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5・黄昏時の第3教室

 俺が話を終えると教室は静まり返る。先輩が悩んでいる無音の時間が重くのしかかり、不安と期待は心臓をせかしなく働かせる。


「よし」


 俺はうつむいていた顔を上げて萩田先輩を見る。萩田先輩のやりきったと言わんばかりの表情に不安はみるみる消えていった。


「わかりました?」


「だいたいね。最後に場所だけ教えてくれるかな」


「場所……どこだった」


「確か……あれ?」


「おいおい雅が忘れるなよ。あ、トークに履歴あるかも」


「そ、そうだね」


「あれ……見えない……」


 そんなはずはない。俺はあの日のやり取りをなんども確認するが、場所に関する言葉は見事に文字化けしていた。


「雅は!」


「ボクも……」


 雅の声はか細く震えて、顔は青ざめていた。俺はそんな雅をどうにも放っておけなくて、雅の手にそっと自分の手を重ねる。どうしてしたのか分からない。けれど、無視することはできなかった。


「ありがと……」


 俺にしか聞こえないほど小さな声に、そっと手を優しく握って答える。


「これってなにが起きてるんですか」


「たぶん黄昏時の第3教室かな」


「それってなんですか?」


「学校の怪談だよ。第3教室で告白に失敗した女の子が自殺しちゃったから、告白を断ってはいけない。転じて第3教室が告白で絶対に成功する場所になったっていう怪談」


「放課後に行われたことから黄昏時、そして教室名を合わせて黄昏時の第3教室になったの。もちろん、そんな事件があった証拠はないからつくり話みたいなものなんだけど……」


「まさか現実に起きるなんてね、びっくりだよ」


 まるで図書室で見た話そのままだ。俺たちがこんなに目にあっているのも断ったからなのだろうか。


「萩田さん、ちなみにその黄昏時の第3教室で断ったらどうなるんです?」


「んー、どうなるって……今の雅ちゃんの状態がそうなのかなぁ」


「あるいは、断るという選択肢を消すため……とか。だって彼氏の死体(りそう)になれたのだからそうとも考えられるよね」


「あー……そうですね」


 すっかり忘れていたが今の俺は死体性愛者だった。生田目先生に話したとき触れなかったのは優しさかそれとも無関心か。あの先生なら後者だろう。


 俺が逸らしていた目線を前に戻すと、心なしか話す前より水落先輩の視線は冷たい気がした。


「それで、この状態を解決する方法ってあるんですか?」


「んー、あることにはあるかなぁ」


「そ、それはどんな方法なんですか?」


 萩田先輩のふくみのある返答に俺は恐る恐る聞き返す。解決方法が危険なのか、はたまた千載一遇の行為なのか。そういった最悪な何かであるのは間違いがない。


 萩田先輩は俺の視線に気づくとあからさまなつくり笑いをする。そして、じらすようにゆっくりと口を開いた。


()()()()()()を全部すること。なんだけどさ、七不思議って全部知ったら危ないでしょ」


「そうですね」


「それにほら、こういった前例もなくて実体験もないし。後はそう、誰かが勝手に言った―ていうのもあるからさ、絶対に正しいとも言えなくてね」


 つまるところ、恋の七不思議をしたところで絶対に成功するか分からないということだろう。もし恋の七不思議をして解決しなければ努力が水の泡になるだけでなく、七不思議を知った代償まで払う必要になる。それはかなりリスキーだ。


 それでも、俺にはやる覚悟がある。全ては、「死体性愛者」という嘘を撤回するため。そして、雅との永遠(カップル)を終わらせるため。


「萩田さん、俺やります。恋の七不思議を全部やります」


「ほ、本当にやるの?」


「俺はもう覚悟を決めてます」


「ちなみに雅ちゃんにもやってもらうことになるんだけど……」


「ボ、ボクも?!」


 震えも収まり、だいぶ落ち着いた雅は素っとん狂な声を上げる。目をパチクリとさせて、視線が俺と萩田先輩を行き来してることからかなり動揺している。


「恋は1人で実らないでしょ。相手がいてこそだからね雅ちゃん」


「でもですよ水落先輩。具体的になにするんですか。痛いこととか危険なこととか……あ、怖いのは本当にエヌジーですからね。絶対に無理(いや)です」


「安心して雅ちゃん、やることはいたって簡単。カップルがすることを学校でするだけだから」


「それが恋の七不思議なんですか?」


 これは予想よりはるかに簡単に終わりそうだ。七不思議といったら、夜の学校に忍びこんで一生分の恐怖体験をするものだと思っていた。


 それに比べて恋の七不思議はカップルがすることを学校でするだけ。腹をくくっていたのにもう少し腹回りを緩くしてよさそうだ。


「萩田さん、具体的になにするんですか?」


「んー、見たのがだいぶ前だからうろ覚えだけど……例えばハグとかキスとか添い寝とか」


「それはもう恋の七不思議じゃなくて恋のキューピットじゃないですか! なんだかやる気が湧いてきました!」


 さっきまでガクブル震えていたくせに雅はもうやる気満々だ。ちょろいやつめ。


「たしか部の活動記録にあったと思うんだ。だから探す時間をちょっともらっていいかな」


「はい、大丈夫です」


「ありがとう。じゃあ相談についてここまでにして、話題を変えていい?」


「いいですけど……なんですか?」

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