第三幕:外界の影 ――「リム=ブルーの帰還」Scene1:外から来た者 ――「湿りを忘れた体」
洞窟の入り口に、
ぽたり、と水滴が落ちた。
その音に続くように――
ひどくかすれた声が響く。
「……入っても、いいか?」
スライムたちは、一斉にぬめりを止めた。
入口の向こう。
そこには、一匹の青く透き通ったスライムが立っていた。
だが、ただの青ではない。
彼の体表には、細かいひびが走り、
光を受けては脆くきらめいている。
動くたびに、乾いた音がする。
――“ぴしっ”。
まるで、湿りを忘れたゼリーのようだった。
スラ・グレイが、その姿を見て小さく跳ねる。
「リム=ブルー……?
まさか、生きて外から戻ったのか。」
その名を聞いて、洞窟の奥がざわめいた。
ミュコ:「あやつ、昔に出て行ったはずじゃろ。
まだ蒸発しておらんとはのう。」
ロジ=スラ:「観測記録では三十七周期前に失踪扱いだ。
……統計的にありえない。」
リム=ブルーは、ふらりと前に進んだ。
足跡のように、小さな滴を残しながら。
「外の世界は……広い。
でも、意外と湿ってたよ。」
その言葉に、誰もが目を見開く。
スラ・グレイ:「湿ってた……?
あそこは、乾燥と陽光しかない死地のはずだ。」
リム=ブルーは、ひび割れた体を震わせて笑った。
笑い声も乾いて、かすかに砕ける。
「ああ、そう。
“物語”の中ではね。」
その一言で、
洞窟の空気が、一瞬だけ変わった。
ミュコが首を傾げる。
「物語……とは、なんじゃ?」
ロジ=スラが眉を寄せる。
「新種の湿度か?」
スラ・グレイは、ただ静かにリム=ブルーを見つめていた。
長い時間のなかで、初めて帰ってきた“外”の匂いを感じながら。
リム=ブルーは、ひとつの滴を落とした。
その滴が地面に触れると、ほんの少しだけ光が走る。
「湿りは……まだ、どこかにある。
それを見てきたんだ。」
その声は、乾いているのに、どこか潤っていた。
そしてスライムたちは知る。
――自分たちの外にも、“世界”が存在することを。




