Scene3:再開される会議 ――「議題:変わることについて」
洞窟の中央――ぬるく揺らめく湿気の中で、
長い静寂がひとしずく、音を立てて落ちた。
スラ・グレイが、ゆっくりと跳ね上がる。
灰がかったその体表には、夜明けの光がうっすらと映り込んでいた。
まるで外の世界が、少しだけ中へにじみ込んできたようだった。
「……議事録に残そう。
今日の議題――“変わることについて”。」
その言葉に、わずかな波紋が広がる。
ロジ=スラが静かにうなずいた。
彼の体内では、計算の泡がぷつぷつと弾けている。
「観測対象:外界に出たスライム、ピュレ。
状態:変化過程、観察中。」
ミュコは何も言わなかった。
古びた体を揺らし、ただ壁の苔を見つめている。
その沈黙は、否定ではなく、
長い時間を知る者の“祈り”のようにも聞こえた。
アメーバが、すっと壁際へ移動し、
柔らかな体で岩肌を撫でる。
そこに、淡い文字が浮かび上がる。
《議題:変化。 結論:観察中。》
記されたその行は、まだ乾かない。
光が当たるたび、わずかに揺らぎ、
新しい湿度のリズムを刻んでいた。
洞窟の中の空気は、昨日と同じ。
言葉の粘度も、沈黙の湿り気も変わらない。
――けれど、その“同じ”はもう、昨日とまったく同じではなかった。
ピュレが残した泡がどこかで弾け、
外の光がわずかに反射している。
そのきらめきが、議会の天井を照らした。
スラ・グレイは目を閉じ、静かに言葉を落とす。
「……議事を続けよう。
変わらないまま、変わっていく我々の話を。」
そして再び、会議が始まった。
ぬめりと響きのテンポは、確かに以前と同じだったが、
その中心には――“ひとり分の欠けた温度”が、
やさしく灯っていた。




