Scene4:ぶつかり、溶ける ――「形のない戦い」
静まり返った洞窟の奥。
ピュレが、ふいに前へとにじみ出た。
その核が震え、青白い光を放つ。
「……ぼく、行くよ。」
その一言で、空気がざわめいた。
古スライムたちの体が揺れる。
重く、鈍い湿音が響く。
ミュコ:「やめるんじゃ、ピュレ。おぬしはまだ柔らかすぎる。」
ピュレ:「柔らかいままで、見たいんだ。」
彼の体が跳ねる。
外へ向かって――その出口へ。
だが、古スライムたちが壁のように立ちはだかった。
重い粘度が前方に垂れ、行く手を塞ぐ。
ミュコ:「外は乾いとる。乾きは痛い。
わしらはぬめっておれば、それでええ。」
ピュレ:「ぬめってるだけじゃ……何も変わらない!」
湿った空気が弾けた。
ピュレが勢いよくぶつかる。
ミュコの体が震え、周囲のスライムたちが巻き込まれる。
リム=ブルーが跳ねて前へ。
「やめろ! 彼は――!」
その声も届かない。
ロジ=スラが遠くから言葉を吐き出す。
「これは議論ではなく、粘度の衝突だ。」
瞬間――
溶けた。
ピュレも、ミュコも、リム=ブルーも、周りのスライムも。
互いにぶつかり、境界が崩れ、
体が混ざり合う。
温度と粘度が混乱し、核が触れ合い、
“誰が誰か”の輪郭が消えていく。
スラ・グレイ:「やめろ、誰も……!」
だがもう遅かった。
止まらない。
形も、名前も、声も――すべてが一時的に液化する。
音がする。
ぬるり、ぐじゅり、ぽちゃん。
**“混ざる音”**だけが洞窟に響く。
――どれほどの時間が過ぎたのか。
冷えた空気の中で、スライムたちはゆっくりと元の形に戻り始める。
それぞれが、また自分の輪郭を取り戻す。
ピュレの核が小さく光り、リム=ブルーが息をつくように揺れた。
ミュコも、ロジ=スラも、スラ・グレイも――
皆、そこにいた。
誰も欠けていない。
誰も壊れていない。
だが、何かが確かに変わった気配だけが残っていた。
それは形を持たない“戦いの跡”。
湿度でも、言葉でもない――ぬめりの記憶だった。




