表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/19

Scene3:波紋 ――「希望という異物」

洞窟の空気が、少しだけ動いた。

リム=ブルーの言葉が消えても、

その残響はまだ、どこかで震えている。


ピュレが、小さく声を漏らした。


「ぼくも……見てみたい。

 外の光も、“本”ってやつも。」


その瞳(核)は、淡い青で揺れていた。

まるで洞窟の天井に映る反射光を、心の中に閉じ込めたように。


ロジ=スラの声が、静かに響く。

乾いた論理が、冷たい水のように流れた。


「それは“外のスライム”の話だ。

 我々ではない。

 他者の物語を羨んでも、自分は変わらない。」


その言葉は正しい。

洞窟で生き延びるための、

“生存の理屈”としては。


だが、ピュレの核はそれを拒まなかった。

ただ、少しだけ震えていた。


ミュコが、長い沈黙ののちに呟く。


「……だが、夢を見るのはええことじゃ。」


その声は、湿った苔のようにやさしく響いた。

リム=ブルーが微笑む。


「夢を見られる奴は、まだ湿ってる証拠さ。」


沈黙。

洞窟の天井から、水滴が一つ、落ちる。


その音が、不思議とやわらかく聞こえた。

誰もそれを破らなかった。


ロジ=スラ:「……湿り、か。」

ミュコ:「忘れとったんじゃろうな。夢も、湿りも。」

スラ・グレイ:「……そうだな。だが、忘れたものは、思い出せる。」


ほんのわずかに、空気が軽くなった。

洞窟の奥の水面が、光を受けて揺れる。

その揺らぎが――まるで、希望の形をしているように見えた。


それはまだ脆く、曖昧で、

触れれば壊れてしまう泡のような“希望”。


だが確かに、そこに湿度の変化が生まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ