Scene4:議長の沈黙 ――「検討中」
洞窟の奥に、かすかな振動が広がっていた。
会議の空気はいつになく重く、
湿った沈黙が誰の体にもまとわりつく。
スラ・グレイが、ゆっくり跳ねて中央へ出る。
淡い光が、その半透明の体をぼんやり照らす。
「……諸君。」
声が響く。
小さく、だが洞窟の壁に反射して、何度も揺れた。
「議題を追加しよう。
『外の世界におけるスライムの可能性』。」
一拍置いて、
彼は静かに続けた。
「……ただし、検討中。」
アメーバが、粘膜の指で壁にゆっくり文字を描く。
その筆跡は揺れながらも確かに記される。
《新議題:外界とスライム。結論:保留。》
湿った音を立てて、最後の一滴が落ちた。
リム=ブルーは深く頭を垂れる。
彼の表面はまだひび割れていたが、
核の奥では淡い光が、絶え間なく瞬いていた。
その隣でピュレが、小さく揺れる。
小さな泡をいくつも生みながら、
まるでその光を映すように、淡く輝き続ける。
そして――
洞窟の天井の割れ目から、
一筋の光が差し込んだ。
それは太陽ではない。
もっと遠く、もっと抽象的なもの。
“物語”という、他者の火。
その光は、湿った世界に溶け、
スライムたちの体の奥で、
わずかに温度を変えていった。
スラ・グレイは誰にも聞こえないほどの声で呟く。
「……検討中、か。
悪くない言葉だな。」
その声は、水面の下に沈み、
いつまでも消えなかった。




