8・お弁当作り
「ただいま!」
「お邪魔しまーす」
雅の家に来たのはいつぶりだろうか。最後に来たのが受験前の3月だからもう2か月は来てないことになる。
「じゃあ、さっそくとりかかるか」
「えー、ちょっと休もうよー。どうせ親も帰り遅いしゆっくりしてってよー」
「終わってから休めばいいだろ。ほら、やるぞ」
「ここボクの家なのにー」
俺は雅の不満を聞こえないものとして料理にとりかかる。だが、雅の家でもキッチンに来るのは初めてで勝手がわからない。
「なあ、包丁って……おい」
「えー、なにー。ボクは休憩中でーす」
ソファに寝転がりスマホをいじる雅。スカートがめくれて見えそうなこともおかまいなしなオフモードより、俺のしゃくに障るのは服装だ。
「今すぐ着替えてこい。しわがつくだろ」
「もう、お母さんみたいなこと言わないでよ」
「分かった。頼むから着替えてください雅さん。これでいいか」
「むー……はいはい」
不満ダラダラに雅は2階に上がっていく。本当になんで俺がこんなに気をまわさなきゃいけないんだ。
俺はため息をついて準備にとりかかる。帰りに買ってきた具材に不備はなし。後は道具だが……これは雅が戻ってからにしよう。変に人の家の戸棚を開けるのは気が引ける。
これ以上やることないな。時計を見ても秒針しか動いていない気がする。
「座るか」
俺はとりあえず休憩する。雅がさっきまで座っていたソファに腰かけ、息を吐いて肩の力を抜く。時計の分針がやっと一歩前進した。
それにしても暇だ。俺がどうやって時間を潰すか悩んでいるとスマホが鳴る。
スマホを取り出すと送信があったのは俺たちと萩田先輩、水落先輩で作ったオカルト部のグループだった。送信したのは水落先輩、簡潔に「ハンバーグ食べさせて」だけ。
俺が返信をしようとすると先に返信したのは雅で「了解」のスタンプ1つ。優しい先輩だがよくもスタンプ1つで済ませられるなと、その神経の図太さがうらやましく感じる。
返信しようとしたメッセージを消していると今度は水落先輩の「ありがとう」スタンプ。続けざまに萩田先輩からは「お願いします」のスタンプ。そして雅の了解スタンプ……。
「スマホをいじってないで早く降りてきてください。よし」
俺は雅をメンションしてグループに投下する。雅は怖がっている絵文字1つ。なぜか便乗した萩田先輩も怖がる絵文字。しまいには水落先輩からの「ママじゃん」のメッセージ。
俺の口角が上がりそうにあると、階段をドタドタ降りてくる足音が聞こえてきた。
「やっとき……お前なぁ」
「今度はなにさ?」
「俺が男っていう認識はある?」
太ももまでしかない灰色のショートパンツに、ダボっとした半袖の無地のシャツ。髪は降ろして完全無防備のオフモードに防衛意識を疑う。
雅は俺の様子にニヤリとして嫌な予感しかしなかった。
「意識させてるって言ったら、どうする?」
「それは……」
「ボクは、聖ならいいよ」
「そこまで言うなら俺も男だ……」
恍惚として煽情的な雅の肩に手をそっと置く。俺が顔を近づけると雅は目を閉じるも俺の目的はそこじゃない。
雅の耳元で俺はそっとささやく。「じゃあ、ハンバーグ作ろうか」と。
「ねえ雰囲気がぶち壊れだよ!」
「まずはタネ作りだ。ボールあるか」
「そ、そこにあるよ」
「じゃあタネのもとをここに入れて、ぐちゃぐちゃにするぞ」
「い、いれてぐちゃぐちゃに……」
「ボッーとしてないで雅も手伝え」
「これ、すごい……」
雅はなぜか頬を赤らめて混ぜ合わせる。俺がその様子をじっと見ていると視線に気づいたのか雅ははにかみ笑いを浮かべる。ダメだ、理性を持て俺。
「次はこうやってパンパンして形を整える」
「パンパンして形を覚えさせる!?」
「整えるな」
「な、なんだかハンバーグ作りっていやらしいよ……」
「ん、なんか言ったか」
「ううん、なんでもないよ!」
バッチリ聞こえていたが聞こえなかったことにする。俺もわざと言っていたがこれ以上はネタ切れだ。
「次はフライパンにタネを入れる」
「い、いれたよ」
「じゃあ次は手を洗う。洗剤を使うといいぞ」
「洗った!」
「じゃあふたをして、できるまで待つ」
「ねえねえ聖、記念に1枚とっていい」
「好きにしろ」
「いくよー、ハイ、チーズ」
パシャ――。というシャッター音が響く直前、雅の唇が俺の頬に触れる。こいつ、やりやがった。
「えへへ、撮っちゃった」
「俺が撮りなおしてやるから貸せ!」
「いやでーす。さっきのお返しだよ」
「いいか、くれぐれも変なところに……」
俺のスマホに通知音が鳴る。恐る恐る見るとオカルト部のグループだった。
「いけなーい、間違えちゃったー」
「お前なぁ……」
「見て、水落先輩から返信だよ。ハンバーグ焦がさないようにね。だって」
「安心しろ。俺が見てる」
「あ、宗先輩からも来たよ。照れてるスタンプだ」
「はいはい」
「ねえ、聖は返信くれないの」
「いや、ハンバーグをって……なにしてんだ」
雅は頬を向けて明らかにねだっている。それがなにか分からないほど俺も鈍感じゃない。
もし、ここでしないとどうなるか。すねて面倒そうだ。だからこれは、そのための予防策だ。
「えへへ……」
「もういいだろ。続きをするぞ」
ストックがなくなったので不定期になります。




