第四幕:分裂する意志 ――「変わらないことへの反乱」Scene1:出発前の湿度 ――「泡立つ決意」
夜の洞窟は、呼吸を忘れたように静かだった。
天井から滴る水が、一定のリズムで小さな輪を描き、
暗闇の底に沈むように広がっていく。
その輪の中央で――
一匹のスライムが淡く光を放っていた。
ピュレ。
若く、透明で、まだ輪郭の定まらない存在。
その核が泡のように脈動し、光がゆらめくたびに、
洞窟全体がほんのわずかに明るくなる。
「ぼく……外を見てみたいんだ。」
声は水の中で生まれたように柔らかく、
けれどその一滴は、世界に確かに波紋を投げた。
奥の暗がりから、もう一つの光がにじむ。
リム=ブルー。
彼の体はかすかに乾いてひび割れ、
表面に残る亀裂が“外界”の記憶を語っていた。
「外は厳しい。」
「でも、見た者にしか感じられない“湿度”がある。」
その声には、熱でも冷たさでもない――
風の記憶が混じっていた。
ピュレは小さく震える。
泡がはじけ、再び形を取り戻す。
「行きたい。バーンさんみたいに、でも……蒸発はしたくない。」
言葉に、ほんの少し“温度”が宿る。
それは勇気の温度であり、未熟さの温度だった。
リム=ブルーは黙って頷いた。
彼の中にも、かつての“熱い衝動”がまだ微かに残っていた。
洞窟の空気が、そっと変わる。
湿度がわずかにずれ、
まるで見えない呼吸が世界を撫でたかのようだった。
議長スラ・グレイはその夜、姿を見せなかった。
けれど――
洞窟のどこかで、眠っている者たちの粘膜がざわめく。
光の粒が、音もなく伝播していく。
それは、まだ名もない革命の最初の泡だった。




