Scene2:初めての外 ――「乾いた空気」
洞窟の出口。
そこは、ずっと伝説のように語られてきた「境界」。
外に出たスライムは、生きて戻らない――
それが、この種の唯一の掟だった。
だがバーンは、
その掟を、ぬめる足で越えた。
陽光が、彼の体に突き刺さる。
それは光というより、灼けた刃だった。
半透明の身体が、じり……じり……と音を立てて乾く。
バーン:「――っ、これが……空の匂い、か……!」
空気が、重かった。
熱と風が交わるその中に、
草の匂い、土の匂い、血の匂い――命の匂いが混じっていた。
スライムの世界では決して嗅げない“濃度”だった。
草むらを進もうとするたび、
草の刃が体を裂く。
乾いた地面が、体液を吸い取っていく。
バーン:「……なんて、乾いてる……。
でも、これが……“生きてる”ってことか……?」
かつて洞窟で、ぬるく語られた「外の世界」。
それは夢であり、恐怖であり、神話だった。
バーンの目に今、初めてそれが“現実”として映る。
遠くに、冒険者の影が見えた。
金属の鎧が、太陽を跳ね返す。
それは、彼が生まれて以来――
何度も聞かされてきた**“強さの象徴”**そのものだった。
バーン:「……あれが、“強さ”か。」
自分の体がどんどん軽くなる。
いや、削られていくのだ。
水分が抜け、熱が奪われ、命の密度が薄くなる。
それでも、彼はにじり寄った。
乾いた音を立てながら、
ひと跳ねごとに、命を削るようにして。
バーン:「いいぜ……。踏まれる前に――
踏み返してやる……!」
風が吹いた。
透明な体が、その風の中で一瞬ゆらめき、
光の粒を散らした。
それは――
スライムが「世界を初めて見た瞬間」の、
最初で最後の輝きだった。




