Scene2:一歩 ――「溶ける決意」
洞窟の出口は、朝の光でゆっくりと淡く染まっていた。
夜明けの湿気が薄れてゆき、
外の空気が、スライムには少しだけ“痛い”ほど乾いている。
その境界に、ピュレは立っていた。
身体が、虹色に透けている。
まるで光と湿度のあいだで、存在そのものが揺れているようだった。
後ろから、リム=ブルーがにじり寄ってくる。
彼の表面には、かつての旅の傷――細かなひびがまだ残っていた。
けれどその瞳(核)は、不思議な静けさに満ちている。
「形を変えても、戻りたくなったら戻ってこい。
……きっと、湿度はまだ残ってる。」
その声は、乾いた空気の中でもわずかに湿っていた。
ピュレは静かに揺れ、微笑むように核を震わせる。
「ぼく、少し溶けて、形を変えてみるね。」
そう言うと、彼はゆっくりと前へ進んだ。
ぬるり、とした音がひとつ。
境界を越え、外の光が彼を包み込む。
太陽の光に照らされ、ピュレの体が淡く散っていく。
泡のように、虹の欠片のように。
その一粒一粒が、風に乗って世界へ溶けていった。
誰も止めなかった。
古スライムたちはただ、黙って見ていた。
止められない――のではなく、
止めるという行為そのものが、すでに意味を持たなくなっていたのだ。
光の中、最後に見えたピュレの輪郭がふっと滲み、
それが完全に消える直前、洞窟全体がわずかにきらめいた。
――溶けるということ。
それは、消えることではなく、
新しい形に“変わっていく”こと。
そのぬめる決意だけが、
しばらく洞窟の中に温かく残っていた。




