Scene5:熱の余韻 ――「焦げた香り」
会議が終わったあと、
洞窟の奥には、まだ微かに焦げた香りが残っていた。
それは煙でも、炎でもない。
ただ、空気の奥に溶け込んだ“何かの名残”だった。
誰も、それを掃除しようとはしなかった。
なぜか、それを消してしまうのが、いけないことのように思えたのだ。
ピュレが、そっと前に出る。
身体の底で小さく光を灯しながら、
黒く乾いた膜の断片に、触れる。
ぴとり、と音がして、
その瞬間――
わずかに、指先(のような部分)がぬるくなった。
ピュレ:「……少し、あたたかい。」
ミュコが、静かに声を漏らす。
ミュコ:「それは、彼の熱じゃよ。
わしらは冷たいままじゃが、あやつだけは燃えた。」
ロジ=スラが続く。
ロジ=スラ:「熱は消えても、跡は残る。
理論的には、エネルギー保存則に基づく現象だ。」
ミュコ:「……理屈で言うな。」
ふたりの言葉の間で、
ピュレはただ、手を離さずにいた。
焦げの下には、柔らかい土があり、
その中に――ほんの少しだけ、光が染み込んでいる気がした。
スラ・グレイが、静かに言葉を落とす。
スラ・グレイ:「うん……
そして、それが“ぐずぐず”を変えるのかもしれない。」
ピュレ:「ぐずぐず……?」
スラ・グレイ:「止まってるようで、動いてる。
変わらないようで、変わってる。
そういう“ぬるさ”の中に、変化は生まれるんだよ。……たぶんね。」
洞窟の奥で、しずくが一粒、落ちた。
焦げた香りと、水の音と、
それを包むぬるい静寂――。
誰も知らないうちに、
革命にならない革命の、最初の芽が、
そこに、しっとりと息づいていた。




