7・恋の七不思議
「お邪魔しまーす」
「ただいまー!」
「いらっしゃい。今日も来てくれてありがとう」
初めて来た日から毎日のように通い今日で3日連続になる。雅にとってはすっかりと家のような場所になっていた。
「今日は朗報があるんだよ」
「朗報ってなんですか萩田さん」
「ついに見つけました。恋の七不思議」
机の中から取り出されたバインダーファイルはなぜか分厚い。オカルト部は創設して間もないはずなのになぜこれだけ歴史があるのか、俺の中で疑問が芽生える。
萩田先輩はそんな俺の疑問を読み取ったのかニヤリとした。
「聖君、厚くて不思議って顔してるね。なんとオカルト部はかつてあったんです!」
「じゃあ、このファイルには前のも残ってるっていうことですか」
「そうそう。でね。その前の活動記録に書いてあってそれを見たんだよ」
「ほほう、じゃあそれを探せばいいんですね」
「そういうことだよ雅ちゃん」
「すっげぇ大変な作業になりますね」
「4人で手分けして探そう。僕はこれ、麗ちゃんはこれ、雅ちゃんはこれ、聖君はこれ」
バインダーファイルに収まっていた活動記録が、俺たち4人に分配される。分配されてもかなりのボリュームがあり、その中から自分の目で「恋の七不思議」を探すのはかなり苦労しそうだ。
1枚、1枚と流し読みをして「恋の七不思議」の文字を探す。妖怪、未確認生命体、ツチノコ……、話題に規則性があったりなかったり、興味のおもむくままに調査した内容が活動記録には書きなぐられていた。
俺たちは会話もなく黙々と活動記録を見る。時計の時を刻む音もいつしか聞こえなくなり、紙をめくる音だけが教室に響く。
「あった!」
しばらくして最初に声をあげたのは雅だった。教室を飛び越えて、廊下にまで聞こえそうな大きな声に俺は耳をふさぐ。
「雅ちゃん見てもいい」
「いいですよ宗先輩」
萩田先輩の手に渡った活動記録を頭越しにのぞきこむ。タイトルには「恋の七不思議」と記されていて間違いない。
「そうそう、これこれ」
「あ、一番上に黄昏時の第3教室がある!」
「宗先輩が言ってた内容とほぼ一緒ですね」
「それはオカルト部を作ったときに探そうってなったから覚えてたんだー。提案したのは麗ちゃんだったよね?」
「そうだね。でも結局見つからなかったけど」
「見つからなかったんですか?」
「うん。今の第3教室とは違う場所だからね。しかも夕方限定、それはもう歩き回ってクタクタになったよ」
雅はその場所をたまたま見つけてそこで告白をしようとした。本当にたまたまなのか。
「雅、もしかして第3教室のことを知ってたのか」
「う、うん……でもそこが違う第3教室とは思わなかったんだもん。初めて見たのがちょうどその日だったから……ごめん……」
「なったことはしょうがない。今は解決させよう」
雅を責めても解決しない。それに俺もとんでもない嘘をついたからお互い様だ。
「次が濡れたベンチ。これは桜並木の1番端にあるベンチで……これも失恋ですね」
「いつも手作りお弁当を2個作って彼氏と食べていた彼女の失恋。濡れたベンチは彼女の涙でそこで想い人と同じお弁当を食べると結ばれると」
「宗先輩コンビニ可ですか?」
「手作り限定だって。ざんねん」
水落先輩の一言に俺の背筋が凍る。こいつの手作りはマズい。家庭科で出された料理はこの世のモノとは思えず、おれはその日レインボーのゲロを吐いた。
「どうしましょう……最悪は聖が死んじゃうかもです」
「俺と一緒に作ろう。そうすればまだマシだ」
「で、3つめが魂を食べる呪いの本。これは怖い話だ」
「夜な夜な図書館から聞こえる咀嚼音は歴史コーナーから響く。それは日中に蓄えた生徒の魂を食べる音。この本で口元を隠してキスをした2人は魂が交わり未来永劫結ばれると」
「本の名前は韓国の歴史だって。どういうこと?」
「魂を英語にした言葉遊びだね。うん、うすうす思ってたけど活動記録じゃなくて創作記録だね」
水落先輩に全面同意だ。俺はもう恋の七不思議をだいぶ疑っている。
「萩田さん、これで本当に解決するんですか?」
「なんだか僕も心配になってるけど……ここに書いてあるから」
「1つめが起きた場合は以下の順をたどれ。最後の7つめは学校の伝統にあり」
確かに書いてある。この書き方からして1つめが起きた場合の対処マニュアルがこれなのだろう。そして最後の7つめは未記入でヒントだけが残されている。
俺はため息をつく。まさか藁にもすがる思いですがったのがこれかと。もちろん他に手段はない。
「続き読む?」
「はい、お願いします」
「4つめは燃え落ちた花嫁の絵だね。彼女の花嫁姿を絵に描いたけど破局して彼氏がそれを焼却。それで、その絵を彼氏じゃなくて彼女が持つことでお互い結ばれる。だって」
「2からずいぶんと話が強引になってきましたね」
「もうネタ切れなんじゃない」
「麗ちゃんそういうこと言わないの。次は5つめだね」
「えっと、もう1人の間。保健室に運ばれてきた男子生徒がそのまま死亡したとき、男子生徒は隣に1人分のスペースが空いていた。それは飛び降り自殺した彼女が……あー、1に繋げてきましたね」
「精一杯のあがき」
「ですね水落さん。彼女がちょうど収まる大きさだった。保健室の奥のベッドで恋人同士で添い寝すると死後も結ばれると」
未来永劫とか死後とか、規模感が壮大になっている気がする。ネタ切れなくせに筆は乗っているようだ。
「最後の6つめは1人多い体育館の倉庫。部活の片づけをしていた男女が体育館の倉庫に閉じこめられて、次の日に発見された2人は錯乱していた。子供が走り回っていたとか、泣き声がと言っていて……子宝に恵まれる?」
読んでいて目を疑う。あまりにも露骨でこれはもう、そういうことだろう。やることをやっている。
「座敷童とか?」
「あ知ってます。あれですよね、幸せボーイですよね」
「幸せガールの可能性もあるよ」
雅と萩田先輩はずいぶんと楽しそうだ。察しがついているのは俺と、恐らく水落先輩くらいだろう。
「水落さん、最後のってそういうことですよね」
「セクハラだよ、聖くん」
「まだなにも言ってないじゃないですか!」
この反応は察している反応だ。俺はこれ以上のことは言わずに口をつぐむことにする。よけいな問題はごめんだ。
「とにかく、俺と雅で恋の七不思議をすればいいんですよね」
「そうだね、とりあえず最初は濡れたベンチ。終わったらどうだったか教えてよ」




