1粒1粒も固い。


乙女(おとめ)は小さくため息を吐きながらも、黙々と箸を動かした。

これ以上、不安を積らせることがないように。






半年も経てば、新品だった靴も履き心地が良くなっていく。

毎日毎日鏡に映る、自分の制服姿にも見慣れたものだ。


補強されたコンクリートの道路を歩いて行くと、視界の端に人間たちがちらつく。

制服のデザインが似ているので、同じ学校の生徒だろう。


「え、お前昨日の動画見た? アダミス・スターの最新戦闘記録」


「当たり前だろ。やっぱりカッコいいよなぁ……能力【無敵】とか、文字通り敵無しだわ!」




「ねぇねぇ天音(あまね)ちゃん、姫ちゃんと騎士様の配信どうだった? やっぱりあの2人、最高だよね! 強くて可愛くて、ほんと推せるっていうか」


「う、うん。もちろん見たよ! あの2人はとっても強くて、憧れちゃうよね」


誰も彼もが、魔法少女の話をしている。

まるで違う世界の存在のように、傍観者として話をしている。


(私なんて、いつまでも被害者から抜け出せないのに……)


勝手な感情なのは知っているが、もう消えたはずの傷跡が痛む気がしてくる。


カバンの持ち手を握りしめ、足早に学校への道のりを進んでいく。

速度を落とさずに数分も歩けば、すぐに正門が見えてきた。


そんなときだった。


「おっはよう乙女ちゃん! さっきはありがとね!」


軽快な声と一緒に、背中をぱんっと叩かれる。

振り返るとそこにいたのは、茶色い髪をボブカットにしている友人、遊善(ゆうぜん) 祭莉(まつり)の姿だった。


「はいはい、どういたしまして。おはよ、祭莉」


乙女が適当に挨拶を返すと、祭莉は嬉しそうな表情で首を縦に振る。

そのまま前に出て乙女の横に並ぶと、尋ねるような口調で口を開いた。


「そういえば知ってる? つい昨日、新人が増えたんだよ。今度はなんと、【太陽】の魔法少女!」


「私、別に興味ないって。だから知ってるわけないでしょ」


「太陽だって太陽、もう能力名が最強だよね! しかもしかも、どっかの華族のご令嬢らしいよ? そんなのもう主人公じゃん!」


ワーワーキャキャーと1人で騒ぐ祭莉を置いて、スタスタと校舎内へと入って行く。


興味がないと言っているのに、いつも魔法少女の話をしてくる。

それに魔法少女が主人公だなんて、この世界ならダークファンタジーだ。


しょうもないことを考えながら、乙女は早々と階段を登っていった。






終業のチャイムが鳴り響くと同時に、乙女はカバンを手に取り立ち上がった。

離れた席に座る祭莉がそのことに気付き、近寄って話掛けてくる。


「あれ乙女ちゃん、もう帰るの? 今日は早いね」


「うん、今日はスーパーで割引セールやってるから。早めに買い行かないと」


買いたいものがすぐに無くなっちゃうでしょ。

そう言葉を続けようとしたのも束の間、


「確かに! それじゃあまた明日ね!」


と言って祭莉は席から離れていった。

あまりにも忙しい女だ。


普段はうざったいのに、こういう時は素直に引いて行く。

彼女のことを嫌いになれない理由だ。


教室の出入り口まで素早く歩き、目立たぬように扉をゆっくりと開ける。

そのまま抜けてから静かに扉を閉めて、1度背伸びをしてから玄関へと向かった。


歩きながらスマホを取り出し、電源を付ける。

現在時刻は4時16分なので、割引セールの開始までは余裕がある。


(わざわざ疲れるのもあれだし、ゆっくり歩いてこ)


歩く速度を少し落として、乙女はカバンを軽く漁る。

中からワイヤレスイヤホンを取り出すと、両耳に着けてからスマホを操作し出した。


数秒もすれば、ピアノの主旋律と多種多様の楽器の演奏が聞こえ始める。


流しているのは動画サイトに投稿された、ファンタジーチックな作業用BGM。

いくつもあるBGMの中でも、乙女が気に入っているものだ。


小さく鼻歌を口ずさみながら、帰り道をゆっくりと進んでいく。

気が付けば、帰り道の途中にある大きな公園の前まで差し掛かった。


そんな時、何かが砕けたような衝撃音が、イヤホン越しに耳を貫いた。

意識が音楽から浮上して、乙女は視線を公園へと向ける。


腰まで伸びた黄金の髪。

白を基調とする大人びたワンピース。

その手に握られているのは、光り輝く細長い剣。


何度か画面越しに見たことのある魔法少女だった。

彼女の視線の先には、液体を無理やり人型にしたような、真っ黒い魔物の姿が見える。


(こんなとこで魔物が……!? 案外、占いも当たるみたい……だね)


予想外の出来事に目を丸くしながら、そんなことをふと考える。

乙女は1度状況を把握しようと、ひとまず周囲を見渡した。


怯える者とそれを宥める者、スマホを魔法少女に向ける者に、叫び声を上げる者。

何人もの野次馬が、彼女へと視線を集中させていた。


死ぬ可能性があるのに、怖くないのだろうか。


そんな疑問をふと抱きながら、外しかけたイヤホンを付け直す。

もう1度視線を魔法少女に向けてから、心の中で義務的に勝利を願い、再び歩き始めた。


「でも、これだけで良かった。ほんとに」


流れるBGMに日常を覚えながら、安堵の溜め息を吐く。

その瞬間、眼前を黒い影が通り過ぎたように感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ